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第2章:袖すり合うもリンゴのご縁
精霊と女神さまと私③
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しばしの後。
「…………申し訳ありません。取り乱しました」
「あー、うん、気にしてないから」
いろいろあったものの、どうにか自家製の野菜を使ったサラダと、これまた自分で焼いたパンにスープにオムレツ、コケモモを添えたヨーグルトにミルクという、いたって健康的な朝食にありつくことが出来た一同である。
その過程でどうにか平常心を取り戻し、後片付けを手伝ってくれたシグルズに深々と頭を下げられ、ティナはやや疲れた調子で答えた。出したものは全部『美味しいです』といって食べてくれてよかった、うん。
「……気にしてないけどシグさん、ホント真面目だよね。エルフのひとってみんなそんな感じなの?」
「古い土地に棲むものは、神々と精霊に強い畏怖と敬意を持っておりますゆえ。我々のように長命で、神代と強いつながりがあるならば尚更です」
「そ、そっか」
ごく当然の口調で言われてしまい、答えるティナは思わず目が泳いだ。だって元々人間で、いろんな偶然が重なったおかげで転生できただけなのだ。そんな尊敬の眼差しを向けてもらえるような要素はない気がする。
……まあ、おかげでこっちの話を聞いてもらえて、ウサギも助けることが出来たので、今回はそれでよしとしよう。人生何事もポジティブに捉えるのが幸せへの近道である。
「とりあえずごはんが美味しかったみたいで良かったわ。で、これからどーするの?」
「ええ、ひとまず長に報告に戻ろうかと。春ウサギについてはこちらで回収――」
『きゅうーっっ』
「……めっちゃ拒否ってるね」
「う、め、面目ない……」
抱っこしたティナの腕の中でぶんぶん、と必死な様子で首を振るウサギ。よっぽど追いかけられたのが怖かったらしい。というかこの子、そもそも食事の間もソファのクッションに潜り込んで出てこなかったのだ。断固拒否の体勢を崩さない小動物に、正直にショックを受けてうなだれているエルフが何だかかわいい。
「そうだねえ、一応呪いは解けたんだし。しばらくうちで預かろうか?野菜も気に入ったみたいだからおとなしくしててくれると思うよ」
「いや、この上ご迷惑をおかけする訳には」
「いいからいいから。ルミちゃんもお友達できて嬉しいよね~」
『ぴっ!』
「ね? なんにも迷惑かけてないから、気にしないで」
「……忝ない。ではお願いいたします」
にこっとして請け合うと、恐縮しきりだったシグルズはようやく納得してくれた。きちんと頭を下げて出ていきかけ、ふと思い出したように懐からなにか取り出す。
「念のためにこれを」
「え? ――わあ、きれいだね!」
差し出されたのは、小さな銀色のペンダントだ。トップは細い棒状で、何か模様があるなと思ったら細かな花の意匠が彫り込まれていた。繊細な作りで、一目で貴重な品と分かる。
「我々の呼び子です。もし御身の危険を感じた際はお使い下さい、エルフの耳ならば必ず届きますゆえ」
「わかった。わざわざありがと、シグさんも気を付けてね」
「はい。かの女神にもよろしくお伝えください」
律儀に言い添えると、シグルズはその場で軽く地面を蹴った。それだけの動作で、身長の二倍はある高さの枝に飛び乗ると、こちらに会釈してから別の木に跳び移る。同じ動作を軽々と繰り返して、あっという間に森の奥へと姿を消してしまった。
「うわー早いな~……あれだけ素早かったら、人目につかなくて当然か」
『きゅうぅ……』
「はいはい、だいじょーぶだから。好きなだけうちにいていいからね」
『きゅうっ!』
「あはは、くすぐったいってば~」
喜んで頬ずりしてくる春ウサギに微笑みつつ、これでイズーナが戻ってくれば万事解決するに違いないと、ティナはすっかり安心していたのである。
「…………申し訳ありません。取り乱しました」
「あー、うん、気にしてないから」
いろいろあったものの、どうにか自家製の野菜を使ったサラダと、これまた自分で焼いたパンにスープにオムレツ、コケモモを添えたヨーグルトにミルクという、いたって健康的な朝食にありつくことが出来た一同である。
その過程でどうにか平常心を取り戻し、後片付けを手伝ってくれたシグルズに深々と頭を下げられ、ティナはやや疲れた調子で答えた。出したものは全部『美味しいです』といって食べてくれてよかった、うん。
「……気にしてないけどシグさん、ホント真面目だよね。エルフのひとってみんなそんな感じなの?」
「古い土地に棲むものは、神々と精霊に強い畏怖と敬意を持っておりますゆえ。我々のように長命で、神代と強いつながりがあるならば尚更です」
「そ、そっか」
ごく当然の口調で言われてしまい、答えるティナは思わず目が泳いだ。だって元々人間で、いろんな偶然が重なったおかげで転生できただけなのだ。そんな尊敬の眼差しを向けてもらえるような要素はない気がする。
……まあ、おかげでこっちの話を聞いてもらえて、ウサギも助けることが出来たので、今回はそれでよしとしよう。人生何事もポジティブに捉えるのが幸せへの近道である。
「とりあえずごはんが美味しかったみたいで良かったわ。で、これからどーするの?」
「ええ、ひとまず長に報告に戻ろうかと。春ウサギについてはこちらで回収――」
『きゅうーっっ』
「……めっちゃ拒否ってるね」
「う、め、面目ない……」
抱っこしたティナの腕の中でぶんぶん、と必死な様子で首を振るウサギ。よっぽど追いかけられたのが怖かったらしい。というかこの子、そもそも食事の間もソファのクッションに潜り込んで出てこなかったのだ。断固拒否の体勢を崩さない小動物に、正直にショックを受けてうなだれているエルフが何だかかわいい。
「そうだねえ、一応呪いは解けたんだし。しばらくうちで預かろうか?野菜も気に入ったみたいだからおとなしくしててくれると思うよ」
「いや、この上ご迷惑をおかけする訳には」
「いいからいいから。ルミちゃんもお友達できて嬉しいよね~」
『ぴっ!』
「ね? なんにも迷惑かけてないから、気にしないで」
「……忝ない。ではお願いいたします」
にこっとして請け合うと、恐縮しきりだったシグルズはようやく納得してくれた。きちんと頭を下げて出ていきかけ、ふと思い出したように懐からなにか取り出す。
「念のためにこれを」
「え? ――わあ、きれいだね!」
差し出されたのは、小さな銀色のペンダントだ。トップは細い棒状で、何か模様があるなと思ったら細かな花の意匠が彫り込まれていた。繊細な作りで、一目で貴重な品と分かる。
「我々の呼び子です。もし御身の危険を感じた際はお使い下さい、エルフの耳ならば必ず届きますゆえ」
「わかった。わざわざありがと、シグさんも気を付けてね」
「はい。かの女神にもよろしくお伝えください」
律儀に言い添えると、シグルズはその場で軽く地面を蹴った。それだけの動作で、身長の二倍はある高さの枝に飛び乗ると、こちらに会釈してから別の木に跳び移る。同じ動作を軽々と繰り返して、あっという間に森の奥へと姿を消してしまった。
「うわー早いな~……あれだけ素早かったら、人目につかなくて当然か」
『きゅうぅ……』
「はいはい、だいじょーぶだから。好きなだけうちにいていいからね」
『きゅうっ!』
「あはは、くすぐったいってば~」
喜んで頬ずりしてくる春ウサギに微笑みつつ、これでイズーナが戻ってくれば万事解決するに違いないと、ティナはすっかり安心していたのである。
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