呪厄令嬢は幸運王子の【お守り】です!〜外堀陥没で溺愛ルートのできあがり〜

古森きり

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 私は初めて恋をした。
 人生初めてのパーティーで出会った、この国の王子様に。
 誰もが憧れ、私には永遠に無関係のはずの人。
 呪いと祝福が私とあの方を結びつけた。

 城へ転移して、私があたりを確認するよりも先にミリィたちが私を見つけて抱き締めてくれる。
 よほど心配させてしまったのだろう。
 けれど、それよりも私が気になるのはイングリスト様だ。
 三人に「イングリスト様は」と聞くと、満面の笑顔で「こちらです!」と案内してくれた。
 その笑顔を見ただけで、彼の方が目覚めているのだと確信する。
 城の人たちも私の姿を見ると、一瞬驚くけれど笑顔になって拍手してくれた。
 中には「お帰りなさいませ」とか「よくぞお戻りに!」と声をかけてくれる人もいる。
 今までみたいに、「ひぃ!」「呪厄令嬢だ」「隠れろ!」とか言われない。
 私の呪いが解呪されたことは、城の方誰もご存じないだろうに。

「おお! エーテル嬢、戻られたか!」
「ローズレッグ様! イングリスト様は……」
「エーテル!」

 王家の寝所の側まで来ると、ローズレッグ様が兵を連れて現れた。
 そして、私が一番聴きたかった声が、私の名前を呼ぶ。
 目の前がキラキラ輝いて眩しい。
 でも、目を細めることができない。
 この方のご無事を、私はちゃんと自分の目で確認したかった。
 イングリスト様。
 寝衣姿のまま、裸足で、私に駆け寄ってきてくださる。
 よかった、無事に目を覚ましたんだ……!

「…………」

 え? 待って? ね、ま、き……?
 パジャマ姿……?

「エーテル! ああ、よかった! 君が試練を受けに行ったと聞いて——あれ? エーテル? エーテル? どうしたんですか!? エーテル!?」

 キラキラ輝く私の初恋の人の、寝衣姿。
 そんなの……そんなの……!
 刺激が強すぎる!!

「ふぅ」
「エーテル!?」
「エーテル嬢ーーー!? だ、誰か! エーテル嬢が倒れた! すぐに医者を!」
「お嬢様ー!」



 ***



 初恋を自覚して、その初恋の人の寝衣姿に気絶して三日。
 私は熱を出して、未だベッドから起き上がるのを禁止されている。
 ミリィ、ノリガ、エマの三人に甲斐甲斐しくお世話をされながら、私は溜息を吐く。
 ああ、早くナジェララ様のところへ行きたいのに……ちっとも熱が下がらない。

「まあまあ、本当に驚きましたわ。でも、疲労によるものでまだよかったです」
「心配をかけてごめんなさい。あの、ミリィ……イングリスト様は……?」
「離れで体調を整えておられますよ。お嬢様のお手紙を何度も読み返してらっしゃいます」
「うふふ! よかったですね、お嬢様!」
「っ」

 よかった、のだろうか?
 まあ、よかったのだと思う。
 私の呪いは解呪されたけれど、婚約は破棄されずに私は今もイングリスト様の別室の隣の部屋に置いてもらっている。
 呪いのない私なんてお側にいる価値はないのだが、王妃スティーラ様やローズレッグ様、国王陛下、アンラージュ様とそのご実家が後ろ盾となり婚約は続行。
 イングリスト様が特にそれをお望みくださったと聞いている。
 魔女に呪いをかけられた原因は私のせいだからと、ピーナシア侯爵家他いくつかの有力貴族は私とイングリスト様の婚約解消を進言したそうだけれど、王家全員がそれを却下。
 魔女の呪いよりも、私がイングリスト様のために女神花の塔の試練を女性で初めて達成したことの方が遥かに偉業であると評価されたのである。
 しかも、峠の魔女ナジェララ様に頼めばイングリスト様の祝福は周りの人を巻き込むことがなくなるとわかった。
 本来ならば魔女に呪いをかけてほしい、なんて正気の沙汰とは思えないが、ナジェララ様本人がイングリスト様の祝福の弊害をなんとかしてくださるとおっしゃったのだ。
 気まぐれで乱暴で理不尽な魔女が。
 しかも、対価は私とイングリスト様が魔女に会いに行ってお茶して帰ってくるだけという。
 王宮は、その話にざわついたそうだ。
 魔女と和解したとも取れる、その条件。
 実際私はイングリスト様に呪いをいただいたあとも、定期的に通うつもりだ。
 魔女は女神様と同等の力を有する。
 そんな魔女との交流は、国の益になるのではないか、魔術の進歩に貢献するのではないか、と王宮魔術師たちは目を輝かせているという。
 しかも、その話が他国にも漏れて伝わつており、隣国のいくつかから「もし魔女との交流が叶ったら相談したいことがある」という打診がちらほら……。
 皆さん魔女にいったいどんな相談があるのだろう?
 なんだか、私の知らないところで話がとても大きくなっているんだけど……。

「今日の便箋はこちらでよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます、エマ」

 そして、私とイングリスト様は会えない間お手紙のやり取りをしている。
 同じ王宮の中だけれど、私が呪いを失ったためにイングリスト様は自ら再び城の中の離れに赴かれ、自主隔離されているのだ。
 私はそれがとても寂しいことと知っている。
 だからせめて、お手紙を……と毎日書いているのだ。
 私の熱が下がったら、イングリスト様とナジェララ様のところへ行きましょうね、って……そういうお話をしている。
 あまりお待たせしたら、また痺れを切らせてやってきてしまう。
 早く元気にならなければ……。


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