転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝

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第2章:袖すり合うもリンゴのご縁

袖すり合うもリンゴのご縁③

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 さすがに畑では収穫できないので、暮らし始めに『お米が食べたいです』と主張したらイズーナがどこからともなく調達してくれた。以来、ナベで炊く方法をマスターして大事に使っているのだが、日本で流通しているものより粘りが少ない気がする。こうやって煮込むときにはよく出汁を吸って、おいしく仕上がるので嬉しい限りだ。

 味の好みがわからないので、シンプルに白がゆにしてみた。ついでにスープと果物も添えて、てくてく戻っておぼんをおいて、

 「はいっ、あーん♪」
 「ぶっ!?」

 実に楽しそうに匙を差し出す救い主に、じゃれるルミたちの頭上で青年が思いっきりむせた。しばらく横を向いてげほげほやって、

 「っそういうのはいい! 自分で食える!!」
 「えー、だって今まだあちこちだるいでしょ」
 「ただ単にやってみたいだけだろお前ッ」
 「まあまあ、具合悪いときくらい甘えたっていいじゃないですか」
 「……………あのなぁ」

 いかん、何をどう言っても引く気がしない。邪気など一切ない満面の笑みで言いつのって来る相手が、一瞬最近会っていない故郷の姪っ子とダブった。女ってのはどうしてこう世話を焼きたがるんだ、と行き場のない疑問を抱くも、答えてくれそうな相手はこの場に存在しないわけで。

 『ぴいぴい』
 『きゅう~』
 「う゛~~~……わぁったよ、食えばいいんだろーが」

 邪気など一切ないつぶらな瞳(×2)に見つめられて、とうとう根負けしてしまった。とたんにぱあっと、さらに明るくなるティナの顔にため息をつきつつ、差し出してくる匙に向かって口を開けて、

 ずダンッ!!!

 ……ちょうど真横から飛んできたものが、二人の間を通過してソファの背に突き刺さった。

 切っ先はかすりもしなかったが、匙を持っていた方の腕をびぃぃぃん、と振動する矢羽根がかすめている。青ざめたティナが勢いよく振り向く先に、今まさに戸口から入って来る美しいシルエットが。

 「――おい、貴様。その方に一体何をさせている」

 地の底から響くかと思うほど低い声で宣ったのは、厳めしい武装に身を包んだエルフ族の青年――いうまでもなく、昨日の朝ぶりに会うシグルズだ。早くも次の矢をつがえているあおい目に、あからさまな炎が燃え上がっていたりする。いや待て、なんでそんな怒ってるの!?

 「畏れ多くも女神の眷属に、食事を手伝わせるなど言語道断! 今すぐ冥府に送ってくれるッ」
 「ままま待って待ってシグさん誤解だから! 無理強いされたんじゃないから、病み上がりにかこつけてわたしがやりたいって言っただけだからー!!」
 「かこつけたの自体は否定しないのかよ……
 いや、まあちょっと待て。いつもならそのケンカ腰はむしろ大歓迎だが、今ちょっと立て込んでるんでな。一旦引っ込めろ、
 「常日頃顔を合わせれば突っかかってくる奴が何をエラそうに……!!」

 ツッコミを入れつつなだめてくる青年に、言い返すシグルズの顔は恐ろしく険しかった。初対面の時は比較的クールな印象が強かったが、いろいろ見ているとけっこう感情の起伏が激しいようだ。……いや、それはさておいて、今新たな驚きの展開があったぞ。

 「……えっ? じゃああの、ふたりとも知り合い!? なんで!?」
 「は、いえ、知り合いというか、何というか」
 「まあ顔と名前を知ってる仲ではあるな。だろ? 『銀葉郷シルバーリーブス』警備隊長どの」
 「その口永遠に閉じさせてやろうか、野伏レンジャー大鴉レイヴン』!」
 「ええー……」

 なんだこの、強敵と書いて友と読ませるような丁々発止のやり取りは。というかせっかく落ち着いたと思ったのに、さらなるトラブルが起こりそうな気配がただよっていないだろうか。

 『ぴいぴい』『きゅうぅ……』
 「うん、なんかますますめんどくさいことになってるみたい……」

 これは、イズーナが帰ってきたら再び爆笑されることうけあいだ。目の前で一方的に火花を散らす男性陣にそんなことを思いつつ、ティナは小動物コンビをもふもふして癒しを補給するのだった。

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