腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

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わたくしが出来る事を

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「くっ、それで? 私になにをさせるつもりなの!」
「ジェーン様のご実家にご協力頂きたいのですわ」
「私の家……?」
「はい」

 大食い勝負……もとい決闘で勝利したわたくしは、本日フィリーとジェーン様、ルイナを後ろに従えて昼食です。
 とはいえ、いつもはミリアムとアークにたくさん食べさせてもらいながら昼食を摂るので、この二人と食べると物足りないんですわよねぇ。
 まあ、後ほどラウンジでおやつでも食べましょう。
 今はジェーン様におねだりの時間ですわ。

「ジェーン様のお家は大型の冷凍洞窟をいくつかお持ちだそうですわね。それを貸し出して益を得ておられるとか」
「え、ええ、そうね」
「その冷凍洞窟をお国に一つ譲ってくださいな」
「は!?」

 大型と言っても、王城地下にあるものとは比べるべくもない大きさでしょう。
 しかもいくつかを丸ごと国に貸し出す。
 一定の利益は得られても、貴族や豪商相手に貸し出すのとは価格が違います。
 国から彼らほどのお金は出せない。
 だって『予算』というものがあるんですもの。
 それに冷凍洞窟を持っているのはジェーン様の家だけではない。
 けれど、やはり食糧確保には冷凍洞窟が欲しいのです。

「実はわたくしアイスが大好きなのですが……」
「は? ア、アイス?」
「アイスは他国にはない食べ物なのですわ。冷凍洞窟がないので。冷凍洞窟はこの国の建国の王が守護精霊獣から賜った恩恵で、この国にしかないんだそうです。ですから、わたくしアイス……もとい、氷を隣国に出荷するのはどうかと思っておりますの」
「……氷を?」
「ええ」

 前世でテレビを観ていた時、大きな氷を一年通して売る……みたいな番組を見た気がするんですわ。あ、病院のテレビの話です。
 世の中にはこんな商売があるのか~、と感心したものですが、とても歴史が古いんですわね。
 あと、話題のデ○ニー映画の冒頭シーンでも氷を切って売る、というお仕事がありましたもの!
 氷は大きければそう簡単に溶けませんし、大きく切り出して売れば儲けになる。
 その儲けで、他国から食糧を買うのです。
 西のロンディニア辺りは魔獣が出ないので飢饉がない限り食糧を輸出してもらうのは難しくないと思うんですわ。
 珍しい食べ物もきっと増えると思います。
 その中で、我が国の風土でも育つものがあれば積極的に取り入れていけばいい。
 我が国は魔獣が出るので、なかなか大変かとは思いますが……。

「そ、そんなのどうやって……」
「もちろん洞窟の中に穴を掘って水を溜めたり……」
「洞窟を壊すつもり!?」
「そうならないように試行錯誤はもちろんしますわ。利益の一部はジェーン様のご実家にも還元するように配慮します。けれど、王室御用達になるのですからジェーン様にも悪いお話ではないと思いますの。いかがかしら?」
「くっ……!」

 目先の利益よりのちの利益の方がよろしいのでは、と言うと散々「うー」を繰り返し、最終的に「父に相談します」と折れてくださいましたわ。
 はい、よろしくお願いします。
 けれど、決闘の際代理人を立てたり、負けたのにわたくしの要求を突っぱねたと噂になれば瞬く間に立場は悪くなるはず。
 下手をすれば失脚して家が没落する事態も考えられますね。
 脅すつもりはないのですが、ご自分でなさった事なのでわたくしとしても助けられません。
 それに……。

「色良いお返事お待ちしておりますわ。でもお早めにお願いしますわね。ジェーン様のご実家がダメなら、他の冷凍洞窟をお持ちのお家にお伺いしなければなりませんので」
「……っ!」

 代わりはいる。
 彼女の実家でなくとも構わないのだ。
 多分、わたくしの姉……メアリからも散々脅しを受けていただろう。
 けれど、彼女はわたくしに負けてしまった。
 姉がどこからどんな手で彼女の実家に手を出してくるか分からないけれど、彼女はきっとそれが嫌だったはずなのです。

「ねぇ、ジェーン様……メアリお姉様はあなたが思っているほどお力はなくてよ?」
「えっ」
「だって一伯爵夫人ですもの。人心掌握はお得意なようだけれど、姉の嫁ぎ先は落ち目です。姉の存在で保っている状況と聞きます」
「う、嘘! 私は、メアリ様はあなたの姉だから王家の権威を持っていると……」
「まあ……」
「あら」
「!」

 本当にそんな話で周りの人たちを操っていたのですか。
 ちょっとびっくりですわ。
 フィリーとも顔を見合わせて改めてお姉様には色々注意しなければと思います。

「残念だけれどメアリ様と王家の方々は面識すら怪しいですわ。お年がひと回りも違うのですもの」
「え……っ!」
「えぇ……わたくしがお城でご厄介になっていた間も、わたくしの家族は誰一人手紙はおろか、会いにもきませんでしたわ……」
「……!」

 それが寂しいと思う事は一度もなかった。
 けれど、世間一般……それこそ貴族の中でもフィリーのように仲の良い家族はいる。
 やはりわたくしのうちが特殊なのでしょう。
 十歳の娘が婚約者のいる家に……王族の城とはいえ、一人で預けられて心配もしないなんて。
 前世から一人だったので、そこになんら疑問はありませんの。
 でも……。

「……いえ、やはりお姉様には……大人しくなって頂かなければ困りますわね」
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