リスナーは壁〜超陽キャのVtuberがド隠キャVtuberに恋をした〜

古森きり

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修羅場 2

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「あ、茉莉花ちゃ――」
「なんでアンタここにいるのよ。椎名さんにベタベタして。なにしてんの」
「え? 椎名さんを次の旦那さんにしようかなって口説いているの」
「ああ、アンタ他人のオトコ奪うの好きだもんね。でも、椎名さんは誰のものでもないわよ」
「えー? 茉莉花ちゃんのじゃないの?」
 
 キョトン、と首を傾げるので、俺の頬に瓜の頭がゴツッとぶつかる。
 近、ウザ……。
 だが、玄関ホールに入ってこようとした茉莉花と――六月にデビュー予定の彩香師カオリだ。
 茉莉花の昔ながらの友人で、茉莉花が企画書を持ってきたライバーイメージ香水を発注した香水師。
 実は大手箱の箱推しらしく、Vtuberに造詣が深くてらっしゃった。
 茉莉花とは高校時代からの友人で、いまだに交友があったという。
 時折大手の箱ライバーとコラボする茉莉花の声で、中身に気づいた彼女は香水作りに来た茉莉花にズバッと指摘。
 新人連続デビュー計画を聞いて「私もやりたい」と手を挙げた。
 つまり彩香師カオリは、茉莉花経由で『りゅうせいぐん☆』所属になったちょっと特殊なライバーなのだ。
 ガワも大人の女性って感じで、実際の職業をそのまま設定として適応して歌とゲーム、トークとトークテクニック、雑学などを配信していく予定だ。
 今日は茉莉花のラジオ番組のゲストとしてやって来たのだろう。
 時間、かなり早いからデビュースケジュールの話を金谷とする予定もあったのだろうし。
 だから、茉莉花と彩香師が連れ立って事務所に来たのはなにも問題はない。
 用もないのに事務所に来た――のは、百歩譲って別に構わないけれど、まだ婚姻関係中なのに「離婚するから次の旦那を探してる」とか言ってる瓜がおかしい!
 
「でも、茉莉花ちゃんは椎名さんのこと好きじゃん? デビューしてからずっと好きだよね? 全然靡いてくれないんだしぃ、諦めてアタシに譲ってよぉ」
「だから、椎名さんは誰のものでもないわ。それに、椎名さんは事務所所属のライバーは全員仕事仲間だと思っている。仕事の仲間だから、恋愛関係にはならない。そういうポリシーがある人なの。わたしは――そういう椎名さんを尊敬している」
 
 腕を組んで、真っ直ぐに瓜を睨む茉莉花。
 その姿が心底かっこいい。
 そして、その視線に彼女の言う“尊敬”以外にも含まれるものに、気づかないわけがなかった。
 ああ、そうだな。
 俺もそう思ってるし、俺も、茉莉花のこういうところを心の底から尊敬している。
 
「ふーーーん。そういうトコロが好きなんだぁ?」
「っ」
 
 だが、瓜には通用していない。
 無理やり引き剥がすべきなのか、不快感を隠さずに見下ろす。
 すると、黙っていた背後の妹が口を開いた。
 
「お、お兄ちゃん! 私、鬼瓦パスタのランチが食べたい!」
 
 階段から駆け降りて来て、瓜と反対側の腕に抱き着いてきたアマリ。
 そのまま引っ張られて「奢るから、早く!」と玄関から連れ出される。
 まるでその瞬間を狙ったように、茉莉花と明星が瓜の両側を掴む。
 するん、と引き剥がされて、俺は自由の身になった。
 
「あ」
 
 茉莉花が微笑む。
 明星が難しい表情。
 玄関扉をニコニコの笑顔で閉める彩香師。
 
「――――」
 
 ああ、しまったなぁ……と思ってしまった。
 茉莉花は、本当にずっと我慢していたんだな。
 俺が同僚としてしか君を見ていなかった――女性として見ないようにしていたから、君は俺のそういうところを察して想いを胸にしまってくれていたのだ。
 気づかないようにしていた。
 本当に不義理だったなぁ、と思いながらアマリに引っ張られて街中に進む。
 俺は、どうしたらいいんだろう。
 
「アマリ、助けてくれてありがとな」
「お兄ちゃん……」
 
 かなり無理やり飛び出してきた自覚があるのか、不安そうだ。
 その頭をぽんぽん、と撫でて笑いかける。
 
「実はさ、明星と連絡先交換してランチに行く予定だったんだよね、月曜日に」
「え? 明星さんと……!? じゃあ、明星さんがイメチェンしたのは――」
「うん。でも、茉莉花はずっと我慢してくれていたんだよな」
「…………」
 
 アマリから聞いた、茉莉花の気持ち。
 俺はずっと「まさかぁ」と思っていた。
 だって、あんな美人に俺は釣り合わないって。
 そうじゃない、俺は茉莉花とも明星とも、ちゃんと向き合わなければならない。
 
「お兄ちゃん……」
「俺は正直、お前と織星の方が気になって仕方なかったんだけどさ……自分のこともちょっと真面目に考えてみようと思う。いいかな?」
「うん。うん……! もちろんだよ! お兄ちゃんはずっと私のことを守ってくれていたんだもん。私、これからは一人でも生きていける。だって私、もうお兄ちゃん以外にも頼れる人たちがたくさんいるもん」
「うん、ありがとう、アマリ」
 
 額を押し当て、街中なのに抱き締め合う。
 大事な妹、俺の可愛いアマリ。
 頭を撫でて、「気をつけて帰るんだぞ」と言って駅まで送ってから、踵を返して事務所ビルに戻った。
 まだ事務所にいるだろうか。
 まだいてほしい。
 ちゃんと話をする。
 
 俺は、君と――

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