47 / 50
修羅場 2
しおりを挟む「あ、茉莉花ちゃ――」
「なんでアンタここにいるのよ。椎名さんにベタベタして。なにしてんの」
「え? 椎名さんを次の旦那さんにしようかなって口説いているの」
「ああ、アンタ他人のオトコ奪うの好きだもんね。でも、椎名さんは誰のものでもないわよ」
「えー? 茉莉花ちゃんのじゃないの?」
キョトン、と首を傾げるので、俺の頬に瓜の頭がゴツッとぶつかる。
近、ウザ……。
だが、玄関ホールに入ってこようとした茉莉花と――六月にデビュー予定の彩香師カオリだ。
茉莉花の昔ながらの友人で、茉莉花が企画書を持ってきたライバーイメージ香水を発注した香水師。
実は大手箱の箱推しらしく、Vtuberに造詣が深くてらっしゃった。
茉莉花とは高校時代からの友人で、いまだに交友があったという。
時折大手の箱ライバーとコラボする茉莉花の声で、中身に気づいた彼女は香水作りに来た茉莉花にズバッと指摘。
新人連続デビュー計画を聞いて「私もやりたい」と手を挙げた。
つまり彩香師カオリは、茉莉花経由で『りゅうせいぐん☆』所属になったちょっと特殊なライバーなのだ。
ガワも大人の女性って感じで、実際の職業をそのまま設定として適応して歌とゲーム、トークとトークテクニック、雑学などを配信していく予定だ。
今日は茉莉花のラジオ番組のゲストとしてやって来たのだろう。
時間、かなり早いからデビュースケジュールの話を金谷とする予定もあったのだろうし。
だから、茉莉花と彩香師が連れ立って事務所に来たのはなにも問題はない。
用もないのに事務所に来た――のは、百歩譲って別に構わないけれど、まだ婚姻関係中なのに「離婚するから次の旦那を探してる」とか言ってる瓜がおかしい!
「でも、茉莉花ちゃんは椎名さんのこと好きじゃん? デビューしてからずっと好きだよね? 全然靡いてくれないんだしぃ、諦めてアタシに譲ってよぉ」
「だから、椎名さんは誰のものでもないわ。それに、椎名さんは事務所所属のライバーは全員仕事仲間だと思っている。仕事の仲間だから、恋愛関係にはならない。そういうポリシーがある人なの。わたしは――そういう椎名さんを尊敬している」
腕を組んで、真っ直ぐに瓜を睨む茉莉花。
その姿が心底かっこいい。
そして、その視線に彼女の言う“尊敬”以外にも含まれるものに、気づかないわけがなかった。
ああ、そうだな。
俺もそう思ってるし、俺も、茉莉花のこういうところを心の底から尊敬している。
「ふーーーん。そういうトコロが好きなんだぁ?」
「っ」
だが、瓜には通用していない。
無理やり引き剥がすべきなのか、不快感を隠さずに見下ろす。
すると、黙っていた背後の妹が口を開いた。
「お、お兄ちゃん! 私、鬼瓦パスタのランチが食べたい!」
階段から駆け降りて来て、瓜と反対側の腕に抱き着いてきたアマリ。
そのまま引っ張られて「奢るから、早く!」と玄関から連れ出される。
まるでその瞬間を狙ったように、茉莉花と明星が瓜の両側を掴む。
するん、と引き剥がされて、俺は自由の身になった。
「あ」
茉莉花が微笑む。
明星が難しい表情。
玄関扉をニコニコの笑顔で閉める彩香師。
「――――」
ああ、しまったなぁ……と思ってしまった。
茉莉花は、本当にずっと我慢していたんだな。
俺が同僚としてしか君を見ていなかった――女性として見ないようにしていたから、君は俺のそういうところを察して想いを胸にしまってくれていたのだ。
気づかないようにしていた。
本当に不義理だったなぁ、と思いながらアマリに引っ張られて街中に進む。
俺は、どうしたらいいんだろう。
「アマリ、助けてくれてありがとな」
「お兄ちゃん……」
かなり無理やり飛び出してきた自覚があるのか、不安そうだ。
その頭をぽんぽん、と撫でて笑いかける。
「実はさ、明星と連絡先交換してランチに行く予定だったんだよね、月曜日に」
「え? 明星さんと……!? じゃあ、明星さんがイメチェンしたのは――」
「うん。でも、茉莉花はずっと我慢してくれていたんだよな」
「…………」
アマリから聞いた、茉莉花の気持ち。
俺はずっと「まさかぁ」と思っていた。
だって、あんな美人に俺は釣り合わないって。
そうじゃない、俺は茉莉花とも明星とも、ちゃんと向き合わなければならない。
「お兄ちゃん……」
「俺は正直、お前と織星の方が気になって仕方なかったんだけどさ……自分のこともちょっと真面目に考えてみようと思う。いいかな?」
「うん。うん……! もちろんだよ! お兄ちゃんはずっと私のことを守ってくれていたんだもん。私、これからは一人でも生きていける。だって私、もうお兄ちゃん以外にも頼れる人たちがたくさんいるもん」
「うん、ありがとう、アマリ」
額を押し当て、街中なのに抱き締め合う。
大事な妹、俺の可愛いアマリ。
頭を撫でて、「気をつけて帰るんだぞ」と言って駅まで送ってから、踵を返して事務所ビルに戻った。
まだ事務所にいるだろうか。
まだいてほしい。
ちゃんと話をする。
俺は、君と――
0
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる