対の翼は離れない

永川さき

文字の大きさ
8 / 9

交際を飛び越えて

しおりを挟む
 普段は何も言ってこないが、酒に酔うと五年経った今でもこの話で絡んでくる。
 またか、と慣れたものではあるが、そろそろ善一と孝一の選択を受け入れてほしいものだ。
 
「それだけ俺たちと一緒に日の丸を背負いたかったんだろうね」
「そうだな」
 
 今や世界ランク上位となった夏央と雅俊。
 オリンピックでもメダルを狙える実力を持つ二人は、きっと今ごろ明日の夜から行われる試合に向けて調整しているのだろう。

「明日の試合、配信あるんだよね」

「そうそう。予約設定してあるから通知もバッチリだ」

 孝一はスマートフォンを手にするとひらひらと振って準備万端であるとアピールした。
 
「次の日仕事だけど、一緒に見る?」
「ああ。どっちの家にする?」
「俺の家。孝一の私物、ほとんど揃ってるし」
「だな」

 二人の家は社宅で隣同士だ。
 その日の練習の反省会をしたり、試合の録画や配信を見ているうちに寝落ちして、翌日慌ただしく自室に戻るのが馬鹿らしくなり、寝落ち前提でお互いの部屋に私物を置くようになった。
 意外に思われるかも知れないが善一の方が料理の才能があるため、善一の家に泊まることが多いのだ。

 二人がにっと笑い合ったところで音楽と共に花火が上がり始めた。
 昨年流行ったJーPOPに合わせてリズム良く打ち上げられていく。
 その度に窓越しに僅かな振動が伝わってきた。
 花火を見るのは久しぶりで、善一はその光のダンスに夢中になっていた。

「善一」

 不意に名前を呼ばれて隣を見ると、孝一は真っ赤な顔をして手にした小さな箱を差し出してきた。
 孝一はおもむろにその箱の蓋を開けると、現れたのは二つ並んだ銀色に光る指輪だった。

「バドだけじゃない。俺の隣には善一が必要だ。好きだ。結婚してください」

 熱烈なプロポーズに、善一の体も思考も完全にフリーズした。
 それもそうだろう。
 別に、善一と孝一は付き合っていない。
 体を重ねるどころかキスもしたことない。
 そんな状況で、孝一はいきなりプロポーズをしてきたのだ。
 はっきり言って無謀にも程がある。
 
 だが、時間が経つにつれ込み上げてきたのは歓喜だった。

  同じ会社に就職して夕方には必ず会えるというのに、高校の三年間クラスが同じで四六時中一緒にいたため、日中会えない時間は自分の半分がなくなったような喪失感があった。
 
 バドミントンをしている時は気分が高揚し、孝一となら何でもできるような気がした。
 
 練習が終わり、善一の家で善一が作った夕飯を食べる時は、孝一の体を構成しているのは自分の料理だと思うと妙な胸の高鳴りを感じていた。
 次第にスポーツ選手のためのレシピ本を書い、栄養満点の食事をするのはかなり楽しかった。

ラケットのガットの張り替えで贔屓にしている個人経営のスポーツ店に行き、善一が会計をしている間、先に店から出て待っていた孝一が逆ナンされている時はその女性に酷く嫌悪感を抱いた。
 胸の中にどろりと黒いものが渦巻いて、誰に孝一を取られたくないと強く思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

書架の蜜、指先の熱

Sina
BL
古びた頁の匂いと、西日の中に舞う塵の粒。 図書委員・羽鳥圭の「静かな城壁」を壊したのは、太陽を凝縮したような陸上部の少年・織田准だった。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

好きです、今も。

めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。 ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。

処理中です...