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王子様
しおりを挟む泉から出て身支度を整え元の場所に戻ると、ちょうど騎士様も戻ってきたところだった。
私は手に持っていた聖水で洗ったリボンを、すぐにポケットに押し込んだ。
「騎士様、お帰りなさいませ」
「ああ、いま戻ったよ」
馬の手綱を物干しに軽くまきつけ、さわやかな笑顔で歩いてくる。
手には手折られた一輪の野花が握られていた。
「わぁ……綺麗な花ですね。なんの花でしょうか。花ニラ、に似てますけど」
全ての花ニラが食欲ではないものの、食べられる草花にしか詳しくない事が少し恥ずかしかった。
「泉の近くに自生していたんだよ。可憐でとても良い香りがして、エマにぴったりだと思って摘んできた。名がなければ君の名をつけましょう。国花にします」
と私の髪に差し入れた。
「ふふ、騎士様は冗談がお上手です」
「あの日も君に花を贈りたいと思ったんだ。鳥篭の中が騒々しくて、とてもそういう雰囲気じゃなかったけれど」
「そうでしたね。あの鳥も外の方が好きみたいでしたから。私も恨まれてしまいました」
笑う私の髪をなで、優しく目を細めた。
「髪を結ったのだね。あの日と全部同じだ……よく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます。馬に乗せていただくので今日は邪魔にならないようにと思って」
騎士様は私の後ろにまわり込んで、珍しいのか、編んだ髪に触れてたり、握ったりしている。
「騎士様の柔らかな髪が羨ましいです。私は髪が針金のようだと、よく祖母に笑われました。幼い頃は短くするとタワシのようになったんです」
「ハハハ。大人になった君の髪は風に舞う天女の羽衣のようだったよ。昨日は鼻や首をくすぐられ、昂りを抑えるのが大変だったんだ」
うなじに息がかかり、背筋がゾクリと震えた。
「あの……支度も出来たので、もう出ましょうか」
「……まだ駄目だよ。エマの制服姿をみたら、またこんなに滾ってしまったんだ。僕を誘惑するために髪まで編んで……悪い子だね」
手がうなじから首筋へと滑り、そのまま胸元のボタンをはずしていく。
「……っ、だ、だめです。帰らないと。あぅ……っ」
胸元に入ってきた手は、まだ濡れていてひんやりとしている。
「言ってくれればいくらでもしてあげるのに。ふしだらな乙女には雄の大きなものでお仕置きしないと」
指先が乳首をとらえ、転がし弾いて刺激を与えてくる。
何度も交わった体は恐ろしいほど過敏に反応し、ゾクゾクと快楽が駆け巡った。
「そのまま壁に手をついて」
「だめ……っ。イヤです、もう、したくありません。早く帰らないと。お願いします」
「どうして? さっきまで僕をあんなに求めて、中を締め付けて子種を強請っていただろう。……とてもいい子にしてたのに。——もしかして、これのせい?」
お尻をなでまわしていた手はいつの間にかポケットから、リボンを引き抜いていた。
「あっ、それは——」
「どうしてこんなものを、まだ大事に持っているの。いくら聖水で洗っても穢れは消えないんだよ……ねぇ、エマ。許せるのは一度きりだと、僕は言ったよね」
耳元で囁かれた声にゾクリと身の毛がよだった。
顔は見えないけど、とても怒っているように感じた。
そして、騎士様は私の手首を捕えると、そのまま強く壁に押し当て、リボンで縛り付けていった——
「やぁ……ッ」
「僕はこんなことをしたくないのに。エマが悪いんだよ……二度目は縛らなくてはならないと、最初にそう伝えただろう」
「い、痛いです、やめてぇ……!」
「いいね、その声……もっと聞きたいな……僕の雄の部分がビクビク反応してる。制服姿の君との情事を何度妄想したかわからない。毎晩こんなことを想像をして、自分を慰めていたんだ。どこにも行けないように縛り付けてしまいたいって……」
「や、こわい、やめてください、騎士さま」
「その台詞、騎士様じゃなくて名前で言ってみてよ……ちゃんと名乗っただろう、キリアンだと。ローガニアは母の家門だから、求めに応じてもう少し名乗る事もあるんだ」
と編んだ髪の匂いを深くかいで、愛おしげに頬擦りをする。
「エマにだけ、特別に教えてあげる。キリアン・ローガニア・アストリア……」
「え?」
「それが本当の名前なんだ。僕は帝国の王子だからね」
——アストリア帝国と同じ名を持つ王子——
すぐにはその名を重大さと、大きなあやまちを理解出来ずにいた。
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