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無実の証明
しおりを挟む「ここです」
男が立ち止まり、私もようやく憂鬱な顔をあげた。
その瞬間、私は目を何度も瞬いた。
「こ、ここは? ええ……?」
あまりの衝撃に、その場に腰を抜かしてしまうところだった。
手品ショーみたいに舞台装置が総入れ替えされたのか、キツネにでも化かされたのかーー
美しくも慎ましやかな白亜の塔とはまるで違う。
黄金の装飾品が施された柱や、上等な敷物の通路。
天井からはガラス細工が眩しいシャンデリアがいくつも垂れ下がるような豪華絢爛な廊下に、私は知らぬ間立っていたのだった。
そして目の前には、司祭室よりも貴賓室よりも立派な扉がーー。
「ここは、え?! どこなのでしょう、塔内ではないような……っ。私ったらいつの間にこんなところに……まるで王宮ではないですか」
「シスターは王宮に行ったことでも?」
「い、いえ! とんでもない、こんな感じなのかなと、つい……。ここは、私などが立ち入ってよい場所なのでしょうか」
「構いませんよ。わたしの私室ですから」
「し、私室………?」
そういって男は当然のように中へと入っていく。
修道士たちの私室に立ち入ったことなんて勿論ない。
でもこんな部屋が一介の修道士に与えられるとは思えなかった。
(塔内にこんな場所があるわけないわ……週番の仕事で誰よりも知り尽くしているはずだもの)
戸惑いを隠せず、部屋の前でオロオロする私に、
「こちらも女を連れ込んでいるなどと、いわれないことを噂されても困るのですが」
「は、はい!? そう、そう、ですよね」
思い切って足を踏み入れるとフカフカの絨毯にすっかりくたびれた革靴がうもれる。
部屋の中はベールの下がる立派な寝台の他に、ソファも浴室まであるようだ。
一介の修道士には似つかわしくはないが、この男には当然の部屋に見えた。
けど贅を尽くした部屋の中で、一際輝いて目を引くものがあった。
「わあ……」
壁に飾られた絵画は、どこか懐かしい川や野山を描いたものばかりだった。
この部屋の中で唯一、ぬくもりを感じるもののように思えた。
「この黄金の草原なんて、まるで風の音が聞こえてきそうです。素敵な絵ですね……こっちは牧草地みたい、あ、ここに牛も!」
「男の部屋に来てはしゃぐとは、塔では乙女に何を教育しているんでしょうね」
「っ……! も、申し訳ございません、つい……」
男の冷ややかな言葉に恥ずかしさで顔が赤らむ。
けれど寝台に腰掛けた男は口調とは裏腹に、優しく微笑んでいるように見えた。
「エマ、こちらに来てください」
「は、はい」
自然に名前を呼びすてられるが、なぜか嫌ではなかった。
男はかけていたメガネを外し、やってきた私を見上げる。
(この人、めずらしい瞳の色だわ……。あれ? 前にどこかで、この夕日に似た瞳を見たことがあるようなーー)
メガネをかけていた時とは、なんだか声も雰囲気も変わった気がする。
ぼんやりとその瞳を見下ろしてから、はたと気がつく。
どう考えても地位がありそうな修道士を見下ろしている事に気付き、慌てて床に座った。
そんな私をしばらく眺めながら、男は薄い口元を引き上げて笑った。
「残念だが俺に女を跪かせる趣味はないんだな。それに立ってくれないと検査が出来ないだろう」
「検査、ですか」
「最近、ちまたで面倒な薬が出回っているらしい。皇家に伝わる妙薬を改良したもので、男が飲めば禁制を、女が飲めば刻印を解くほど精力が増強するとか」
そういって男は、私の肩をトントンと指で叩いてみせた。
(肩の、刻印……そうだ、私も鎖骨あたりにあるものだわ)
〝乙女の刻印〟は薔薇の蕾をあしらった模様をしていて、異性と過ちを犯しても孕むことはないという不授の術だ。
騎士たちとの交わりを黙認しても、お腹まで膨れられては、〝蕾の園〟を管理する神殿の権威に関わるからだろう。
私は言われた通りに立ち上がり、襟元のリボンに手をかける。
「私は妙薬など、もちろん知りません。刻印もしっかり肩に残っています。それを……ここでお見せすればよいのでしょうか」
「いや、それでは不十分だ。君が妙薬を知らなくても一緒にいた修道士は服用済みかもしれないし。生殖機能が正常の男と二人きりでいたのなら君の貞操も疑わしいだろ」
「わ、私たちは偶然居合わせだけで……」
妙薬が出回っていると聞いてルーメン修道士が疑わしいのは確かだ。
いくら自分は無関係だと主張しても、平民の女の言葉など信じてもらえる確証はない。
「帝国の騎士ならまだしも、神の御許で聖職者同士が交わるのは許されない。花園を荒らす行為は神殿のみならず皇家への反逆罪と見なされるから」
「反逆だなんて……!私は決して不貞など冒してしていません。まだ殿方と交わったことはないと、神に誓って申し上げます」
祈るように握りしめた両手は震えが止まらない。
(このまま重い罰が与えられたらどうしよう。おばあちゃんとの約束を守ることだけが、私の生きる希望だったのにーー)
すると「じゃあさ」と男の声がした。
「中を確認させてよ。エマの中を」
「中……?」
「乙女として塔に参じる前に神官の触診を受けただろう。俺にも多少の神聖力があるから、触れさせてくれたら君がまだ男を知らぬ清い体だと証明できるよ」
「それは本当ですか? よ、よかったぁ……」
体から力が抜けて安堵したのも束の間、神官から受けた〝触診〟を思い出し、体が強張った。
そして目の前の男を見つめたままカァーッと体が熱くなっていく。
(あれって確か、神官様の指が下着の中に入ってきて、それで中を指で……えっ! それを、ここで、今、この人が?)
あの頃は状況もわからぬまま、村の人たちに見守れながら陰部をさらし〝触診〟を受けた。
でも今はたった一人の男を前にして恥ずかしくてたまらない。
日頃もっと卑猥なことをしているのに、授業でも道具でもないとなると躊躇してしまう。
けどそれはこの若い修道士も同じかもしれなかった。
「嫌ならいい。神官が徒党を組んで押し寄せるだろうけど」
そっけなく背けた顔が、耳まで赤くなっているのが見えた。
(意外だわ。女の扱いにも手慣れた人だと思ったけど、そうじゃないのかしら)
とはいえ二人で赤面していても埒があかない。
私は意を決してスカートを握りしめ、
「う、受けます……! して、ください。お願いします……っ」
大事にされるより一瞬の恥じらいなど捨てた方がマシなはずだ。
スカートの裾を持ち上げ、ゆっくりと男の前に陰部をさらしていく。
目の前の男も緊張しているのか、喉がゴクリと鳴るのがわかる。
お互いのためにも早々に検査を終わらせて、二度と関わりのないようにするのが一番だ。
「……もっと近くにきてよ。足もそんなに閉じたままじゃ出来ない」
男の吐息がかかり、露わになった秘所をさらに熱くさせる。
修道服はくるぶしまであるほど長く、見た目は清楚だけど、中は腰が半分隠れるほどの薄い下着のみなのだ。
男の熱っぽい手が太ももに触れ、
「……指、いれるよ」
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