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家を買う(3)
「ああ、外で話し込んで申し訳ない。こちらの家に入りましょうか」
「あ、ああ。よろしく頼む」
やはり寒波はこの近辺だこでなく、この地方を悩ませる問題なのだな。
セッカ先生が対策を講じてなんとか凌いでいる……という状況か。
隣国にも及んでいるとなると、五大英雄の誰かが対応すべきではないか?
いや、とも思うが五大英雄は封印核のある国を守らねばならない。
永久凍国土に封印核があるわけではないから、身軽になった私が調べるのが適任か。
しかし、まあ、まずは家だな!
「こちらの家はかなり狭くなっております。元は商人の屋敷でした。貴族との商売に使っていたとのことで玄関ホールと談話室は大変豪勢な作りですが、それ以外は書斎と寝室、浴室とクローゼットのみであまり広くはございません。食堂もございませんので、ダイニングで食事を取っていただくことになるかと思います。寝具と談話室の家具一式は残っておりますが、それ以外はヨーデルのところで購入していただくことになるかと」
「その話は聞いている。ええと……」
一階は左がダイニング、右が応接室。
どちらもかなりの広さ。
玄関ホールから階段が通じており、階段の下にはトイレ。
二階に上がると寝室、クローゼット。
隣が浴室と書斎。
一応、廊下を挟んだ反対側にゲストルームと物置があった。
庭に出てみると手入れのなされていない花壇や畑と温室と小さめの倉庫。
一人で暮らすには広いが、貴族街の二軒に比べるとかなり住みやすそうだな。
「実はセッカ先生に薬草師の仕事を紹介されたのだが、薬草師になるならこの温室や畑はやはりあった方がよいだろうか?」
「おや、そうなのですか? ……ああ、アマルさんもそれなりに高齢でしたしなぁ……」
「最近電球を替えようとして骨折したって話でしたもんね」
「そうですね。薬草師でしたら、ここの物件は特におすすめかと。以前こちらの家を持っていた商人は、薬師も兼ねていたそうですから」
それでこの庭の広さらしい。
倉庫の中には肥料も残っていたし、薬草についての本もボロボロだが置いてある。
なるほど、私にうってつけかもしれん。
「こちらを第一候補に考えたい」
「かしこまりました。では残りの物件を見てから、改めてご検討を」
「よろしく頼む」
その後、市民街の二軒の物件を見たが、三番目の家よりも条件のよいところはなくあの物件を買うことに決めた。
談話室と寝室のベッド枠は残されていたがそれ以外はなにもない。
トイレの紙も、調理器具もベッドのマットレスも。
そこでそのまま家具屋のヨーデルのところへ案内されて、家具の発注。
今日にでも使うベッドマットとシーツ、布団、寝室のカーテンを購入。
それ以外にもダイニングテーブルや椅子も見せてもらうが、ピンとくるものがない。
こだわりはないのだが、どれも大きなものばかりでわが家となるあの家のダイニングに入れると狭くなってしまう。
なので、少し小さなものを発注して作ってもらうことになった。
いわゆるオーダーメイド。
貴族なら割と当たり前のことだが、この町では木の伐採から行うため時間もかかるし珍しいそうだ。
なんだか申し訳がない。
外壁から出るのは危険も伴うのに……。
「あとは書斎の方に本棚や庶務机や椅子なども購入されるとよろしいかもしれませんね。食器などは隣の陶器店にありますので、そちらもお立ち寄りいただくのがよろしいかと」
「だいたいのものがこの辺りで揃うのだな」
「ええ。風呂桶なども金具屋にあるかと思いますよ。金具屋は向かいの黄色い屋根ですね」
「おお……ありがとう。寄ってみようと思う」
町の人、本当にみんな親切だ。
お礼を言って、言われた場所に立ち寄ってみる。
ある程度のものを購入して、魔法鞄にしまう。
今夜寝る分にはこれで問題はないな。
「アリアさん、今夜の夕飯は決まっているの? 調理器具を買っていかないみたいだけれど」
「あ、えーと……」
私は紋章のおかげで食べなくとも死ぬことはない。
金具屋の女将に心配そうな顔をされたが、調理器具まで買う必要性を感じないんだよな。
ベッド……睡眠も本当は不要なのだが、魔物討伐の任務も書類仕事も読む本もないのに起きているのも暇だしな?
あ、いや、でも城の図書室で本を借りてくればいいのか?
でもそもそも借りられるのか?
借りられるのなら薬草についての本を借りて調べて勉強してもいいな。
「追々買い揃えようかと……?」
「まあ、市場や城に露店も出てるしねぇ。そういうことなら仕方ないね。料理する気になったらいつでも買いにおいで」
「ありがとう。その時は必ず買いに来る」
風呂桶と一人分の食器、畑用のジョウロ、桑、スコップを購入して魔法鞄に入れる。
薬草については……薬草師アマル氏にあってから考えよう。
畑は野菜を作ってみれば、食費が浮く。
正直戦うことばかりで平民のような野良仕事はなにもわからないんだが……。
そのあたりも聞いてみよう。
「新しいことを始めるって、ワクワクするものなのだな」
まるで婚約破棄されて、国を出た時のような高揚感。
知らないことを知ったり、やったことがないことをやる時ってこんなに楽しい気持ちになるんだな。
期待って、こういう気持ちなんだ。
よーし、頑張って薬草師をやろう。
それで、家や家具のお金をセッカ先生に返そう。
明日、楽しみ!
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