【R18】蕾の乙女は手折る花を誰に捧ぐ【完結】

鯨井兀

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そういう子

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「でもさ~このままじゃエマは一生、神殿ココから出られないかもよ?」
「……?どうして? 乙女の任期はもうすぐ終わるし、退職金も少しは出るでしょ。私、ここを出たら住み込みで働ける場所を探すわ。それでお金を貯めて、いつかは小さくても自分の家と牧場を持つことが夢なの」

 祖母と暮らしたサザンカの生垣に囲まれた、小さな家を思いだし、ふふ、と笑みがこぼれる。
 塔をでたら故郷に戻るつもりはない。
 長く寝たきりだった祖母も、私が乙女に選ばれる前日に亡くなってしまったから。

 (祖母の他には、あまりいい思い出がないもの。むしろ男性不審の原因は、あの家だから……)

 嫌なことを思い出しそうになって、すぐに頭をふりかぶった。

「そっかぁ、エマは知らないんだ。毎年、何人かは神殿に残るってこと」
「そうなの? 信心深い子もいるのね。みんな良家のお嬢様ばかりなのに神殿に残るなんて」
「そうじゃなくて。乙女の中には家柄はいいけど親が借金だらけって子もいるよ。そういう子は最初から神殿で使われるために乙女に選ばれてるの。夜伽実習も受けてるし、そういうことのために」
「そういうことって、どういうこと?」と聞き返し、足を止める。

 廊下に差し込む日差しも傾きはじめ、もうすぐ3度鐘が鳴る頃だ。
 授業はもうないけど週番の仕事がまだ残っているのに、すっかり話し込んでいた。

「神殿って客人がいっぱいくるでしょ? 各国の要人に高額な寄付金を持ち込む砂漠の大富豪。そういう利害関係者スポンサーの〝おもてなし〟に神殿が外からえっちなお姉さんを呼ぶわけにもいかないから。〝そういう子〟がいると便利なの」
「そういう子………」

 そこまで言われたら、私でも意味が理解できた。

「エマみたいに帰る家もなくて大人しくて真面目な良い子は、神殿に残されちゃうよ。現に誰よりも神殿の仕事手伝ってるじゃない。週番だってずっと一人でやってるし」
「それは私は平民だし、働くのは慣れてるからで、あとは退職金のためにやっていただけよ。それ、本当に本当なの? 私、困る……そのために私は乙女に選ばれたの? 貴族のお嬢様でも綺麗でもないのに、どうしてだろうって思ったことはあったけど」
「うーん? そこまでの事情はわかんないけど、平民の、しかも田舎でひっそり暮らしていた子がどうして?っていうのは、みんなも思ってるよ。皇帝の愛人じゃないかって言ってる子もいたし」
「あるわけない………っ。何も知らなくて、ただ、勤め終わったらお金も貰えるって聞いたから神官様に付いて来ただけで」

 頭がくらくらしてきて、目の前の廊下の壁にそのまま激突してしまいそうだ。
 神殿に残されるということは、今よりもっと体を差し出すということ。
 望まぬ人と体を重ね、ただ、神殿という鳥かごの中で朽ちていくだけ——。

「で、でも、私なんて神殿に残しても役に立たない。綺麗じゃないし、そんな立派な方に求められるような体してないもの」
「え~。エマは充分エロい体してるよ。足もスラッとしてて、わたしたちみたいにフニャフニャの体してないもん。胸も控えめで手のひらにおさまる感じがいいよね。乳首とか真っ赤になるくらいしつこくイジメて、痛いって泣くエマを後ろからガンガンついてさ。細い腰もエロいから、騎乗位もいい……って感じでさ。とにかく、エマのことを好きなヒゲおじみたいな性癖はこの世にごまんといるのよ」
「そんなおかしな人が?……こわい、それに困る……。どうしよう、神殿から出られなくなったら、おばあちゃんとの約束も果たせないもの」
「だーかーらー」

 私の手をとると、ユーテルは優雅にくるくると踊ってみせた。
 野ざらしのカカシみたいに棒立ち状態の私を相手に、まるでここが宮廷の舞踏会場の真ん中かのように華麗なダンスを披露する。

 (ユーテルも間違いなく良家のお嬢様なのよね。詳しく尋ねたことはないけどダンスも知らない〝そういう子〟の私とは元から住む世界が違うわ)

「じゃんっ」と最後のポーズを決めたユーテルは、子猫のように胸に飛びついてきた。

「だから一緒に大神殿に行こうってば! エマにご立派な身分のお相手が現れたら、神殿も引き止めておくことはできないもの。その人、超―好物件だよ」
「でも、私、その人と結婚までは考えられない。まだ会ったこともないし、向こうだって、会ってみたらそうでもないことになる可能性が高すぎる。ハァ……どうしよう」
「とりあえず会ってみなって。エマがお願いしたら、フリでも(仮)カッコかりでも喜んで相手役パートナーをしてくれるはずだよ。だから一度会ってみて」
「うん……ありがとう、ユーテル。会ってみる……仲良くなれたら、その人に婚約者のフリをお願いしてみる」
「じゃあ決まり!」と、背伸びをして私の頬にハグをすると、
「うーん、とりあえずは、ひと目につかない方がいいから~。本殿裏の雑木林わかる? ちょうど書庫のあるあたりなんだけど」
「わかると思う。司祭様のおつかいで何度か本を借りに行ったことがあるから」
「じゃあ、そこで五時にね。約束だよ」

 ユーテルの背中を見送ってから、いっきに脱力してその場にしゃがみこんでしまった。

「やっと自由になれると思ったのに……。幸せになるって、おばあちゃんとの約束、絶対守るんだから。そのためには婚活——……うん、頑張らなきゃっ」

 顔をあげて、窓のむこうに小さく切り取られた空を見上げた。


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