39 / 553
レイドイベント開催(1)
しおりを挟む自分の部屋の机に、『 Blossom』四人のサイン入りCDを飾って手を合わせる。
ここ最近の日課になりつつあるこの行為。
五月の定期ライブも乗り越えて、六月の十日。
魁星とも周とも連絡を取り合い、約束の時間十分前に旧型VR機を被り、ベッドに横たわる。
仕方ない、淳はやはり声が出せないから。
『SBO』を起動する。
今日からSBO内でレイドイベントが開催される予定だ。
ログインして、“シーナ”として待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所――『ファーストソング』の広場。
その場にいたのは“バアル”、“カイセイ”、“アマネ”、“ハルナ”、“エイナ”が待っていた。
広場に用意されたステージが見える宿の中で「お久しぶり~」とエイナに声をかけられて、淳は硬直。
最初は綺麗なお姉さんだと思ったけれど、エイナの中身は神野栄治。
淳にとっての“神”であり、永遠の騎士。
何度会おうと、緊張しないなんて無理だ。
「おぉぉぉ、お久しぶりでっす!」
「シーナってば完全に他人行儀になっちゃったね。さーみしーい」
「そ、そそ、そ、そんなことおっしゃられましても……ひぎゃ!?」
「そういえば五月の定期ライブもすごく頑張ったんだってね。先輩が褒めてあげるね。よしよし♪」
「ひいいいっ!」
抱き締められて、頭を撫で撫でされる。
近い。近過ぎる。
顔が近くて、ちゃんと温もりも感じて、あばばばば、と慌てふためくシーナ。
その様子を目を細めて眺めるハルナとカイセイ。
引き剥がしたいが、戯れの範囲内。
が、距離が近いと複雑そう。
「エイナ先輩、あんまりシーナを弄ばないでくださいね」
見かねてバアルがそう言うと、唇を尖らせてエイナがシーナを放す。
そのままシーナは腰を抜かしてしまった。
「淳……いや、シーナ。君、ここで腰を抜かして、大丈夫ですか? このあとちゃんと歌えますか?」
「だ、大丈夫だよ、アマネ……絶対歌い切って見せるから」
周のアバター、アマネに手を引かれて立ち上がる。
その時、ちょうど広場にレイド開始合図を行うSBOのオリジナルキャラクター『そばお』が特設ステージに現れた。
“そばお”は人の姿をした蕎麦。
なにを言っているかわからないが、顔がざる蕎麦、体が真っ白な全身タイツ。
どうしてこんなキャラクターを思いついたんだろう。
何回見てもウケ狙いとしか思えない。
「どうもー、プレイヤーの皆さん。本日からついにギルドを実装、レイドイベントが開始です! レイドイベント中は、時間ランダムでプロのアイドルグループ、セミプロのアイドルグループがこちらの特設ステージでライブを行いプレイヤー全員にバフをかけてくださいます!」
頭が蕎麦のそばおがマイクで宣言する姿はどう足掻いてもシュール。
集まっていたプレイヤーは「わあ」と歓声をあげる。
ランダムというのは、空き時間があるアイドルが適当に集まって歌う、という裏事情。
しかし、そばおの横に現れたのは星光騎士団のステージ衣装を纏った――凛咲玲王。
その後ろには“初代”星光騎士団グループメンバー。
「うわああああああ! 星光騎士団の初代メンバーが全員揃ってるううう! 凛咲先生だけじゃなく、作曲家になった梅橋梓と世界でダンサーデビューした酒牧始! しかも、凛咲先生たちのアバターが十代の頃の姿じゃん!? それにその後ろにいるのは二代目でシンガーソングライターになった沖壮太と、マルチタレントの遠坂裕士郎、三代目の――」
「え? じゅ、淳ちゃん、初代から全員の名前と現在の職業把握してるの?」
「え? 星光騎士団箱推しのドルオタとして当然だと思うけれど?」
「いやいやいやいや、怖い怖い怖い」
さすが歴代振付全部踊れる箱推しのドルオタ。
同期にガチ怯えされている。
そんなシーナにエイナとハルナも若干表情が引き気味。
「ははははは! 知らないやつらにも自己紹介しよう! ミーは星光騎士団初代騎士団長、凛咲怜王! 星光騎士団は東雲学院芸能科のアイドルグループ。ミーは星光騎士団の創設者で作詞家で教師だ! SBOでプロモーションを担当している神野栄治と鶴城一晴の先輩だゾ!」
ドヤ、と胸を張る凛咲先生。
そばおがマイクを向けると、凛咲先生がスッ……と目を細める。
「今日から実装されたなんとかっていうシステムで!」
「ギルドシステムね」
「星光騎士団を設立する!」
「もうしてある」
「理由はSBO内で星光騎士団を名乗り、ビギナー釣りをしている馬鹿者がいるという報告を受けたからだ!」
「ビギナー狩りね」
凛咲先生の適当さを的確に訂正していくのは初代副団長、梅橋梓。
さすがにこなれている。
そこでエイナたちが「そろそろ行こう」と声をかけられた。
その場に集まった面々も頷いて移動する。
「だから星光騎士団の名を騙る者どもは覚悟しろよ。これから星光騎士団が顔も名前も晒してSBOを支えるからな!」
そう言った凛咲先生の後ろに、初代から先代――今代、綾城珀に至るまでの歴代星光騎士団員がほぼ全員勢揃い。
広いステージに三十人近いメンバーがSBOプレイヤーたちに”顔見せ”した。
その端の方に、シーナから”ジュン”、カイセイ、アマネ、リアルの姿にアバターを変更した三人も加わる。
そのことを知らせていなかったので、ステージの最前列にいた”チコ”が口も目も丸く開きっぱなしになっているのが見えて、少し笑いそうになった。
85
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる