26 / 46
初仕事(1)
「そうだわ、アリアさん。もし『アナの花』があったらたくさん取ってきてほしいの。下級ポーションの材料なの」
「アナの花……えーと」
「23ページだ」
アマルさんに言われたページを開く。
アナの花――下級ポーションの材料となる、環境にあまり左右されずに咲く雑草の一種。
と、ある。
「下級ポーションは確か、小さな傷や捻挫などの“外傷”を治癒するお薬ね。薬師は所詮病など治せないから。でも、冒険者協会に納品する分がどうしても足りないのよね……」
「冒険者にとっては必要なものだからな。当たり前だと思う」
「本当は疲労を回復する薬や寒さから体を守る魔法薬も作りたいのだけれど、幸い冒険者協会の倉庫に在庫があるらしいから急ぎではないから。でも近いうちに依頼したいわね」
「えっと、それはなにが必要なのだろう?」
「疲労回復薬には『マリタキノコ』。寒さから体を守る魔法薬には『オルティ葉』が必要よ。見かけたらでいいわ。クラゼリをどうか最優先してくださいな」
「了解した! 色々ありがとう! 感謝する!」
その後、町を散策して冒険者協会のあるところを確認してから家に戻る。
家――新居。
私の、私だけの家。
他に誰も住んでいない、私の。
「家具の搬入は明日以降。とりあえずベッドとカーテンだけでも設置しよう。えーと、寝室は……」
二階に上がると部屋は四つ。
扉を開けて中を確認して、ベッドの位置を決める。
窓に側面を向けるように設置して、さらに窓にはカーテンを取りつけた。
うん、シンプルな灰色のカーテンにして正解だな。
それにしても、本当に雪が降り始めた。
そろそろ夕暮れ時……寒さも増してくるから当たり前なのだが。
「そういえば……この部屋には暖炉があるんだな」
今時暖を取るのなら魔石道具のストーブがあるのに、少し珍しい。
下の談話室にはこれよりももっと立派な暖炉があったが、二階にもあるのは見たことがないな。
薪もちゃんと入れてある。
もしかして、パルセとタァナが入れておいてくれたのだろうか?
あいにく私には寒さ耐性も暑さ耐性もあるから、暖炉やストーブを使う必要性もないのだが。
「……食や睡眠のように、暖炉をつけたらどんな気持ちになるのだろう?」
食を摂れば味で癒される。
食というのもまた娯楽の一つになり得るもの。
睡眠もまたそう。
睡眠耐性があるから寝なくても問題はないのだが、やはり眠るとスッキリする。
暖をとっても同じように癒されたりするのではないだろうか?
試してみよう。
「えっと、小枝に火を……面倒だな。えい」
魔法でちょちょいと火を点す。
冷えていた部屋がじんわりと暖炉の熱で温まっていく。
だが、なるほど?
不思議なものだが、火のゆらめきを眺めていると……ボーッと眺めてしまうな?
決して同じ形にならない火のゆらめきを、ただ、ただ眺めている。
それだけの時間なのに、暖かくて、パチパチという音もゆらゆらの火も……本当に不思議なのだがずっと見ていられるな。
気がつくと座り込んで一時間ほど眺めていた。
まだ部屋の隅までは暖かさが届いていないとは思うが、体はぽかぽかになっている。
「カーテンを閉めるか」
立ち上がってカーテンを閉めて、そのままベッドに横たわる。
なんだか、ものすごく……眠いな?
このまま新しく買ってきたばかりのシーツに包まれて眠ったら、絶対気持ちがいいだろうな。
そう思ったら、即服を脱いで寝間着に着替えて布団に入る。
ああ、気持ちがいい。
布団自体は冷たいのに、先程まで暖炉の前にいたせいで体がぽかぽかしているからほどよい。
ふかふかで、しかししっかりとした弾力のある新品の枕に頭を埋めたら、自分でも信じられないほどに深く深く眠った。
明日は日の出前に出掛けてセッカ先生に頼まれたクラゼリを探すんだ。
そうだ、だからこの心地のよい睡眠は……必要なことだ。
明日早起きしなければいけないんだから。
そんなふうに思って眠ったおかげか、ふと目を開けると頭が非常にスッキリしていた。
スッキリしていたせいで「あ、図鑑を読んでおこうと思ったのに……」ということを思い出してしまうが、懐中時計を見ると午前四時。
起きてセッカ先生のクラゼリを探しに行かなければ!
カーテンを開けて服を着替え、図鑑を収納魔法具に入れて暖炉を確認。
火はすっかりと消えて、灰が山積み。
バケツに灰を入れて、地面に持っていく。
そういえば灰ってどうするんだろうか?
「いや、それはあとで誰かに聞いてみよう。よし! 行ってみよう!」
初仕事だ!
ワクワクしながら外に出て、玄関の扉を施錠する。
雪が昨日よりも積もっていて、除雪機が道の雪を溝に落としていた。
それにしても、耐性がなければ危なかった。
布団から出られなかったかもしれない。
普通の人間は私のように寒さ耐性がないのに、どうやって布団から出て生活しているのだろうか?
今度孤児院の子たちに聞いてみようかな。
えーと、門はあっちだな。
久しぶりに魔物と戦うかもしれないと思うとワクワクする。
「ふあああぁ……」
「大きなあくびだな。おはよう!」
「うお! びっくりした! えっと……あんたは確かこの間町に来た……これから出かけるのか?」
「薬草師見習いとなったのだ! 今から初仕事だぞ」
「おお、アマルさんの代理か! 頑張ってきてくれ!」
「任せろ!」
あなたにおすすめの小説
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした
希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。 一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ―― 「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。