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幼少期 Ⅰ
その気持ちは分からない
初対面だとばかり思っていたアロイズ様だったけど、稽古場にいらした事があるらしい。
じゃあなんとなくレレ殿下と一緒に来たのかと思えば、隣のレレ殿下はそれはもうびっくりしていた。
「え? いつの間に行ってたの? 私の付き添いなら兎も角、アロイズが率先して運動しに行くなんてどういう風の吹き回し? しかも稽古場?」
確かに王族が稽古や剣を振るうのは魔法が発展している自国ではあまりイメージが湧かないな。王剣物語とかがあるから、異文化ではそういうのがあるかもしれないけど。
少なくともうちの国では王子と稽古場が結び付くイメージが無い。
同じ方向に首を傾げる俺たちにアロイズ様は「仲良いな……」と羨ましそうな声をこぼして、咳払いをしてから一息で言った。
「僕をジャンルだとして考えた場合転生特典がなんも貰えんかったから男性向けじゃなくて女性向けの方じゃね? って思って。でもあんま知らんし幼少期から体を鍛えてるイメージくらいなもんだからとりあえず稽古場行ってみて……一回で諦めて帰った」
なるほど、これが口達者としか感想がない。沢山話して貰ったはずなのに……何も……。
……全く何を言ってるのか分からなかった。すごく申し訳ないけど『僕を』までしか分からなかった。
レレ殿下と同じ発声のはずなのに話し方でこんなに聞こえ方が違うとは。
レレ殿下も早口で捲し立てたらあんな感じになるのかな。
もしそうなら討論強そう。
「ああ、諦めて帰ったのか。なるほど、だから報告がなかったのか」
討論じゃない短くて強い発言が出た。
「今の聞き取れたんですか?」
「僕の行動ってお兄に報告行くん!?」
レレ殿下のことお兄って呼んでんの? と思ったけれど心の内に留めた。
俺たちは二人揃って疑問をレレ殿下に向けたが、レレ殿下はどうして自分に注目が集まっているのか全く分からないようで。
目をぱちくりと瞬かせて、シレッと言った。
「当たり前でしょ?」
どっちに向けて言ったんだろう……どっちもかな。どっちもだろうな。
「ナチュラル監視……これがヤンデレジレット陛下の片鱗……か」
「アロイズ、私たちはね。王子なんだよ? 分かるかい?」
「お兄、僕成人男性。子供扱いやめれ」
「子供だよ」
レレ殿下はわざわざアロイズ様の目線の高さに合わせてゆっくり優しく諭すように言った。背丈の差はあまりない兄弟なのに。
「……子供だよ」
「重要じゃないことを二回も言うなや」
いや多分重要な事なんだろうな。
中身が成人済みでもレレ殿下にとってはまだまだ子供な弟だよっていう。
レレ殿下のお兄ちゃんらしさってやつだ。
それに、言い方はちょっと怖いけど、考えなくても分かる。ちょっとやそっとの監視は第二王子なら普通なことだ。
ただでさえ第二王子だから狙われやすいのに、前世の記憶とか転生とかを隠している素振りもないから変な非営利団体にもつけ狙われる可能性もあるし。
兄心の範疇か。
「王位継承権第二位なのに護衛も付けずにフラフラ自由にしていられるのは私が動向をちゃんと把握しているからなんだよ?」
「いや怖っ」
子供に言い聞かせるような言い方のまま、怖いことを言うレレ殿下にアロイズ様が胸元に両手でバッテンを作って怯えた。
自由だと思っていたのに全部レレ殿下の手のひらの上って感じがして怖いのはよく分かる。
兄心って怖いんだなぁ。
うちの兄弟はそんなんじゃないから知らなかった。
良かった、異母兄が俺に関心がなくて。
アレで異母兄が実は俺の動向全部把握していたとかなら本当に怖い。意味が分からなすぎて怖い。
兄弟間のやり取りは埒が明かないとの事で、話は打ち切りになった。
レレ殿下も俺のところに護衛も無しに来るじゃないですか。
と言えば、アロイズ様が優勢になったかもしれないけど……それを指摘したら護衛を連れて来るようになるかもしれないのでやめた。
「そういえば、アロイズ様は稽古場にいらっしゃったんですよね? 気付かぬうちに何処かのタイミングですれ違っていたんですね」
稽古場で一度も「第二王子が来た!」みたいなこと無かったけど、稽古場に俺がいない日なんて無いし。お忍びだったとか?
「いやいやいや!? 会話しましたけど!?!? 同い年がいるからって教わろうと思って会話したけど!?」
「はい?」
そう言われると……思い当たる節が………………無いな。
「何も覚えてない人の顔やん!」
「無意識のうちに無礼な真似をしてしまったようで、大変申し訳なく」
「謝らないで! やめて! 僕が謝りに来たはずなのに謝らせに来たみたいになってるから!」
頭を下げようとする俺をアロイズ様がわたわたと止めるが、止まるわけもない。
頭を下げられてこそ一人前の騎士。
無礼なことはきっちり謝罪をしなければならないし、どんな処罰でも受け入れるべきだ。
「フィル落ち着いて。相手が第二王子だと分かっていたら、フィルは絶対に無礼なことはしないでしょ? アロイズ、名乗らなかったの?」
「一言で心が折れたから名乗るほど者じゃねぇなと思い」
「何を仰る。顔を見れば分かりますよ」
「落ち込んでるのに気丈に振る舞う主人公に声をかけた当て馬のセリフみたいなこと言ってる」
何が何?
アロイズ様、何言ってるのか分かる時と分からない時の差が激しい人だな。
レレ殿下も意味がわからないことを言うけど、レレ殿下とアロイズ様の発言の意味の分からなさって種類が違う気がする。
レレ殿下は得体の知れなさ。
アロイズ様は此方の知識不足ってところかな?
「そうだね。フィルはとっても偉いから私のことも顔を見ただけで分かったもんね。じゃあアロイズは顔を見せなかったんだね?」
「僕めっちゃコミュ障だと思われてる? 旅の恥はかき捨て状態だから全然顔出すって。折角イケメンショタになってんやし……」
俺が顔を見てない可能性は……あるかもしれない。そう考えると、思い当たる節がさっきよりはあるけど。反応的にそうではなさそうだ。
アロイズ様は、ふと何かを全て理解したような顔になった。
「……そういえば、フィーちゃんめっちゃ素振りしてた気がする」
「フィーちゃん!?」
なるほど。それな納得。
「それなら恐らくお顔を拝見してませんね。すみません、素振りは集中していますから」
「フィーちゃん!?」
何故か呼び方にこだわりのあるレレ殿下のことは一旦置いておいて。
話はかなり簡単だった。
そして俺が多分、大変無礼だった。
アロイズ様が同い年で素振りしている俺に話しかけた。会話は一言二言程度だったそうだ。
俺はアロイズ様と会話をしていたという記憶は無いのは当然だし。
アロイズ様はこの会話で稽古を諦めたから俺の事をうっすらぼんやり覚えていて、今回少し会話して思い出したのも当然だ。
「同い年なのにめっちゃ素振りが強そうだったから、教わろうと思って。話しかけた……恐ろしい人だった」
「俺は一体何を言ってしまったんですか?」
「力のステータスが下振れだった僕は模造刀を持ち上げられなくて、聞いたんだよ。『どうやって持ってるん?』って。そしたら『手で持つ』って言われてさ」
神妙な面持ちで語られる己の過去の失態に、俺は戸惑った。
言った記憶は……無いが。
確かに俺が言いそう。
でも……。
「あれは洗礼だった。生半可な気持ちで足を踏み入れちゃならねぇところだったんだなって。だから一応『それはどうやってんの?』って聞いた。そしたら『振ればいい』って言われてさ。
思い出したよな、過去にイキって車よりバイクだろって免許取りに行ったら倒れたバイクを起こせないと免許取れないって言われて。全然バイク起こせなくて数時間で諦めて帰ったあの日を」
哀愁漂うアロイズ様に、かける言葉がない。
何が……一体何が悪い言葉だったのか全く分からない。
敬語じゃなかったのが悪かったんだろうか。
「…………フィルには出来ない人の気持ちが分からないからね」
「出来ない人の……気持ち……ですか」
確かに、分からないかもしれない。
なんで出来ないのか分からないし。
「でも、そのうち分かるようになるよ」
「分かった方が良いんですか?」
出来ない人の気持ちって、つまり出来ない事がある人だ。
なんでも出来てきた方がいいに決まってるのに。
ああ、でも。
確かに最近は出来ないことが多いし、そういえば俺は魔法も使えない。
出来ない人の気持ちが分かるのもそう遠くないだろう。
「すみません、アロイズ様。最近は色々と出来ないことが多いので今のうちに出来ない人の気持ちを習得しておきます。そして、アロイズ様の分まで俺が剣を振ります」
「体育会系だー! 予想外にも体育会系!」
話がまとまらなかったので、レレ殿下が出てきた。
「そうだなぁ。とりあえず、今回の件と過去の件でお互い様ってことでいいんじゃないかな?」
「良いんですか?」
「寧ろ良いんか?」
「それは勿論」
そもそも謝罪は受け取る気はなかったけど、レレ殿下が上手く取りまとめてくださったのだからこれ以上その主張を通すのは野暮だろう。
「原作崩壊したからせめて原作通りに責任取って婚約とか、フィーちゃんが男の娘になってくれれば全然アリだったけど。体育会系は無理ぽ。責任取らずにすんで良かった」
「……アロイズ、私は身内と争いはどんな些細なことでもしたくない主義だから。二度と、戯言をほざかないでね?」
アロイズ様は何言ってるのか分からないけど、レレ殿下はどうして理解出来ているんだろう?
レレ殿下はそういう言葉を使わないからレレ殿下も転生って訳じゃないんだろうな。
知見がある?
アロイズ様に根掘り葉掘り用語を聞いて学んだとか?
レレ殿下ならやりそうだな。
それから慌ただしく二人は帰って行った。
……一人になってしまった。
さっきまで賑やかだったせいか、寂しさを感じてしまう。……暇なせいだろう。
読書か、瞑想でもこのぷかぷか状態でもできるようにしないと。
そう思っていたのに、レレ殿下が来た。
まさかの三回行動。
今日の来訪がレレ殿下でサンドイッチされている。いや、中身にもレレ殿下がいた。
「お忘れ物ですか?」
「ああ、うん。ちょっと」
扉を開けてたずねると、レレ殿下は体を部屋に滑り込ませた。
けれど、室内を見て回るわけではなく……俺を見ていた。
プカプカとそこに居るだけで揺れる俺を、じいっと見つめて。
「嫉妬をね」
「……え?」
頬に手が伸びて、撫でられる。
顔を引き寄せられて、耳の裏に唇が寄って。レレ殿下はそのまま静かに話した。
「フィーちゃんって呼ぶのを許したことと、私が見たことの無い稽古姿をアロイズに見せたこと」
耳の裏に唇が落とされて、ちゅっと軽いリップ音がしてレレ殿下は俺から離れた。
「心の狭い男でゴメンね」
「は、はい……え?」
バタン、と扉がしまってレレ殿下は消えていた。
レレ殿下から触れられることはほとんど無かったから油断した。
不意打ちだ。してやられた。油断だ。
こんな単純に不意打ちをされるなんて……屈辱だ。
屈辱だ。
だから、顔が赤くなるのは当然。
ドッドッドッと心臓に合わせて、俺が少し縦に揺れるのも仕方ない。
精進せねば。
だって、あの人……どうせ明日も来るんだろ!
じゃあなんとなくレレ殿下と一緒に来たのかと思えば、隣のレレ殿下はそれはもうびっくりしていた。
「え? いつの間に行ってたの? 私の付き添いなら兎も角、アロイズが率先して運動しに行くなんてどういう風の吹き回し? しかも稽古場?」
確かに王族が稽古や剣を振るうのは魔法が発展している自国ではあまりイメージが湧かないな。王剣物語とかがあるから、異文化ではそういうのがあるかもしれないけど。
少なくともうちの国では王子と稽古場が結び付くイメージが無い。
同じ方向に首を傾げる俺たちにアロイズ様は「仲良いな……」と羨ましそうな声をこぼして、咳払いをしてから一息で言った。
「僕をジャンルだとして考えた場合転生特典がなんも貰えんかったから男性向けじゃなくて女性向けの方じゃね? って思って。でもあんま知らんし幼少期から体を鍛えてるイメージくらいなもんだからとりあえず稽古場行ってみて……一回で諦めて帰った」
なるほど、これが口達者としか感想がない。沢山話して貰ったはずなのに……何も……。
……全く何を言ってるのか分からなかった。すごく申し訳ないけど『僕を』までしか分からなかった。
レレ殿下と同じ発声のはずなのに話し方でこんなに聞こえ方が違うとは。
レレ殿下も早口で捲し立てたらあんな感じになるのかな。
もしそうなら討論強そう。
「ああ、諦めて帰ったのか。なるほど、だから報告がなかったのか」
討論じゃない短くて強い発言が出た。
「今の聞き取れたんですか?」
「僕の行動ってお兄に報告行くん!?」
レレ殿下のことお兄って呼んでんの? と思ったけれど心の内に留めた。
俺たちは二人揃って疑問をレレ殿下に向けたが、レレ殿下はどうして自分に注目が集まっているのか全く分からないようで。
目をぱちくりと瞬かせて、シレッと言った。
「当たり前でしょ?」
どっちに向けて言ったんだろう……どっちもかな。どっちもだろうな。
「ナチュラル監視……これがヤンデレジレット陛下の片鱗……か」
「アロイズ、私たちはね。王子なんだよ? 分かるかい?」
「お兄、僕成人男性。子供扱いやめれ」
「子供だよ」
レレ殿下はわざわざアロイズ様の目線の高さに合わせてゆっくり優しく諭すように言った。背丈の差はあまりない兄弟なのに。
「……子供だよ」
「重要じゃないことを二回も言うなや」
いや多分重要な事なんだろうな。
中身が成人済みでもレレ殿下にとってはまだまだ子供な弟だよっていう。
レレ殿下のお兄ちゃんらしさってやつだ。
それに、言い方はちょっと怖いけど、考えなくても分かる。ちょっとやそっとの監視は第二王子なら普通なことだ。
ただでさえ第二王子だから狙われやすいのに、前世の記憶とか転生とかを隠している素振りもないから変な非営利団体にもつけ狙われる可能性もあるし。
兄心の範疇か。
「王位継承権第二位なのに護衛も付けずにフラフラ自由にしていられるのは私が動向をちゃんと把握しているからなんだよ?」
「いや怖っ」
子供に言い聞かせるような言い方のまま、怖いことを言うレレ殿下にアロイズ様が胸元に両手でバッテンを作って怯えた。
自由だと思っていたのに全部レレ殿下の手のひらの上って感じがして怖いのはよく分かる。
兄心って怖いんだなぁ。
うちの兄弟はそんなんじゃないから知らなかった。
良かった、異母兄が俺に関心がなくて。
アレで異母兄が実は俺の動向全部把握していたとかなら本当に怖い。意味が分からなすぎて怖い。
兄弟間のやり取りは埒が明かないとの事で、話は打ち切りになった。
レレ殿下も俺のところに護衛も無しに来るじゃないですか。
と言えば、アロイズ様が優勢になったかもしれないけど……それを指摘したら護衛を連れて来るようになるかもしれないのでやめた。
「そういえば、アロイズ様は稽古場にいらっしゃったんですよね? 気付かぬうちに何処かのタイミングですれ違っていたんですね」
稽古場で一度も「第二王子が来た!」みたいなこと無かったけど、稽古場に俺がいない日なんて無いし。お忍びだったとか?
「いやいやいや!? 会話しましたけど!?!? 同い年がいるからって教わろうと思って会話したけど!?」
「はい?」
そう言われると……思い当たる節が………………無いな。
「何も覚えてない人の顔やん!」
「無意識のうちに無礼な真似をしてしまったようで、大変申し訳なく」
「謝らないで! やめて! 僕が謝りに来たはずなのに謝らせに来たみたいになってるから!」
頭を下げようとする俺をアロイズ様がわたわたと止めるが、止まるわけもない。
頭を下げられてこそ一人前の騎士。
無礼なことはきっちり謝罪をしなければならないし、どんな処罰でも受け入れるべきだ。
「フィル落ち着いて。相手が第二王子だと分かっていたら、フィルは絶対に無礼なことはしないでしょ? アロイズ、名乗らなかったの?」
「一言で心が折れたから名乗るほど者じゃねぇなと思い」
「何を仰る。顔を見れば分かりますよ」
「落ち込んでるのに気丈に振る舞う主人公に声をかけた当て馬のセリフみたいなこと言ってる」
何が何?
アロイズ様、何言ってるのか分かる時と分からない時の差が激しい人だな。
レレ殿下も意味がわからないことを言うけど、レレ殿下とアロイズ様の発言の意味の分からなさって種類が違う気がする。
レレ殿下は得体の知れなさ。
アロイズ様は此方の知識不足ってところかな?
「そうだね。フィルはとっても偉いから私のことも顔を見ただけで分かったもんね。じゃあアロイズは顔を見せなかったんだね?」
「僕めっちゃコミュ障だと思われてる? 旅の恥はかき捨て状態だから全然顔出すって。折角イケメンショタになってんやし……」
俺が顔を見てない可能性は……あるかもしれない。そう考えると、思い当たる節がさっきよりはあるけど。反応的にそうではなさそうだ。
アロイズ様は、ふと何かを全て理解したような顔になった。
「……そういえば、フィーちゃんめっちゃ素振りしてた気がする」
「フィーちゃん!?」
なるほど。それな納得。
「それなら恐らくお顔を拝見してませんね。すみません、素振りは集中していますから」
「フィーちゃん!?」
何故か呼び方にこだわりのあるレレ殿下のことは一旦置いておいて。
話はかなり簡単だった。
そして俺が多分、大変無礼だった。
アロイズ様が同い年で素振りしている俺に話しかけた。会話は一言二言程度だったそうだ。
俺はアロイズ様と会話をしていたという記憶は無いのは当然だし。
アロイズ様はこの会話で稽古を諦めたから俺の事をうっすらぼんやり覚えていて、今回少し会話して思い出したのも当然だ。
「同い年なのにめっちゃ素振りが強そうだったから、教わろうと思って。話しかけた……恐ろしい人だった」
「俺は一体何を言ってしまったんですか?」
「力のステータスが下振れだった僕は模造刀を持ち上げられなくて、聞いたんだよ。『どうやって持ってるん?』って。そしたら『手で持つ』って言われてさ」
神妙な面持ちで語られる己の過去の失態に、俺は戸惑った。
言った記憶は……無いが。
確かに俺が言いそう。
でも……。
「あれは洗礼だった。生半可な気持ちで足を踏み入れちゃならねぇところだったんだなって。だから一応『それはどうやってんの?』って聞いた。そしたら『振ればいい』って言われてさ。
思い出したよな、過去にイキって車よりバイクだろって免許取りに行ったら倒れたバイクを起こせないと免許取れないって言われて。全然バイク起こせなくて数時間で諦めて帰ったあの日を」
哀愁漂うアロイズ様に、かける言葉がない。
何が……一体何が悪い言葉だったのか全く分からない。
敬語じゃなかったのが悪かったんだろうか。
「…………フィルには出来ない人の気持ちが分からないからね」
「出来ない人の……気持ち……ですか」
確かに、分からないかもしれない。
なんで出来ないのか分からないし。
「でも、そのうち分かるようになるよ」
「分かった方が良いんですか?」
出来ない人の気持ちって、つまり出来ない事がある人だ。
なんでも出来てきた方がいいに決まってるのに。
ああ、でも。
確かに最近は出来ないことが多いし、そういえば俺は魔法も使えない。
出来ない人の気持ちが分かるのもそう遠くないだろう。
「すみません、アロイズ様。最近は色々と出来ないことが多いので今のうちに出来ない人の気持ちを習得しておきます。そして、アロイズ様の分まで俺が剣を振ります」
「体育会系だー! 予想外にも体育会系!」
話がまとまらなかったので、レレ殿下が出てきた。
「そうだなぁ。とりあえず、今回の件と過去の件でお互い様ってことでいいんじゃないかな?」
「良いんですか?」
「寧ろ良いんか?」
「それは勿論」
そもそも謝罪は受け取る気はなかったけど、レレ殿下が上手く取りまとめてくださったのだからこれ以上その主張を通すのは野暮だろう。
「原作崩壊したからせめて原作通りに責任取って婚約とか、フィーちゃんが男の娘になってくれれば全然アリだったけど。体育会系は無理ぽ。責任取らずにすんで良かった」
「……アロイズ、私は身内と争いはどんな些細なことでもしたくない主義だから。二度と、戯言をほざかないでね?」
アロイズ様は何言ってるのか分からないけど、レレ殿下はどうして理解出来ているんだろう?
レレ殿下はそういう言葉を使わないからレレ殿下も転生って訳じゃないんだろうな。
知見がある?
アロイズ様に根掘り葉掘り用語を聞いて学んだとか?
レレ殿下ならやりそうだな。
それから慌ただしく二人は帰って行った。
……一人になってしまった。
さっきまで賑やかだったせいか、寂しさを感じてしまう。……暇なせいだろう。
読書か、瞑想でもこのぷかぷか状態でもできるようにしないと。
そう思っていたのに、レレ殿下が来た。
まさかの三回行動。
今日の来訪がレレ殿下でサンドイッチされている。いや、中身にもレレ殿下がいた。
「お忘れ物ですか?」
「ああ、うん。ちょっと」
扉を開けてたずねると、レレ殿下は体を部屋に滑り込ませた。
けれど、室内を見て回るわけではなく……俺を見ていた。
プカプカとそこに居るだけで揺れる俺を、じいっと見つめて。
「嫉妬をね」
「……え?」
頬に手が伸びて、撫でられる。
顔を引き寄せられて、耳の裏に唇が寄って。レレ殿下はそのまま静かに話した。
「フィーちゃんって呼ぶのを許したことと、私が見たことの無い稽古姿をアロイズに見せたこと」
耳の裏に唇が落とされて、ちゅっと軽いリップ音がしてレレ殿下は俺から離れた。
「心の狭い男でゴメンね」
「は、はい……え?」
バタン、と扉がしまってレレ殿下は消えていた。
レレ殿下から触れられることはほとんど無かったから油断した。
不意打ちだ。してやられた。油断だ。
こんな単純に不意打ちをされるなんて……屈辱だ。
屈辱だ。
だから、顔が赤くなるのは当然。
ドッドッドッと心臓に合わせて、俺が少し縦に揺れるのも仕方ない。
精進せねば。
だって、あの人……どうせ明日も来るんだろ!
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