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第2章:袖すり合うもリンゴのご縁

黒づくめの闖入者②

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 頭のてっぺんからつま先まで、とにかく全身黒ずくめという服装。しかもその至る所に大小の傷があり、泥濘ぬかるみにでも突っ込んだようにひどく汚れている。何とか身を起こしたティナは、自分の両手にべったりついた赤黒い色にぎょっとした。

 「ちょっと、どうしたんですかコレ!! しっかりしてっ」
 「…………、を」
 「え、なんか言った!?」

 唇が動いた気がして耳を寄せると、相手はガサガサにかすれた声を振り絞って伝えてくる。

 「精霊花モーリュ、を……」

 が、そこまで言ってごとん、と頭が落ちてしまった。苦しそうにしかめられた顔に、なんだか嫌な感じにどす黒い紫色の斑点が散らばっている。ついでに、服の上からでもわかるくらいものすごく熱が高かった。この症状、相手が告げてきた単語もあわせればまず間違いない。

 「毒くらったんだ……!」

 傷口から入ったのか、それともうっかり口にしたか。経緯は不明だが、急いで手当てをしないとまずいことになりそうだ。

 「ルミちゃん、裏の畑で薬草取って来て。昨日の子にあげたやつわかる?」
 『ぴぴっ!』
 『きゅ』
 「あ、ウサギさんも手伝ってくれるの? ありがとう、お願いします」
 『きゅう!』

 ありがたくお願いすると、手伝いを申し出てくれた小動物たちは裏手にすっ飛んでいく。あちらは任せておいて大丈夫なはずだ。あとは――

 「あの薬草、よく効くけど負担も大きいんだよね……先にあらかた治しとくか」

 出来るだけ楽な体勢を取らせようと、男性の上半身を膝の上に抱えあげる。やはりボロボロの有り様になっている胸元に軽く両手をかざして、目一杯集中しながら口を開く。

 「――命を宿す、黄金の林檎。その息吹を、このひとに分けてあげて」

 ぽう……

 言葉を追いかけるように、手のひらに光が灯った。朝日を思わせる金色の輝きが降り注ぐと、いまだに続いていた出血がぴたりと収まる。さらに経つと皮膚がつながり、切れていた部分がちゃんとふさがったのがわかった。思わず大きく息をつく。

 「良かった、初めてやったけどうまくいった……!」

 イズーナにもらった命の林檎は、消えてなくなったわけではない。実はティナの魂の核になっていて、持ち主の意思に応じて他の生き物に生命力を分け与えることが出来る、らしいのだ。転生してすぐの頃に当の女神様から聞いてはいたが、まさか本当に使うことになろうとは。

 まだ毒は抜けていないが、見知らぬ男性の顔色は格段に良くなった。これなら大きく動かしても大丈夫だろうと、肩を貸す形で支えて立ち上がろうとしたところ、くらっと目眩に襲われる。軽い貧血のような感じだ。

 「……う、ちょっと調子に乗ったかも」

 能力初使用の反動だろうか。しかし、まだまだやることが山ほどあるので倒れてなどいられない。
 何とかソファまで引きずっていき、息を整えてから、ティナは薬の準備をするべくキッチンに移動した。
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