“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり

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34話

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 ちなみにパンは今朝、アーキさんが焼いたものだ。
 卵もマチトさんが今朝、宿の裏にある鶏小屋から新鮮なものを「オムライス用に」とくれたもの。
 裏の畑はルイが緑の魔石を作って埋めてくれたので、私のような素人の整備でもちゃんとレタスやトマトが実ってくれた。
 魔石の力すごい。
 数日で収穫できるようになるんだもの。
 これが緑の魔石パワーか、と若干引いたぐらい。

「なるほどねぇ」
「女将、女将、それあたしも食べてみたい!」
「だーめよ。パンを提供したアタシ限定のメニューだもの。食べたかったら今度来る時、材料持ち込みだよ」
「えー!」
「すみません、うち、始めたばかりで……。物々交換になるんです。必要な材料はあちらに書いてあるので……」

 と、入口の方の大きな看板を指差す。
 そこにはメニューと、そのメニューを食べるために必要な材料が書いてある。
 それを持ってくれば、持ち込んでくれた材料で料理を作る、というわけだ。

「どれどれ……ふぅん、最低三種類の素材を持ち込まなきゃダメなのかぁ」
「まあ、普通そうじゃん?」
「でもちょっと品数多いね」
「けど、この味のためなら頑張っちゃうかなぁ、うち」
「今度来る時持ってくるよ」
「だから今日はサービスしてぇ!」
「え、ええええ……!」

 三人の従業員さんたちに手を合わせられる。
 この人たちには何度か……私の意識がない時含めてリオのお世話をしてもらったことがあるのよね。
 この三人と、今アーキさんとマチトさんの代わりに宿を切り盛りしていてくれているタッチさんとマキュージョさんは、リオのお世話を奪い合うほどの人々。
 タッチさんとマキージョさんはフルタイムで働いているから、お世話時間表まで作ってくれていた。
 なので、恩返しというか、お世話になったお礼はしたい。

「わかりました。今日は開店日なのでサービスします。その代わり、宣伝お願いしますね」
「「「任せろ!!」」」

 大変頼もしい返事をいただきました。

「サンドイッチ三つ!」
「うちもカフェオレ飲みたい!」
「あたし紅茶!」
「はーい」

 追加の注文を受けて厨房に戻る。
 途端にリオの泣き声。
 え、オムツもミルクも終わってるのに!!

「俺が見てくるよ」
「あ、ありがとう、ルイ」
「リオくーん! どうしたのかなー!」
「待て! あたしがリオくんのお世話する!」
「うちだよ!」
「「…………」」

 お客さんが赤ちゃんのお世話を奪い合うあの光景よ……。
 あちらは任せて大丈夫っぽい。

「ティータ、手伝うね」
「ありがとう」

 リオのお世話をお客さんに任せて……まあ、それもちょっとどうかと思うけれども——もはや奪い合いなのでなにも言うまい。
 それよりも、ルイに聞きたいことがあったのよ。

「ねえ、ルイ。さっき『スキル』って言いながら料理していなかった?」
「ああ、うん。【スキルコピー】のスキル」
「…………。な、なに、それ?」

 スキルコピー?
 初めて聞く。

「一人につき一つだけ、相手のスキルをコピーできるんだ。コピーは一度しかできないんだけど、完コピできたら自分でも覚えることができる。まあ、相性にもよるけれど」
「え、それじゃあルイは私のスキルをなにかコピーした、ってこと?」
「[料理基礎]のスキルをコピーさせてもらったんだ。おかがで[料理基礎]と[料理]のスキルを覚えられたよ」
「えぇ……? そ、それも『特異スキル』? ルイ、あなた一体いくつ『特異スキル』を持ってたの?」
「んー、【経験値五倍】と【スキルコピー】と【鑑定】と【ステータス表示】と【聖剣】は『特異スキル』って言われたな」
「えっ」

 ギョッとした。
【ステータス表示】!?
 それって、コバルト王国の国王陛下が、国民や召喚してきた者のステータスを管理するため代々血筋で受け継いできたという王家特有の『特異スキル』……!
 それをルイは、単体で使えるというの!?
 それに【聖剣】!?
 なにそのスキル!
 それってスキル!? 魔法ではなく!?
 魔法であっても聞いたことないけど!

「な、なんでそんなにたくさん『特異スキル』を持ってるの!? ふ、普通、召喚者が与えられる『特異スキル』は一つだけなんじゃないの!?」
「最初は【経験値五倍】だけだったよ。レベルが上がってから覚えたんだ」
「っ!」

 な、なるほど。
【経験値五倍】は文字通り、普通の人よりもあらゆるレベルが上がりやすい。
 それで新たな『特異スキル』を覚えていったのね。

「ティータのステータスも見ようと思えば【鑑定】で見れるよ? 見てあげる?」
「……じゃ、じゃあ、あとで……」
「うん。じゃあひとまず料理に集中しよう」
「ええ」

 とはいえ。

「お待ちどうさま!」

 シュババババババババ、と私の倍速で……もうなんか手元が見えない速度でサンドイッチを作り上げるルイ。
 私のスキルをコピーした、と言っていたけど、私あんなに見えない速度で料理なんかできませんが……?

「あ……」

【経験値五倍】……!
 そうか、これがルイの『特異スキル』!
 一度のことで五倍の経験値が入るから、あっという間にレベルアップして達人級になるんだ。
 くっ、どうして私の[料理]にしたの……!



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