打倒! ドMヒロインVS悪役令嬢なわたくしの奮闘記ですわ!

古森きり

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第1話ですわ!

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 わたくしの名はキャロライン・インヴァー。
 インヴァー公爵家の令嬢ですわ!
 王立貴族学院——わたくしはここで二年間、貴族としての最低限な教養と、婚約者である王子ハイル様との仲を深めなくてはいけません。
 しかし、入学式当日、わたくしはとある令嬢に突き飛ばされ、噴水の縁に後頭部を強打。
 思い出したのですわ!

 この学園がMMORPG『ディスティニー・カルマ・オンライン』のストーリーモード、初期で遊べる長期チュートリアルシナリオの中に登場するもので、キャロライン・インヴァーは主人公プレイヤーを虐める悪役令嬢であると!

 ええ、なのでまずはMMORPG『ディスティニー・カルマ・オンライン』についてご説明致しますわ。
 基礎知識ですわよ。
『ディスティニー・カルマ・オンライン』は2xxx年からサービスが開始された、いわゆるバーチャルリアリティゲーム。
 主人公プレイヤーは、ゲーム内でいくつかのシナリオをクリアして運命の相手……恋人だったり親友だったりその関係者だったりを手にかけ、その罪故に世界から追われる立場になりますの。
 一見ダークな感じですが、そのあとはかなり自由度が高く、世界に復讐するべく無双したり、恋人または親友、その他関係者を手にかけなければならなくなった理由を探るべく追加シナリオを体験したり、身を隠して商売や冒険者として活躍したりできますわ。
 王立貴族学院は主人公プレイヤーが最初にプレイする事になるシナリオの一つで、これは主人公プレイヤーの身分を『貴族』、性別を『女性』にした場合選択可能になるシナリオなんですのよ。
 このシナリオで『貴族』『女性』となった主人公は、王太子である『ハイル・エレメアン』様と恋人同士になります。
 しかし、わたくしキャロライン・インヴァーはハイル様の婚約者。
 ええ、そうですわ。
 ここまで話せばお分かりになりますわよね?

 …………『貴族』『女性』のルートで主人公に殺られるのはわたくしですわ。

 しかし、奇妙なお話ですわね?
 キャロライン・インヴァーはNPCのはずですわよ?
 どうして、わたくし…………。


「……ィン…………キャ……ロ……イン……」


 誰?
 誰の声?
 わたくしを呼ぶのは……。

「…………ハイル様……」
「良かった、目が覚めたか? 全くドジだな、君は……」

 そんな事を仰りながら、目に涙をためてわたくしを覗き込むハイル様。
 額に張り付いた髪を指先で梳いてくださる。
 でも、感触はない。
 頭に包帯が巻かれているのだわ。
 ああ、けれど……頭を撫でられるのは気持ちがいい。
 その心地よさに目を閉じて、でもいつまでもそうしていられなくて目を開ける。
 優しい微笑みを浮かべたハイル様。
 淡い緑色の髪に、金色の瞳。
 ゲーム通りの整ったお顔立ち……。
 わたくしの、大好きな……ハイル様だわ。

「……側にいてくださいましたの……?」
「当然だろう? 君は俺の婚約者なんだから」
「……嬉しい……嬉しゅうございます……ありがとうございます、ハイル様……」

 頰に添えられた手に、手を添える。
 頭が痛いですわ。
 でも、それも気にならないくらい幸せですわ。
 ハイル様……ああ、わたくしハイル様が大好きなのですもの。
 不思議ですわ。
 この世界はゲームの世界。
 それがなんとなく認識できるのに、わたくしはわたくし……キャロライン・インヴァーという意識が強い。
 けれど、シナリオ……主人公……死亡エンド……。
 全てこれから起きる事が分かる。
 わたくしは………………死ぬのですわね。

「……」
「キャリー?」

 キャリー。
 わたの愛称ですわ。
 家族と、そしてハイル様だけがわたくしをそう呼びますの。

「すみません……まだ少しぼんやりしていましたの」
「そうか。今日はもう帰って休んだ方がいいな。馬車で帰れそうか? 無理そうなら……少し歩くが城に泊まれるように手配する」
「ありがとうございます。大丈夫ですわ。自宅に帰って休みます」
「そうか。明日は無理しなくていいからな?」
「はい」


 ハイル様。
 お可哀想なハイル様……。

 ハイル・エレメアン様はこの国の第一王子としてお生まれになり、王太子として立派にお勤めを果たされてきた。
 でもこの国は今、貴族の方が権威が強い。
 特にわたくしの祖父と父。
 だから、ハイル様の父上、この国の国王陛下はハイル様とわたくしの婚約を認めざるを得なかったのだ。
 ハイル様もその辺りの事はよくよくご存じ。
 わたくしの『ご機嫌取り』の為に、あのように優しくしてくださるんだわ……。

「…………」

 からんからんと馬車が進む。
 わたくしが怪我をして帰ったら、お祖父様やお父様はハイル様を責めるかもしれないわね。
 でも、ハイル様は悪くない。
 悪いのはわたくしを突き飛ばした主人公プレイヤー
 その辺りを説明すれば、お父様達の息のかかった貴族のご子息ご息女が主人公プレイヤーを排除にかかるだろう。
 それなのに、その上で主人公プレイヤーにはハイル様との恋愛シナリオをこなさねばならないのだから大変ですわね。
 ……そう、恋愛シナリオ。
 ハイル様と。


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