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十九 急転直下
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「どういうことですか?」
珍しく眉を潜める琉論に、大公単福が小さく息をついた。
「どうもこうもない……雲英皇帝の裁断では従うしかあるまい」
「そうよねぇ……」
相変わらず桃花のようなふんわりとした笑みを浮かべつつ智娃太々の顔色も冴えない。
「いきなりの諸国併合なんて……」
ふぅ……と息をつく姿も艶めいてそれはそれで眼福ではあるのだが、気分の優れない様のほうが息子としては気にかかる。
皇帝からの綸旨を要約するに、昨今の流行病で青千輝帝国の人口は著しく減少している。
乱立する小国を通しての采配が煩雑過ぎたこともあって、それぞれの国にあった政庁を2つに統合して、新しい国……とするという。
ざっくりではあるが、比較的人口の多い都近くの三国、花信風、蝉時雨、朧月夜でひとつ、山を隔てた蜃気楼、十六夜、夢見草、宵待月、不知火でひとつの国と見做す……との通達だった。
「新しい国は、まだ名称が決まっておらぬが、とりあえず政庁は旧蜃気楼の領内に置かれるそうだ」
「はぁ……」
とは言え、いきなり『みんな仲良く』と言われても混乱必須。それぞれの国の大家には交流があるところもあれば、そうでないところもある。
考えた末、後の五国の大公達が相談して作ったのが夜想連盟……なのだそうだ。
聞くところによれば、旧蜃気楼の大家、天楽の亘禹と白乃の当主夫妻は、夜ごと自邸で竹牌の宴を催し、近隣の他家との交流を積極的に図っているという。
「今は天叢雲だっけ……同じ旧家の雲遊風天と縁組して名前を変えたんだよな……」
なぜか当然のように付いてきた黒猫のウェイインがうんうんと頷く。
「我れもたまに遊ばせてもらっているが、亘禹はなかなかに強いぞ?」
「え?ウェイイン、竹牌するの?」
「するぞ。それなりに強い」
目を丸くする玉婉に、浅緑の目がニヤリと笑った。
「……猫のクセに………て、痛てっ!」
ポソリと呟く琉論の足に小さな牙がカプリと噛み付いた。
「ランジャン、なんで噛むんだよ~!」
「ウェイインの悪口は許さにゃい!」
黒猫の傍らで、真っ白な子猫がフンフンと鼻を鳴らし小さい牙を剥くさまは……可愛い。
まあまあ……と薄紅の羽根扇で場を宥めて、太々がにっこり微笑んだ。
「そこでね……」
ふふっ……と微笑うその笑顔に、東雲は嫌な予感しかしなかった。
「私たちも他家の皆さまをお招きして、おもてなしをしようと思うの」
「おもてなし……ですか?」
顔を見合わせる東雲たちの頭に、あの狂乱の宴が否応なしに浮かんできた。
「場所は決めてるの。………ほら、東雲、あなたが曾祖父様から譲り受けた島があるでしょ?」
「島………ですか?」
嫌な予感的中……な東雲は渋い顔で、ねっ?と微笑む大公夫人に首を振った。
「あそこは今は工房なので……」
曾祖父の頃には鄙びた漁村しか無かった島だ。遠縁の者たちがせっせと開発してきたそこを東雲が譲り受けたのは、やはりあの島にも『扉』があったからだ。
一時は行楽地開発にも力を入れたが、流行病の殞醍の大流行ですっかり寂れてしまった。
いまは東雲の弟子たちが精密絡繰の研究に勤しむ工房と小さな旅館があるばかりだ。
「大丈夫よ、十六夜の他の家々の方々も力を貸してくださるから……」
だ・か・ら……と太々の白魚の指がピンと立った。
「あなた達は国を巡って食材を探してきてちょうだい」
イヤとは言わせぬ目の笑っていない笑顔に背筋を凍らせる一行を憐れむような眼差しで見ながら大公単福がボソリと言った。
「『ふさふさの書』のことも忘れてはならんぞ……」
よくよくと見れば大公生え際がまたひとしきり後退しているように見える。
「そうよ……大公さまのお髪のためにも……」
ー最近は、また抜け毛が増えたみたいで……ー
傍らで囁く薬師の趙凌明のやつれようが心なし気の毒な一行だった。
珍しく眉を潜める琉論に、大公単福が小さく息をついた。
「どうもこうもない……雲英皇帝の裁断では従うしかあるまい」
「そうよねぇ……」
相変わらず桃花のようなふんわりとした笑みを浮かべつつ智娃太々の顔色も冴えない。
「いきなりの諸国併合なんて……」
ふぅ……と息をつく姿も艶めいてそれはそれで眼福ではあるのだが、気分の優れない様のほうが息子としては気にかかる。
皇帝からの綸旨を要約するに、昨今の流行病で青千輝帝国の人口は著しく減少している。
乱立する小国を通しての采配が煩雑過ぎたこともあって、それぞれの国にあった政庁を2つに統合して、新しい国……とするという。
ざっくりではあるが、比較的人口の多い都近くの三国、花信風、蝉時雨、朧月夜でひとつ、山を隔てた蜃気楼、十六夜、夢見草、宵待月、不知火でひとつの国と見做す……との通達だった。
「新しい国は、まだ名称が決まっておらぬが、とりあえず政庁は旧蜃気楼の領内に置かれるそうだ」
「はぁ……」
とは言え、いきなり『みんな仲良く』と言われても混乱必須。それぞれの国の大家には交流があるところもあれば、そうでないところもある。
考えた末、後の五国の大公達が相談して作ったのが夜想連盟……なのだそうだ。
聞くところによれば、旧蜃気楼の大家、天楽の亘禹と白乃の当主夫妻は、夜ごと自邸で竹牌の宴を催し、近隣の他家との交流を積極的に図っているという。
「今は天叢雲だっけ……同じ旧家の雲遊風天と縁組して名前を変えたんだよな……」
なぜか当然のように付いてきた黒猫のウェイインがうんうんと頷く。
「我れもたまに遊ばせてもらっているが、亘禹はなかなかに強いぞ?」
「え?ウェイイン、竹牌するの?」
「するぞ。それなりに強い」
目を丸くする玉婉に、浅緑の目がニヤリと笑った。
「……猫のクセに………て、痛てっ!」
ポソリと呟く琉論の足に小さな牙がカプリと噛み付いた。
「ランジャン、なんで噛むんだよ~!」
「ウェイインの悪口は許さにゃい!」
黒猫の傍らで、真っ白な子猫がフンフンと鼻を鳴らし小さい牙を剥くさまは……可愛い。
まあまあ……と薄紅の羽根扇で場を宥めて、太々がにっこり微笑んだ。
「そこでね……」
ふふっ……と微笑うその笑顔に、東雲は嫌な予感しかしなかった。
「私たちも他家の皆さまをお招きして、おもてなしをしようと思うの」
「おもてなし……ですか?」
顔を見合わせる東雲たちの頭に、あの狂乱の宴が否応なしに浮かんできた。
「場所は決めてるの。………ほら、東雲、あなたが曾祖父様から譲り受けた島があるでしょ?」
「島………ですか?」
嫌な予感的中……な東雲は渋い顔で、ねっ?と微笑む大公夫人に首を振った。
「あそこは今は工房なので……」
曾祖父の頃には鄙びた漁村しか無かった島だ。遠縁の者たちがせっせと開発してきたそこを東雲が譲り受けたのは、やはりあの島にも『扉』があったからだ。
一時は行楽地開発にも力を入れたが、流行病の殞醍の大流行ですっかり寂れてしまった。
いまは東雲の弟子たちが精密絡繰の研究に勤しむ工房と小さな旅館があるばかりだ。
「大丈夫よ、十六夜の他の家々の方々も力を貸してくださるから……」
だ・か・ら……と太々の白魚の指がピンと立った。
「あなた達は国を巡って食材を探してきてちょうだい」
イヤとは言わせぬ目の笑っていない笑顔に背筋を凍らせる一行を憐れむような眼差しで見ながら大公単福がボソリと言った。
「『ふさふさの書』のことも忘れてはならんぞ……」
よくよくと見れば大公生え際がまたひとしきり後退しているように見える。
「そうよ……大公さまのお髪のためにも……」
ー最近は、また抜け毛が増えたみたいで……ー
傍らで囁く薬師の趙凌明のやつれようが心なし気の毒な一行だった。
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