魔王の愛し子

雨宮

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初めての魔法

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「なんでこんなことも出来ない!信託を受けるだけだろう!神の加護はどうした。その髪と眼のせいか!この忌み子が!」

本来聖杯を酌み交わして生まれた神の愛し子の象徴であったはずの俺の白髪はじわりじわりと金色に染まっていった。
俺の頭皮はどうなっているんだか、髪の色が変わったのはこの色が初めてじゃない。初めては銀髪だった。

「この出来損ないが…、気持ち悪い。今日は折檻部屋だ!大人しく篭っていろ!」

はい…、と何度も鞭で打たれひりつく喉に掠れ小さくなってしまった声で返事をすれば最後に一打だけ背中に受け神官様は去っていく。

痛い…。

じくじくと背中が痛む。
どこか怪我があるのではなかろうか。俺は回復魔法や修復魔法は使えないし。使えたところで勝手に治したのなら怒られるだろう。
でもそれももう慣れたものだ。
痛くとも苦しくとも、上手く感情が動かなくなってきた。

耳元で誰かが囁く。

またいつものやつだ。折檻部屋や1人になったりすると幻聴が聴こえるのだ。
否、本当は誰かがいる時も聞こえているのかもしれない。
だがそれはもうどうでもいい。
俺にとっては等しく全てがどうでもいいのだ。

「やられたままでなにもやらないのか」
「己を傷つける人間に復讐をしないのか」
「人間を嬲るのは楽しいぞ、愉快だぞ。」
「ほぅらお前は才能がある。お前はやればできる子だ。」





「大丈夫だ…、そこの扉に手を翳せ」



独りでに手が動く。



「そしてこう唱えるのだ」




ᚺᚨᚲᚨᛁ破壊




自分の声と低く誘う声が重なった気がした。
その途端、黒い閃光が弾ける。

神殿内が騒めく。
違うな。神殿内の空気が騒いでいるんだ。
信者は疎か、神官も気付いていない。
背後に居る俺の存在にすら。

「次はこうだ」

ᛋᛖᛏᚢᛞᚨᚾ切断

「そう、上手いな。」

目の前に神官の頭がごろりと転がる。
帽子が俺の足に触れた。
気色が悪い。

耳元で囁く低い声がゆっくりと俺を誘う。

神官を目の前で殺されたにも関わらずただただ震えて此方を見ているだけの女神官に顔をずいと近づけ下腹に愛撫でもするように手を添える。

ᚾᛖᛉᛁᚱᛖ捻れ

「ぁ゙がッ!?ぁ゙あ゙ぁ゙!!!!い゙だい゙い゙だい゙ぃ゙ぃ゙!!!!」

臓物が捻れるのはさぞかし痛いのだろうと笑いながら眺める。
そう言えば俺はなぜこの魔法を理解しているのだろう。

目の前でのたうち回る女を笑いながら見つめ思案する俺は傍から見ればもう人格破綻者なのだろう。

けれど、

目の前で苦しんでいても何も感じない。
自分が人を殺している自覚はあるはずなのに、歓喜も恐怖も狂気ですら自分を覆わない。

「お前は利口だな。素晴らしいよ。そのまま外へ出ておいで。」

あれ、此奴はいつから俺に指示を出すようになったのだろうか。
もう覚えていないな。

未だに続く女の汚い悲鳴に耳鳴りがする。

ᛞᚨᛗᚨᚱᛖ黙れ

声が聞こえなくなったな。
これでいい。

あまり人が集まると面倒だな。

そんな楽観的なことを考えながら神殿の玄関へと歩く。

「よく来た!ほらおいで。きっと美しいであろうその瞳を私に見せておくれ!」

先程まで耳元で囁いていた声が途端に離れ、外に響く。

その人の元へと歩み顔をあげればこの世のものとは思えないほどの美貌と、それに蓋をするように着けられた眼帯があった。
暫く見つめていれば俺の瞳を美しいだとかなんだとか。
この血のように紅い瞳を喜んでいる。

「さあおいで。私と一緒に行こう。まずはこの辺りを滅ぼさないとな。私の気が済まないんだ。」

愉しげに笑い俺を抱き締め頭を撫でる男の口から物騒な言葉がでてきた。
特に何を思うこともないが、アンバランスだなと感じたような気もする。

「それでは一緒に唱えよう」

ᛃᛟᛁᛃᚨᛗᛁᚾᛁᛟᛏᛁᚱᚢᛒᛖᚲᚢᛏᚨᛗᚨᛋᛁᛁᛃᛟ宵闇に散るべく魂よ  ᚹᚨᛏᚨᛋᛁᚾᛁᛗᛖᛏᚢᛒᛟᚢᚹᛟᛋᚨᛋᚨᚷᛖᛃᛟ私に滅亡を捧げよ

ボコボコと地面が動き、人間の悲鳴が聞こえる。

「お前は凄いなぁ!ほら見ろ、あの白い魂がさっきまでお前を鞭で打っていた奴だ。それとあの黒いのが最高神官のものだな。随分汚れている。」

くはは、と笑い蠢く地面から離れ宙へと浮いていく男に頭を撫でながら褒められ仄かに頬が熱くなった気がする。

「そう照れるな、愛いなぁ愛いなぁ。お前が一等愛しいよ。」

男の美しい黒髪に頬を撫でられながら愛しいと囁く彼への視線を伏せる。

隆起していた地面が収まり、空へと浮かぶ魂が宵闇に飲み込まれ、漸く騒がしかった世界が落ち着いた。

「さて、どうしようか。これから何がしたい?」

俺を見つめ優しく微笑む瞳に問われ暫くの思案。
しかし俺が口から答えることは無く、代わりに俺の腹が答えた。

「ははは!派手な音だな。何か食べに行こうか。」
「……甘い物。」
「良い良い、そうやって言葉に出していくのが良いのよ。甘い物か、食べに行こうなぁ。」

未だ男の腕に抱かれたままなのな多少所ではない羞恥心が駆け巡るがだからといって離れて何が出来る訳でもないので大人しく首へと腕を回す。

甘い物か。


楽しみだ。







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