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決闘の申し込み

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「はいはい、この話終わりー。自分たちのユニット名と、ごたちゃんが考えてくれた衣装デザインも明日までに決めてねぇ? ごたちゃんも忙しいんだからぁ! あと、仮歌自分たちで作るといいよぉ。収録スタジオも使いたい放題なんだからぁ」
「きょ、今日中!?」
「当たり前でしょぉ? ごたちゃんも忙しいって言ってるじゃーん」
 
 と、言って宇月が後藤のSDを抱いていない方の腕に絡みつく。
 すると後藤の空気が柔らかくなる。
 それを見て「あれ、もしかして後藤先輩って宇月先輩が好きなのかな?」と感じたけれど、二年生同士仲がいいのは普通かもしれないと思い直す。
 
「衣装案は早く決めてくれるとその分早く着手できるから、早い方がいい」
「あ、そ、そうなんですね。うーん、俺はC案、ですかね」
「一、二、三年合同新曲『Great Dipper』の共通衣装と、一年だけの専用曲『Nova Light』用の二つ。選んで」
「ア……え、え、ええと~」
 
 後藤に言われて衣装案を並べる。
 七人用は『Great Dipper』――北斗七星らしく、衣装に北斗七星のような星形のボタンがあしらわれているのを選ぶ。
『Nova Light』は白基調、左側の裾が長くなっているデザインを選んだ。
 
「『Nova Light』は、F案がいいかなと思います」
「へええ、カッコいいね」
「うん、星光騎士団らしい騎士らしいスマートなデザインで、新人っぽく装飾品が少なく、でも左側の裾が長いからダンスの時に映えると思うんだよね」
 
 衣装に関してさっぱりこだわりがない魁星と周は「じゃあ、これで」と淳が選んだものを指差す。
 そんな魁星と周を、宇月が心底蔑んだ表情で見下ろしている。
 しかし「まあ、二軍のリーダーの言う通りにするのはいいんじゃない」と勝手に納得してくれた。
 衣装を決めると、今度は後藤が取り出したメジャーで全身のサイズを測られる。
 後藤がサイズを読み上げると、宇月が後藤の持っていたバインダーに書き込む。
 
「仮歌どぉするぅ?」
「もう六時だし、家に帰した方がいいよ」
「あ~、本当だ~。じゃあお前ら帰りなぁ」
「「「は、はーい」」」
 
 と、全員で練習棟を出ることにした。
 宇月の隣を確保した後藤が玄関ホールに来て立ち止まる。
 
「星光騎士団、綾城珀に決闘を申し込む!」
 
 と、いう叫びに、一年トリオが後藤と宇月の背中から顔を出す。
 そこにいたのは一人の二年生生徒。
 
「あ、麻野ルイだぁーっ」
「だ、誰?」
 
 目を輝かせる淳。
 魁星と周は条件反射で聞き返してしまう。
 星光騎士団箱推しとは聞いていたが、まさか他のグループも知識があるのか?
 
「麻野じゃん。なぁにー? 生意気に珀先輩に決闘の申し込みぃ?」
「そうだ! 我が魔王、朝科先輩を差し置いてプロデビューなんて許せん! 四天王、東の麻野が侵略してくれる!」
「ハァーーーー。ウッザ!!」
 
 一歩前へ出た宇月の悪態モード。
 腕を組んで、目の前にいる生徒を睨みつける。
 
「淳、あの先輩が誰か知っていますか?」
「もちろん! 『魔王軍』東の四天王、麻野あさのルイ先輩だよ! 二年B組。成績は中の下。誕生日は一月七日。血液型A型。身長174センチ。体重58キロ。部活はバスケ部。趣味はギター。特技は絶対音感。野菜全般が苦手で、南の四天王、檜野久貴ひのひさたか先輩に毎日お弁当を作ってもらっている! ダンスとラップが得意でラップの時だけ英語ペラペラ! 宇月先輩に体育の長距離マラソンで負けてから、毎日放課後にグラウンドでランニングしている姿が目撃されていたとかいないとか!」
「おいなんだその一年! 喧嘩売ってんのかぁ!?」
「えー、お前星光騎士団箱推しであって他のグループは興味ないのかと思ったら普通に詳しいのキモイんだけどぉー?」
「ええ!? ひ、ひどい……!? 俺は普通に星光騎士団箱推しのドルオタですよ! ただ有名どころの『魔王軍』と『勇士隊』はどうしても情報が目に入るというか……」
 
 ふーん、と唇を尖らせる宇月。
 それにしては詳し過ぎるような。
 
「四天王って?」
「魔王軍は魔王と呼ばれるリーダーを頂点に東西南北を冠る四天王がメンバーとして固定されてるんだよ。星光騎士団で言うところの第二部隊は、その四天王が埋まっている時に四天王の下に東から順番に配置されていくんだって。つまり一軍は基本的に五人固定」
「「へーーー」」
「ちなみに勇士隊も一軍は五人固定なんだよ。リーダーは“君主”って呼ばれて他に四神――東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武っていう魔王軍でいうところの四天王みたいなのがいるんだ」
「なんか思ってたのと違うな勇士隊」
「新撰組みたいなのを想像していたけど違うんですね?」
「君主と四神は一番隊、二軍は二番隊、三番隊って呼ばれているよ」
「むちゃくちゃじゃない?」
「統一感がなさすぎません?」
「まあ、勇士隊が『なんでもやる』のを掲げたグループだから……?」
 
 なんでもありの、なんでもやる、NGナシのグループ。
 それが『勇士隊』。
 それにしてはごちゃ混ぜ過ぎるような気がしないでもないのは、ファンの中でも言われているところ。
 
「そいじゃ決闘って?」
「東雲学院芸能科の伝統芸みたいな感じのプチイベントだよ。定期ライブで同じ曲を一対一で歌い合い、お客さんの投票で勝敗を決めるんだ。申し込んだ側が曲を指定して、自分の得意分野で相手をバチボコにするのが通例なんだけどお客さんの中にはそのやり方が好きじゃない人も多いから、意外に申し込んだがが負けることも多くてマジの運ゲー。申し込んだ側が負けた時はセンブリ茶か電流の罰ゲームをステージ上でやるよ」
「「なにそれ怖……」」
 
 淳の説明にドン引きの魁星と周。
 そういうシステムがある、というのを知らなかったのも理由の一つではあるだろうけれど。
 
「あ、でも勝ったらなにか利益があるの?」
「勝ったら負けたアイドルの物販――グッズ売り上げの一割をもらえるんだよ」
「なにそれ、ヤッバ!」
「なるほど……知名度の高い綾城先輩のグッズの売上なら、結構な金額になるでしょうね」
「その分ファンからは『なに喧嘩売ってんだテメェ』っていう目で見られて好感度で投票されかねないんだよ」
「ヒェ……! 綾城先輩に喧嘩売るなんてばかじゃん!?」
「まあ、そう。綾城先輩のおかげで東雲学院芸能科のファン層は倍になったって言われているから、勝てば金一封だろうけどそもそも勝ち目はないかな~~~……あ」
 
 と、素直に話していると麻野に思い切り睨まれていた。
 淳としてはファン視点から聞かれたことに答えただけなのだけれど。
 
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