ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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レイドイベント開催(1)

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 自分の部屋の机に、『 Blossomブロッサム』四人のサイン入りCDを飾って手を合わせる。
 ここ最近の日課になりつつあるこの行為。
 五月の定期ライブも乗り越えて、六月の十日。
 魁星とも周とも連絡を取り合い、約束の時間十分前に旧型VR機を被り、ベッドに横たわる。
 仕方ない、淳はやはり声が出せないから。
SBOソング・バッファー・オンライン』を起動する。
 今日からSBO内でレイドイベントが開催される予定だ。
 ログインして、“シーナ”として待ち合わせ場所に向かう。
 待ち合わせ場所――『ファーストソング』の広場。
 その場にいたのは“バアル”、“カイセイ”、“アマネ”、“ハルナ”、“エイナ”が待っていた。
 広場に用意されたステージが見える宿の中で「お久しぶり~」とエイナに声をかけられて、淳は硬直。
 最初は綺麗なお姉さんだと思ったけれど、エイナの中身は神野栄治。
 淳にとっての“神”であり、永遠の騎士ヒーロー
 何度会おうと、緊張しないなんて無理だ。
 
「おぉぉぉ、お久しぶりでっす!」
「シーナってば完全に他人行儀になっちゃったね。さーみしーい」
「そ、そそ、そ、そんなことおっしゃられましても……ひぎゃ!?」
「そういえば五月の定期ライブもすごく頑張ったんだってね。先輩が褒めてあげるね。よしよし♪」
「ひいいいっ!」
 
 抱き締められて、頭を撫で撫でされる。
 近い。近過ぎる。
 顔が近くて、ちゃんと温もりも感じて、あばばばば、と慌てふためくシーナ。
 その様子を目を細めて眺めるハルナとカイセイ。
 引き剥がしたいが、戯れの範囲内。
 が、距離が近いと複雑そう。
 
「エイナ先輩、あんまりシーナを弄ばないでくださいね」
 
 見かねてバアルがそう言うと、唇を尖らせてエイナがシーナを放す。
 そのままシーナは腰を抜かしてしまった。
 
「淳……いや、シーナ。君、ここで腰を抜かして、大丈夫ですか? このあとちゃんと歌えますか?」
「だ、大丈夫だよ、アマネ……絶対歌い切って見せるから」
 
 周のアバター、アマネに手を引かれて立ち上がる。
 その時、ちょうど広場にレイド開始合図を行うSBOのオリジナルキャラクター『そばお』が特設ステージに現れた。
 “そばお”は人の姿をした蕎麦。
 なにを言っているかわからないが、顔がざる蕎麦、体が真っ白な全身タイツ。
 どうしてこんなキャラクターを思いついたんだろう。
 何回見てもウケ狙いとしか思えない。
 
「どうもー、プレイヤーの皆さん。本日からついにギルドを実装、レイドイベントが開始です! レイドイベント中は、時間ランダムでプロのアイドルグループ、セミプロのアイドルグループがこちらの特設ステージでライブを行いプレイヤー全員にバフをかけてくださいます!」
 
 頭が蕎麦のそばおがマイクで宣言する姿はどう足掻いてもシュール。
 集まっていたプレイヤーは「わあ」と歓声をあげる。
 ランダムというのは、空き時間があるアイドルが適当に集まって歌う、という裏事情。
 しかし、そばおの横に現れたのは星光騎士団のステージ衣装を纏った――凛咲玲王。
 その後ろには“初代”星光騎士団グループメンバー。
 
「うわああああああ! 星光騎士団の初代メンバーが全員揃ってるううう! 凛咲先生だけじゃなく、作曲家になった梅橋梓うめはしあずさと世界でダンサーデビューした酒牧始さかまきはじめ! しかも、凛咲先生たちのアバターが十代の頃の姿じゃん!? それにその後ろにいるのは二代目でシンガーソングライターになった沖壮太おきそうたと、マルチタレントの遠坂裕士郎とおさかゆしろう、三代目の――」
「え? じゅ、淳ちゃん、初代から全員の名前と現在の職業把握してるの?」
「え? 星光騎士団箱推しのドルオタとして当然だと思うけれど?」
「いやいやいやいや、怖い怖い怖い」
 
 さすが歴代振付全部踊れる箱推しのドルオタ。
 同期にガチ怯えされている。
 そんなシーナにエイナとハルナも若干表情が引き気味。
 
「ははははは! 知らないやつらにも自己紹介しよう! ミーは星光騎士団初代騎士団長、凛咲怜王リンサキレオ! 星光騎士団は東雲学院芸能科のアイドルグループ。ミーは星光騎士団の創設者で作詞家で教師だ! SBOでプロモーションを担当している神野栄治と鶴城一晴の先輩だゾ!」
 
 ドヤ、と胸を張る凛咲先生。
 そばおがマイクを向けると、凛咲先生がスッ……と目を細める。
 
「今日から実装されたなんとかっていうシステムで!」
「ギルドシステムね」
「星光騎士団を設立する!」
「もうしてある」
「理由はSBO内で星光騎士団を名乗り、ビギナー釣りをしている馬鹿者がいるという報告を受けたからだ!」
「ビギナー狩りね」
 
 凛咲先生の適当さを的確に訂正していくのは初代副団長、梅橋梓うめはしあずさ
 さすがにこなれている。
 そこでエイナたちが「そろそろ行こう」と声をかけられた。
 その場に集まった面々も頷いて移動する。
 
「だから星光騎士団ミーたちの名を騙る者どもは覚悟しろよ。これから星光騎士団ミーたちが顔も名前も晒してSBOを支えるからな!」
 
 そう言った凛咲先生の後ろに、初代から先代――今代、綾城珀に至るまでの歴代星光騎士団員がほぼ全員勢揃い。
 広いステージに三十人近いメンバーがSBOプレイヤーたちに”顔見せ”した。
 その端の方に、シーナから”ジュン”、カイセイ、アマネ、リアルの姿にアバターを変更した三人も加わる。
 そのことを知らせていなかったので、ステージの最前列にいた”チコ”が口も目も丸く開きっぱなしになっているのが見えて、少し笑いそうになった。
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