【R18】お父さんと僕、ときどき弟(仮)

鯨井兀

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Ix

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 ◆

 ム—、 ムー、 ムー、 ムー

 どこからか聞こえるスマホのバイブ音。
 自堕落に手探りしているうちに、音は途切れてしまう。

「はぁ」

 起きなきゃと思うのに、目を開けたくなかった。
 全てが、ただの夢なのだと。
 彼のいないベッドで、ひとり目を覚ます……その現実を受け止めるのが辛かった。

 ——『暉』

 そう、僕を。僕じゃない名前で呼ぶ、美しい同級生。
 これがただの夢で、まやかしの愛だとしても。
 それでも、この時間が永遠に続けばいいと、そう願っていたのに——


 ◇

『あ……っ、はぁ、ぅ………っ』

 男の柔らかな唇が、股間のものを咥えこみ、舌がねっとりと絡みつく。
 僕はシーツを掴み、身を捩って喘いでいた。
 喉が反り、鼻がピクピクしてきて、今にも果てそうである。

『ぁ、んぅ、はあッ、んぅ……ッ、もお、ぼく、でっ、出——』
『……昔さあ』
『エッ』

 んあ、と開けた男の口から。
 僕の僕が、てこの原理で僕の下腹部に戻って弾けた。

『遠足……? とかで。昔、クラスの奴らと鍾乳洞に行ったんだけど』
『はぁ、はぁ、はあ……?!』

 男の残酷な所業に、自分が受けたのは愛の告白ではなく、
 拷問宣告だったのでは——?と。
 天井を刮目し、僕は体をビクビクと痙攣させていた。

『その洞窟の、そこら中に石筍せきじゅんがあって。当然、男ばっかだし、ちんこだちんこだってバカみたいに騒いでたんだけど』
『はぁ、はぁ……それは……バカだね……大バカ者だよお……っ』

 そんな馬鹿げた回想などさっさと切り上げてもらって。
 今すぐ続きをして欲しいと、血眼で上体を起こす。
 しかし股座の男は、至極幸せそうに、うっとりと僕の一物に頬擦りしているのだった。

『……ほんとバカだよな。俺もそん時、花井暉のちんこは、どんなだろ?ってバカみたいに想像してたんだよね』
『え……』
『俺さ。どこにいても、何をしていても。いつも暉のことばかり考えてたな。それで気がつくと病室にいるんだ。管に繋がれた君の寝顔、ずっと眺めてた』
『僕を……どうして』

 遠足なんて、いつのことかも覚えていない。 
 きっと僕は病欠したのだろうし、そもそも、ちんこを想われるほど、彼とは親しくなかったのだ。

『……どうしてかな。理由も考えなくて、ただ会いたかったから。いつか……君が自由で、何にも縛られていないベッドで、一緒に朝を迎えてみたいとか。ふふ、おとぎ話みたいに、お姫様が俺のキスで目覚めたらいいな、とか? そういう事ばかり考えてたな』
『時岡、くん』
『ねえ、この前みたいに名前で呼んでよ、暉』

 無駄にはだけたエロい宗教画みたいな男に跨られ、僕は処女の受胎告知ならぬ、童貞のまま腹上死しそうであった。

『俺の夢、叶えてよ。……暉と、繋がりたい。体の奥まで、感じてみたい』
『ぅ、ん……僕も、したぃ。ハルカ、くん、と——』
『暉……』

 男の華奢な指が、僕のしとどに濡れた石筍に触れる。
 そして僕らは、眩暈のするようなキスをした。
 好きな人に愛され、愛おしいと思う気持ちで、胸も、股間もいっぱいに膨れあがり——

 ほとばしる快感に、目の前が真っ白になった僕は。
 こうして再び、現実世界で目覚めてしまっていた。

 ◇

「はぁ……。こんなの、辛すぎるよ」

 ようやく目を開け、手探りで己の股間に触れる。
 かろうじて夢精は免れたらしいが、相手の居ない虚空を、未だ空しく突き上げていた。

(……いや、でも。あの夢の続きは、きっと地獄の沙汰に違いない。僕は童貞らしく一突きで無様にぶち撒けただろうし、憐れむ恋人の顔を見ずに済んだんだから。……せめて僕が、受け側なら、まだ惨めにならずに——)

 目を閉じ、もう一度、初夜のまぐわいに思いを馳せてみる。
 しかし——。
 モザイクがかった好きピのペの部分は、どう見ても自分の石筍より巨悪だった。
 童貞の処女穴には、それもまた地獄の沙汰の拷問となっていたに違いない、と絶望するのだった。

「進むも地獄、進まざるも地獄、進退これ窮まれり……とは、まさにこの事だな」

 持ち主同様に、股間もしおらしく萎えていく。
 溜め息まじりにもう一度、愛しい恋人の名を呼んでみた。

「会いたいな……好きだよ……ハルカくん……」
「ん……」

 思いがけず、傍らでモゾモゾと蠢く人の気配がして。
 反射的にガバッと、布団を捲り上げていた。
 そこに居たのは当然に、夢の中の愛しい恋人ではなく。
 それでも等しく愛しい、僕の掛け替えのない大切な弟が寝ていたのだ。

「ハァ。惺、どうしてそんなに布団の中に潜っちゃったの。あー、さてはまた指しゃぶりしてるな?」  

 コチョコチョと脇をくすぐりながら、弟のご機嫌を窺う。
 昨日は寝ぼけていただけで、また避けられるようでは、本格的に膝を付き合わせて協議しなくてはならない。

(今週は先生のとこに行くの、断って正解だったな。 僕には惺がいるんだもの。いい夢も見たし、そろそろ身を改めて、爛れた関係はやめなきゃなぁ。……そういえば、久しぶりだったな。あんな夢を見たのって) 

 思い返せば父の失踪後、なぜか母まで家を空けるようになり。
 暫くは兄弟二人、広すぎる家で身を寄せ合うように寝ていたのだ。

(僕が、遅くまで試験勉強するようになって。惺も一人で寝られるようになってたから、そのまま寝室もバラバラになったけど。二人で寝てたときは……まだ、ハルカ君の夢をよく見てたっけ)

 寝癖でさらにモジャモジャの巻き毛を撫でながら、ふと懐かしい気持ちになっていた。

「惺は、昔のハルカ君に似てるのかも。あれ……? 僕、もしかして……会えないあまりに、とち狂って記憶の捏造まで……?! 身近な弟まで、淫情の餌食に?!」

 弟の両頬をムニっとおさえ、その顔をあらためる。
 よく見て、全くの勘違いだと確認したかった——のに、

「えっ、惺……っ。どうしたの……?!」
「ぅぅ、ハァ……ハァ……」

 額に汗を滲ませ、苦しげに胸元をおさえる弟。
 その熱った頬と、異様に熱い体温に。
 兄はようやく、弟の異変に気付くのだった——
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