アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝

文字の大きさ
1 / 38

プロローグ

しおりを挟む



 「――おお、聖女様!! 良くぞ我らの召喚に応えて下さった!!」
 (……はい??)
 響き渡った知らない声と、その内容に驚いて目を開ける。涙で滲んだ理咲りさの視界に入ってきたのは、まったく見知らぬ場所だった。
 先程までいた、日中でも薄暗い非常階段とは打って変わって、光に溢れた場所。ヨーロッパの歴史深い国にある教会のような、巨大なステンドグラスの薔薇窓。差し込む陽光が虹色に染まっている。
 その美しい明かりの元、祭壇らしきものの手前に大勢の人々が並んでいた。中央にいる、すらりとした長身で金髪碧眼、ファンタジー作品に出てくる王侯貴族のような服装の青年が、再度にこやかに声を張り上げる。
 「我が名はクリスティアン、現国王の実弟にして王太子を拝命するもの。国を代表してお頼みいたします。どうか我れら民草をお救い下さい、麗しき聖女よ!!」
 「わ、私が聖女……!?」
 理咲に――では、ない。もっと手前に立っている、ふわっと巻いた髪と華やかな美貌が印象的な女性に向かって。あれは間違いなく知った顔だ。……今ここで会いたくはなかったけども。
 いや、それはこの際どうでもいい。今はとにかく、一刻も早く解決せねばならない問題がある。
 「……あのう、すみません」
 盛り上がる前方に向かって、出来る限り声を張る。幸い、すぐに気づいたらしき一同がこちらに視線を向けて――真っ青になった。
 それはまあ、そうだろう。七色に輝く光の中、床にへたり込んでいる血まみれの女がいたら。
 「なんでもいいので、大きめの布をもらえませんか……止血に使えそうなのを……」
 「ひいっ!?」
 「「「ぎゃあああああああ!?!」」」
 歴史的瞬間をぶち壊しにする流血沙汰に、その場が大騒ぎになった。




 (いやいやいや、叫びたいのはこっちなんですけど!)
 手当てどころか、パニックになって右往左往する一同に、未だ血みどろの理咲はため息を吐きたくなった。というか、もう吐いたかもしれない。何せ痛いわやかましいわで、ろくに周囲の情報が入ってこないのだ。
 ただ何かしらの儀式でもしたのか、妙に甘ったるい煙が漂っているのはわかる。おそらくは白檀で、フランキンセンスとかミルラも混ざっている気がした。とりあえず気を紛らわせるために、分かる範囲で現状を分析してみる。
 (……ええっと、さっきまで大学にいたよね? わたし)
 そう、次の講義を受けるために、外にある非常階段を上っていた。昼休み終了直前は混みあうから、エレベーターを避けて。――そしたら、気が付いたらここにいて、受け身も取れず倒れ込んで側頭部を打っていたのだ。その結果がこのありさまである。
 (ええ~、まじで? ホントに異世界転移なの?? マンガとか小説だけの話じゃなかったんだなぁ)
 のん気にそんなことを思っている間にも、血が髪を伝ってきて目に入る。傷の痛みとは比べ物にならないが、それでもやっぱり地味に沁みるので、瞬きして外に出そうと試してみた。お、良い感じに涙が出てきたかも……と、
 「――ご婦人、お気を確かに! こちらをお使い下さい」
 「、へっ? あ、どうも」
 突如降って湧いた声と共に、傷に背後から柔らかい布が押し当てられる。わーふわふわさらさら、と感動しているうちに、うずくまった体勢からひょいっ、と抱き上げられた。しかも背中と膝の裏を支える、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
 誰がやってくれているのか、と顔を上げて、ようやく目が利かないのに気付いた。痛みと衝撃のせいだろう、いつの間にか視界が霞んでいる。身を固くしたのが伝わったらしく、先程よりもいっそう柔らかい口調で話しかけられる。
 「このまま医務室にお連れします。腕のいい医官がおりますゆえ、貴女を髪一筋ほども損ねは致しますまい。どうぞご安心を」
 「は、はぁい……」
 何気にすごいことを言われた気がする。ついでにこの、多分お兄さんだけど、声がめちゃくちゃ良い。低くてよく通って、こんなふうに話しかけられるととても落ち着く。それからほんのりとだが、大変好ましい香りがした。自分がケガをしているせいで、ちょっと分かりづらいけれど、
 (――あぁ、ラベンダーだ。こういう優しい人に、よく似合いそう)
 おそらくかなり急ぎ足で、でも出来るだけ揺らさないように、慎重に歩いてくれているのがわかる。そんな心地よい微振動を感じつつ、ひとまず命の危機は脱したと思われる理咲は、うとうとしながら運ばれていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...