腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

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着せ替え人形ですわー

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 ——……一週間後。

「まあ、陛下のお誕生祭に着るドレスですか!」
「ええ、どうかしら?」
「お二人とも素敵ですわ!」

 本日はお城に里帰り中です。
 実家があるのにお城に里帰り……でもわたくしの中ではこんな感じなんですわよねぇ。
 まあ、それはそうと、陛下のお誕生日……誕生祭が明後日に控えております。
 多くの国の王侯貴族が招かれ、お城で大々的なパーティーが行われるわけでして!
 本日、王妃であるエリザベス様と側室であるジーン様は、明後日のためにドレスの試着をしておいでですわ。
 お二人ともとてもゴージャスで、しかしまったく『着られてる』感がなく……ええ、まさに着こなしておいでですわ!

「クリスティアお嬢様」
「あ、そうでしたわ。あの、あの、エリザベス様とジーン様にご相談したい事がありますの……」
「まあ、なあに? なんでも相談して?」
「珍しいわね、あなたがそんなに神妙な面持ちで……。そんな重大な事ならちゃんと相談なさい」
「ありがとうございます、実は……」

 ルイナが二着のドレスを持ってくる。
 それに王妃お二人は目を丸くした。
 ええ、そうなのです……。

「ミリアムからはピンクのドレス、アークからは青いドレスを頂きましたの……。どちらを着ていけば良いのか分かりません……」
「「あら……」」

 一応二人の婚約者という事になっておりますので!
 どちらか片方だけというのは、さすがに……!
 かといって両方着る事は出来ません。
 当日はのちの王太子殿下の婚約者として、パーティーが終わるまで化粧直しくらいしか出来ないでしょう。
 ええ、パーティーとは政務です。
 王太子の座は卒業まで定まりませんが、わたくしの場合は二人しかいない両王子の婚約者なので……。
 ああ、お母様に強要され続けた耐久お茶会と耐久夜会の悪夢が蘇りそうですわ。
 でも、これもいずれ王妃となる者の務め。
 なにより、殿下たちのお役に立ちたい。
 でも……実はもう一つ相談したい事がありますの。

「それから、パーティー中になにも食べられないとなると……わたくし、お腹が鳴り響いてしまいそうで不安で不安で!」
「「あ、ああ……」」

 耐えられるのでしょうか? わたくしが。
 数時間のパーティー、立ちっぱなしで無限とも思えるご挨拶地獄。
 脳のカロリーを普段使わない隅々まで酷使して、どこどこの国の誰々様をひたすら覚えてあれそれ考えなければならない……それが政務パーティー
 そんな体力的にも脳みそカロリー的にもお腹の空く状況でわたくしのお腹は空腹を訴える事なく大人しくしていてくださるのでしょうか!?
 不安です! 無理な気がして仕方がございません! イケる気がしないのです! まして、ドレスですし!
 なにも食べずに数時間なんて無理です~!

「あら、それならいい考えがあるわよ」
「え! 本当ですかエリザ様!」
「ええ、当日はこうしたらいいわ——……」

 と、エリザ様が提案した計画は……ふむふむ、なるほど!
 それならすべてうまくいきそうですわ!

「それと、例の件もロンディウヘッド家の方々がいらしたら片付けてしまいますわよ」
「あ、はい。あ、そうでしたわ。その時にお姉様の件もお力添え頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、前に言っていた件ね。もちろん構わないわ~」
「ええ、メアリ様の件はアークから全部わたくしたちにも伝えてもらっていますから。スパーンと綺麗にやっておしまいなさい」
「ありがとうございます!」

 では、当日にすべて片付けてしまいましょう。
 エリザ様の案ならば、問題なさそうです。
 順序立てて綺麗にあらゆる方面を片付けてしまえるなんて、さすが王妃様方ですわ。
 わたくしもお二人のように立派に物事を片付けられるようになりたいものです!

「では次の問題は装飾品ね」
「え?」
「そうね、着替えて両方着るなら髪飾りやネックレスも両方に合うものを選ばなければ」
「え」
「今日はそれを選びましょうか。特に靴は難しいから、靴だけは両方に添えて持っておいた方がいいかもしれませんわね」
「そうね、ジーン。わたくしも賛成」
「えっ」

 にこり。
 お二人から微笑まれて、背中がぞわりとしました。
 あ、これは……結局着せ替え人形になって地獄を見るアレ的な……?

「試着室へ行きましょうね、クリスティア」
「さあ、これも次期王妃としての仕事ですわよ!」
「ふ、ふぁーい……」
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