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第四章:大根令嬢、東洋文化と恋バナに花が咲くの巻
①
――こんこん。
「ヴィクトル、おはよう。今良くって?」
ネーベルヴァルトの一件から、時は流れてはや数日。
本日は書類を捌いているヴィクトルの執務室へ、ノックとほぼ同時に入ってくる者がいた。顔を見るまでもなく、こんな事をやらかす相手は一人しかいない。
「……陛下、せめて返事くらい待って下さい。余人が見たら何と思うか」
「やあね、ちゃんと誰もいないの確認してるってば。曲がり角では三歩手前でお澄ましするし」
「そういう問題ではありません。全く、また供も付けずに……」
「あら、いるわよ? 廊下に一人、天井に一人。ねえ?」
「恐れ入ります、殿下」
あっけらかんと言う相手に応じて、廊下で待つ護衛騎士が挨拶した。ついでに、部屋の天井裏からこんこん、と音がする。彼女専属の密偵兼、影の用心棒だ。この人達にも毎回苦労をかけるな、とため息を禁じ得ない。
これだけあれこれ言われているのに、気分を害したふうもなくにこにこしている、無断侵入の相手。品よく結い上げた濃色の髪、生き生きときらめく碧玉の瞳。端正で繊細ながら、内面の活発さがにじみ出て、朗らかで明るい印象を与える容貌だ。
女性としては平均的な身長で、体格も至ってほっそりしているが、ただ立っているだけで視線を引き付けるような存在感があった。この体質を、先王や亡き長姉は『華がある』と評したものだ。
アンジェリカ・イレーネ・フォン・グランフェルト。ここグランフェルト王国の若き統治者にして、ヴィクトルの二番目の姉である。直系では唯一となった血縁でもあった。
「うふふふ、元気そうで良かった。それはさておき、ウェルナー侯爵からなんか言ってきた? きちんと反省してるのかしらね、うちの甥っ子くんは」
「さておかないで下さい。……今朝がた書状が届きました。愚息のために格別の配慮を頂き、誠に申し訳ないと。彼については当分の間謹慎させる、とも」
あら、と意外そうに瞳を瞬かせるアンジェリカだ。そうだろう、ヴィクトルだって驚いた。あの侯爵にしてはかなり厳しい処し方だ。
「それはまた、思い切ったわねえ。温厚篤実、っていうより、ぐずぐず煮え切らないことで有名なのに。あのひと」
「そ、そこまで言わずとも……」
「平気よ、本人には言わないし顔にも出さないから。大体あそこの家って、二年前までローゼ姉様が仕切ってたようなものでしょう? まあ性格の相性は良かったんだろうけど」
あくまでもさらっ、とひどいことを言う姉に冷や冷やする。確かに事実だが、一応身内に対してこの言い草はどうなのか。
(……確かに、姉上の行動力と思い切りは素晴らしかった。後ろ盾がなく、自ら生きる道を切り開いてこられたが故だろう)
アンジェリカを星の煌めきに例えるならば、第一王女ローゼリアはそれこそ太陽のようだった。誰に対しても分け隔てなく、明るく温かな笑顔で接してくれた。そのぬくもりを、彼女を知る皆が愛していたのだ。二年前に疫病が猛威を振るうまで――
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