理系が転生したら非科学的存在 (魔物)でした

秋人司

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玄の章

第2話「アルフレッド・シルバーニ」

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 オルシニア王国は、この周辺地域で最も栄えている国の1つだ。
 
 国土の西には肥沃な穀倉地帯が広がり、東では複雑にのびる海岸線が豊かな海産物を育んでいる。一方、南部では果実や畜産、北部では林業が盛んであり、それを十字に結ぶ交通網の中心に王都が位置する。
 
 多種多様な生産物を元手に、周辺国との貿易も盛ん。
 
 気候は温暖で四季があり、技術力や文化力も突出してきつつある、そんな大国の1つ。
 
 
 だが、国土が豊かだからこその弊害があった。
 
 魔物の存在だ。
 
 いまだだが、経験的に魔物は魔力の高い地域で発生することが知られている。
 
 オルシニアは、まさにその魔力の高い地域に該当するのだ。
 
 だからこその豊かな国土。
 しかし、それによる魔物の被害もまた大きい。
 
 当然、国としてはその魔物へどのように対処するのかが問題となる。実際、魔物の被害に耐え兼ね、この地で興った王朝が数十年で倒れたこともあるのだ。
 
 そのような地域で栄えているオルシニア王国は、しかし現在まで長く安定した政治を行っており、発達した文化・技術も花開いているのが特徴だ。
 
 特に王都は“大陸の華”と評されるほどの発展ぶり。
 
 そんな繁栄を可能にしたのが、魔物への徹底した対処だ。
 
 どんな僻地であっても魔物が出現すれば迅速に対応できるよう、街道は国営として整備され、それに沿うように砦を配し、綿密な連絡網が敷かれている。
 そしてひとたび魔物の被害が報告されれば、瞬く間に軍が派遣され、討伐にあたる。
 
 主要な砦には実力ある騎士団が控えており、時には魔力に優れたオルシニア王族自らが陣頭に立つことさえある。
 
 これによって商人からの信頼を勝ち取り、国内の商業は盛ん。民衆の王家への支持も厚く、これらが安定した経済と政治につながっている。
 
 加えて、建築技術の発展も目覚ましかった。
 
 中でもオルシニアの心臓部たる“華の都”はその堅牢さでも名を馳せている。煌びやかな都は三層からなる城壁に囲まれ、その中央に聳えるのが王の居城だ。
 
 意外にも武骨な外観は、この国が魔物との戦いの中で栄えてきたことを象徴する。
 
 だが、その城内に1歩入れば印象はガラリと変わる。
 豪奢な装飾と圧倒的なスケールを感じさせる内装は、華の都にふさわしい。
 
 かつては市民共々立てこもり、王族貴族が魔物との持久戦を行った歴史もあるのだが、今では耳を疑う者もいるだろう。
 それほどに、民衆とは隔絶した華やかな文化が長い歴史の中で醸成されてきている。
 
 
 
 そんな王城の顔たる謁見の間。
 そこに今、1人の青年が入室してくる。
 
 
 
 緑を基調とした礼服はシンプル。
 
 癖のある艶やかな金髪は後ろに流され、歩みに合わせて揺れている。顔の造作は神の創造物かの如き美しさであり、瞳は翡翠を嵌めたように煌めいて、その造形に華を与えていた。
 
 誰が見ても美丈夫と評するだろう青年は、しかし無機質な表情で謁見の間、中央へと進んでくる。
 
 一方、壁に数人の騎士が居並ぶ部屋の奥、豪奢に飾り付けられた玉座には、恰幅のいい壮年の男がいた。
 こちらも多少くすんでいるが金髪に碧眼。華美な服装に身をつつみ、関心の薄そうな視線を歩んでくる青年に向けている。
 
 その青年は部屋の中央で立ち止まり、膝を突いて礼を取った。
 
「此度は急なことにも関わらず、謁見の栄誉を賜りまして厚く御礼申し上げます。アルフレッド・シルバーニ、参上いたしました」
 
「うむ」
 
 広い空間で響いた青年の声は、誰もがハッとするような魅力ある声だった。一方、壮年の男――オルシニア現国王はぞんざいな態度だ。手を振って先を促す。
 
「アルベン山中にて報告のあった件(くだん)の魔物は、無事討伐が完了。その後、民からの被害届もなく、御下命は完遂したと判断いたしました」
 
「そうか。では、下がって良い」
 
「は」
 
 たったそれだけのやりとり。
 何とも簡潔な事だった。
 
 といってもこの王城では何度も繰り返されてきたことだ。
 
 この青年は、もう何度も同じような命令を受け、それを完遂し、今日と同じように王へと報告してきている。そしてまた、そう時間も立たずに命令が下り、同じことが繰り返されるのだろう。
 
 今更、何が変わるはずもなかった。
 
 だが――。 
 今回は少し違う。
 
『おいおい、王様、それだけかよ。お前もお前だぜ? もっとアピールしろよ。あれだけのケガ負って死にかけたんだからよぉ』
 
 ただし、その声に反応する者は、国王も騎士たちも含めて誰もいない。
 青年だけに向けられた“念話”なのだ。
 
「……」
 
 一方の青年――アルフレッドは、不意に頭に響いた念話に眉をしかめた、が、それだけだ。しかし、その動きを王に見咎められる。

 それまで青年に無関心そうだった王が、意外にも口を開いた。
 
「どうした、シルバーニ。なにかあったか」
 
 王の言葉も表情も、表面上は青年を慮るものであったが、実際のところは全く違う。
 それを承知している青年は、表情を無に戻し、平然と嘘をついた。
 
「いえ。お見苦しい所を。……負った怪我が痛んだまでです」
 
 王もそれには気づかない。
 
「ほう。……次の討伐任務は既に決まっているのだが、その様では厳しいやもしれぬな」
 
「……問題ありません。ご用命とあらば、お申し付けください」
 
 その返答に、王はいっそにこやかに笑む。
 
「それは頼もしいことだ。では、詳細は追って沙汰する。今度こそ下がれ」
 
「は」
 
 青年は短く返答し、なんら感情の見えない表情で立ち上がる。
 そして一度も王の顔を見ることもなく、美しく完璧な所作で、謁見の間を辞していった。
 
 



==========================================================================
 





 青年は絢爛けんらんな大扉を抜け、足早に廊下を進む。
 何しろ彼にとってここは、の息苦しい場所なのだ。

 そんな青年の脳内で、再び“念話”が響く。 

『あーりゃりゃ。休みなしかよ』

 先程、街中にいた黒髪黒眼の男のものだ。
 これに青年も念話で返す。

『あんた、少しは黙ってられないんですか』

 ちなみに、双方ともにため、傍目から見れば無表情な青年が通路を歩いているだけだ。

『無理だね。俺はこっちに来て以降、独りが長かったんで、会話に飢えてんだ』

 そう言った“声”は心底楽しげだ。
 一方、青年の機嫌は反比例するように悪くなっていく。

『にしても、お前がケガ痛むって言った瞬間、あの王様、ニヤけたよな。何気に気持ち悪かったぞ』

 仮にも仕える主国王を愚弄されたわけだが、青年はいきどおるでもなく淡々と言った。

『それは、今度こそ僕が死んでくれるのではと期待したからでしょう』

 そんな答えに男は一瞬言葉に詰まり、ボソリと言う。

『……テメエはヘラクレスかよ』

 無表情に青年は訊き返す。

『それは人名ですか? 何の話です』

『いや、いい。こっちの話だ』

『……』
 
 話を打ち切った男に、青年は眉をひそめた。それが表しているのは不満だが、男はその様子に気づかない。

『やっぱり、王様から警戒されてんのはお前の魔力のせいか?』

 男は青年に尋ねる。
 
 まさにそうだった。
 矢継ぎ早に魔物の討伐任務を充てられるのは、王都と地方を往復させ、そのどちらにも人脈を築かせないため。同時に、常にアルフレッドの体力を消耗させておくことも狙っている。

 こういった青年の状況は男も薄々察していたが、ここまであからさまな敵意と警戒を伴うものとは思っていなかったらしい。

『もちろん。王家の血筋を上回りかねない僕の魔力は、まさに国として眼の上の瘤でしょうし――』

 対して、その渦中の青年は相変わらず他人事のように言った。

『――それに、この“耳”は、僕が普通じゃない事の証だ。そこらの者たちを見ればわかるでしょう。皆、僕の耳これを見て顔をしかめる』

 その通りだった。

 王城の通路には政務に携わる文官に、城内をまわす女官たち、その他様々な者たちが立ち働いている。そのほとんどが、アルフレッドが通りかかれば恐れたように顔をこわばらせ、その“耳”を見ては眉をひそめている。

 本人たちは精一杯隠しているつもりのようだったが、動体視力が優れた青年にはすべてが視界に入っていた。

『……別にみてぇでカワイイと思うけどなあ』

『……』

 男は納得のいかない様子で宣(のたま)うが、それに対するアルフレッドはピクリと眉を跳ねさせたのみ。

 実際、青年の“耳”は横に張り出し、先が尖った形をしている。では“エルフ耳”と言えるだろう。

 だが、アルフレッドのような外見を、「エルフ」ではなく、「亜人」と呼ぶのだ。ニュアンスとしては、地球の西欧で伝承される“取り換え子changeling”が近い。

 男には抵抗ある呼び方だった。

 そのため、男は青年の耳を“兎の耳”のようだと言ったりする。確かに、大きいだけに細やかに動くその耳は、青年の心を多少は窺い知れて面白い。男にとっては好ましいものだった。

 初対面時に「苗字も“シルバーニ”で、某兎のお人形、思い出すしな」とも男は口走ったが、当然この世界では通じない。

『ま、俺さえいりゃあ、休みなしで次も大丈夫だろうよ、安心しな』

『……』

 大概において鉄面皮なアルフレッドの顔が、この瞬間、盛大に顰められる。「誰が頼るか」とでも聞こえてきそうだ。

 ただ、彼は良くも悪くも注目の的であるため、その顔を顰めた瞬間は多くの者たちに見られていた。それに、大概無表情な美貌の青年が不機嫌そうにしているとなれば更に目立つ。

 そんな瞬間を目撃することになった者たちは、青年の機嫌が相当悪いのか、怪我が重いのか、あるいはその両方だろうか、と盛大に噂し、その珍しさに再度眉をひそめていた。


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