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序章
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「苦しい。助けて欲しいの」
私の声は何処にも、誰にも届かない。ナイフで手首に線を付ける。何本も何本も。惨めでたまらない。あいつに心と身体を許した自分を傷つけるしかなかった。モチロン動脈を切る勇気なんてない。
「痛っ。目立つかな?」
長い袖と手首の狭間から、昨晩つけた線が痛々しく姿を表わす。勤務前に、久方ぶり発作が出た。
『大丈夫。いつも傍にいるから』との言葉を信じた私が馬鹿だった。
アパート入り口、郵便受けの小窓をふっと開けてみた。取りそこねた一通の封書が、ひっそりと存在していた。
「手紙? 珍しいな」思わず声を出し 、差出人を確認する。
『松本英治 美沙子』叔父夫婦だった。内容は息子の三回忌を慎ましく、家族だけで執り行われたとの報告だった。文末に手書きでー言記されていた。
『智美ちゃん。お仕事には慣れましたか? 身体大事にね』と。
この家庭は、小学生時代の私にとって唯一のオアシスだった。
「そっか、和君、三回忌なんだ」
従兄で、幼馴染の二歳上だった和君は、十九歳の冬にバス事故にて、この世を去った。
三年前。斎場にて和君の遺影を見た際に、少し驚いたのを思い返す。和君が、大人になっていたからだ。痩身で、聡明な顔付きは、小学生時代と変わらない。本当に優しいお兄ちゃんだったっけ。
「美沙子さん元気かな?」
斎場では、憔悴しきった叔母の美沙子さんの姿を、併せて思い返す。
「もう、和君の年越したね。代わりに、私が死ねば良かった」そう呟くと、細い右手首の線がズキンと傷んだ。
私の声は何処にも、誰にも届かない。ナイフで手首に線を付ける。何本も何本も。惨めでたまらない。あいつに心と身体を許した自分を傷つけるしかなかった。モチロン動脈を切る勇気なんてない。
「痛っ。目立つかな?」
長い袖と手首の狭間から、昨晩つけた線が痛々しく姿を表わす。勤務前に、久方ぶり発作が出た。
『大丈夫。いつも傍にいるから』との言葉を信じた私が馬鹿だった。
アパート入り口、郵便受けの小窓をふっと開けてみた。取りそこねた一通の封書が、ひっそりと存在していた。
「手紙? 珍しいな」思わず声を出し 、差出人を確認する。
『松本英治 美沙子』叔父夫婦だった。内容は息子の三回忌を慎ましく、家族だけで執り行われたとの報告だった。文末に手書きでー言記されていた。
『智美ちゃん。お仕事には慣れましたか? 身体大事にね』と。
この家庭は、小学生時代の私にとって唯一のオアシスだった。
「そっか、和君、三回忌なんだ」
従兄で、幼馴染の二歳上だった和君は、十九歳の冬にバス事故にて、この世を去った。
三年前。斎場にて和君の遺影を見た際に、少し驚いたのを思い返す。和君が、大人になっていたからだ。痩身で、聡明な顔付きは、小学生時代と変わらない。本当に優しいお兄ちゃんだったっけ。
「美沙子さん元気かな?」
斎場では、憔悴しきった叔母の美沙子さんの姿を、併せて思い返す。
「もう、和君の年越したね。代わりに、私が死ねば良かった」そう呟くと、細い右手首の線がズキンと傷んだ。
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