対の翼は離れない

永川さき

文字の大きさ
9 / 9

黙らせる方法

しおりを挟む
 そのすべてが恋心だと気付いたのは、まさしく孝一のプロポーズのお陰だ。

「俺も、好きだ」

 体を巡る血液が沸騰しているかのように思えた。
 自覚したばかりの気持ちを告げることがこんなにも勇気がいるのかと初めて知った。
 そして、恐れることなく善一に想いを告げてきた孝一に今すぐ抱きつきたくなった。
 だが、この後の流れは恋愛をしてこなかった善一でも流石にわかる。

「っありがとう。一生大事にする」
「俺もだよ」

 善一の答えに、孝一は花火にも負けないくらい顔を輝かせた。
 化粧箱を握っている孝一の指先の震えが止まったのが見て取れた。
 孝一はいそいそと箱を机の上に置くと、二つの指輪をそっと取り出した。
 そして、その内側を善一がよく見えるように目の前に翳した。

「勝手に作って悪い。でも、いい出来だろう?」

 ひとつの指輪は、裏に埋め込まれたシークレットストーンのダイヤをコルクに見立て、羽の部分は刻印で表現されていた。
 もうひとつの指輪のシークレットストーンはラケットのガット部分に見立てられ、グリップ部分が刻印されていた。
 そして、それ挟むように善一と孝一の名前が刻印されていた。

「うわ凄……」
「俺ららしいだろ?」
「もう最高」

 善一はとうとう我慢ならず孝一に抱きついた。
 相変わらず逞しい筋肉に覆われた孝一の体は弾力があり、同じくらいの体格の善一が飛びついてもびくともしない。
 温泉に浸かったため、当然ながら肩口から香るのは善一と同じ匂いだ。

「おい、格好くらいつけさせろ」
「今更だろ」
「こういう時くらいってことだ」
「ああ、ごめん」

 指輪を取り落とさないように両手の拳を握りしめた孝一は、背中を反って善一の顔を見ると嗜めた。
 確かにそうだと思った善一はその言葉に素直に従った。
 二人の間に僅かな隙間が生まれる。

 孝一が善一の手を恭しく取って、薬指に煌めく指輪を通した。
 そして、善一も孝一から指輪を受け取ると、その左の薬指に指輪を嵌めた。
 どうやったのか、指輪はぴたりと合っていた。

「これ、サイズはどうやって測ったんだ?」
「そう言うこと聞くなよ」
「あー……。ごめん」

 意外と格好つけたがりの孝一を見て善一はくすりと笑った。
 それを見て孝一もつられて笑うと、目と目が合った。
 愛しいと、その瞳が雄弁に語っていた。
 二人は花火で彩られる部屋で手と手を重ねると、そっと触れるだけのキスをした。
 瞬間、光と音のハレーションが起きた。
 どうやら花火の打ち上げが終わったらしい。

「フィナーレ、見逃したじゃないか」
「ごめん。来年も一緒に見に来よう」
「夏央と雅俊も?」
「馬鹿言え。二人きりで、だ」

 未来を約束され、さらに胸が高鳴った。
 意識した途端、孝一が格好良く見え始めて敵わない。
 孝一の顔を直視できなくなり、照れ隠しで話題を逸らす。

「でも、夏央がうるさそう」
「こうして黙らせればいいんだよ」

 ぐいっと体を引き寄せられ、再び唇が重なる。
 今度は触れるだけのキスではなかった。
 確かに、これなら夏央は静かになるだろう。
 善一はその光景を想像して口角を上げると、深くなっていくそれに身を委ねた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人並みに嫉妬くらいします

米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け 高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...