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アーク様のお母様再び

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 結局体調が戻ったのは三日後。
 起きてすぐにジーン様とアーク様がお部屋にいらっしゃって、わたくしはルイナと身支度腕整えます。
 やはり目の前で倒れてしまったので気にされていたみたいです……ううう、すみません……。

「お、お待たせ致しました」
「少しは顔色が戻ったようね」
「本日のお加減はいかがですか?」
「大丈夫です。お気遣い痛み入ります、アーク様……」

 緊張する。心臓がドキドキ、痛いくらい。
 わたくしちゃんと答えられているかしら?
 変じゃなかった? 間違ってなかった? 大丈夫かしら?
 きっと教えられた通り出来ていると思うんだけれど、まだ気を緩めるわけにはいきませんよね。

「先日は大変失礼致しました。本来なら、わたくしの方からお詫びに行かねばならないというのに……」
「なにを言っているの? 体調が悪い事は聞いていました。わたくしが急かしたのが悪いのよ」
「……」

 アーク様がジーン様をなんとも不思議なものを見る目で見上げている。
 ええ、それ母親に対する顔?

「クリスティア、あなたはいずれこの国の王となるアークの婚約者……つまり、王妃となるの」
「……は、はい」

 ソファーから立ち上がったジーン様の言葉に、体が硬くなる。
 実家でもよくそれは言い聞かされてきました。
 わたくしはそのために生まれてきたのだと。
 わたくしは『それ用』なのだと。
 王妃様たちのご懐妊を知って『急いで作った』のだと……、繰り返し、毎日、言われてきたから……。

「つまり、わたくしの娘になると言う事なのよ」
「…………。……へ?」
「なんで素っ頓狂な声を出すの? そういう事だと理解していなかったのかしら?」
「あ、い、い、いいえ……?」

 言われてみればその通りですね?
 結婚したら、その家の娘になる……とはいえ、でも……何年も先の事ですし、あまり考えた事がありませんでした。

「こほん。……だから、わたくしの事は『お義母様』とお呼び!」
「えっ!」
「え……!?」

 アーク様まで一緒になって驚いてるんですが!
 え、えええええっ!?
 ジーン様を、お義母様って、よ、呼びなさい!? 命令ですか!?

「あ、あの、でも、その……本当ならお城に住む事もあまりよくないのではと……思っていて……」
「は?」

 え、こ、声低……。
 な、なにか間違えましたか!?

「あんな女のいる家に! 帰る必要などありません! よくって? クリスティア! よーくお聞きなさい! あなたの母親コジェットはねぇ! 性悪の権化のような女なのよ!」
「…………!」

 な、なんとなくそんな気はしていましたが、きっぱりと断言されてしまいましたー!?

「あの女はね、自分がチヤホヤされるためならなんでもする女なの。そのために自分磨きをするわけでもなく、ただ褒められたいだけで着飾る女なのよ! だからわたくしという婚約者のいる陛下にも取り入ろうとしたし、男に貢がせて着飾ってチヤホヤされていたのよ!」

 途中から支離滅裂になっているような……!?

「正直あんな女の娘なんてと思ったけれど……あの女の娘とは思えないほどみすぼらしくて驚いたわ! どうしたらそんなに痩せこけてガリガリになるの!? あの家はこの国の中でもいくつか商家を抱えていて、お金には困っていないはずでしょう!」

 あ、そうなんですか?
 初めて聞きました……我が家って商人の取りまとめをしている家なんですね……。
 政務に携わっているだけだと思っていました。
 家の事はお兄様が継ぐので、わたくしはなんにも聞かされていないのです。

「まあ、だからあの女はあの手この手であなたの家に嫁いだのでしょうけど!」

 あ、あんまり知りたくなかったかもしれません。
 そ、そうなんだぁ……。

「それなのになんでそんなにガリガリに痩せてしまったの?」
「お嬢様は旦那様や奥様に毎日夜遅くまで振り回されて、ほとんどお食事されておられませんでした」
「ルイナ……!」

 侍女が口を挟む。
 思わず咎める意味で名を呼ぶけれど、ルイナの表情が……あまりにも悲壮感を纏っていて……思わず止まってしまう。

「夜は遅くまで奥様の夜会につき合わされて、朝は早くから淑女教育。お茶会の時間になるとまた奥様に夕方まで拘束され、お夕飯の時間すらお勉強の時間に費やされました。お嬢様は元々食が細い方でしたので、成長するにつれどんどん厳しくなる淑女教育とお茶会やパーティーに連れ回されて……! お食事の時間はほとんどございませんし、日々ノルマは重くなっていきますし、そのノルマがこなせないと旦那様はお嬢様をそれはもう強く叱責なさいますし!」
「ル、ルイナ、ルイナ? どうしたのですか、落ち着いてください……」

 な、なにかスイッチでも入ったかのように、ルイナが止まらなくなっています……!
 どうしてしまったんでしょうか……拳まで握って、表情も迫真……!

「ひどい時には手を挙げる事もありました! 十歳のお誕生日など、奥様が盛大にパーティーを行ったせいで二日ほど眠らせてももらえなくてふらふらしながら招待客にご挨拶しておられて……ああ、今思い出してもお労しい……!」
「な……なんて事をしているの、あの家は……」
「?」

 貴族とは、そういうものではないのかしら?
 わたくし、前世の事は思い出しましたけれど洋風貴族の生活なんてよく知りませんからこれが普通だと思ってましたけど違うんですか!? まさか違うんですか!?

「……そ、それはちょっと異常なのでは?」
「異常だったのです、あの家は!」
「ルイナ……!」
「申し訳ありません! ですがもう我慢出来ないのです!」

 一体なにがきっかけでそのような!?

「わたくしが許します! すべて洗いざらい話なさい!」
「はい! ではご報告致します!」
「ルイナ!?」

 そこからはもう、なんだかわたくしも知らない事まで色々話ていくルイナ。
 概ね間違っていないけれど、わたくしにとってははそれが『普通』でした。
 ……というか止まりませんね?
 そろそろ十分くらい話してません?

「ホンットろくでもないわねあの夫婦! それが我が子にする行いなの!? そんなやり方では王妃の質が下がるでしょうが! もういいわ! 元よりそのつもりだったし! クリスティア!」
「は、はひっ」
「今日からわたくしが直接あなたに王妃教育を行います! 覚悟なさい!」
「……ひ、は、はい……」
「は、母上……そん話を聞いたあとに、そんな……」
「まずはまっ!さー そのあとはお化粧! 次におやつ! お散歩! お昼寝よ!」
「「え?」」
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