貴方に相応しいのはこのわたくし

双葉愛

文字の大きさ
7 / 15

その侯爵令嬢、押しに弱い

しおりを挟む
王子の自室に戻ってソファーに向かい合って座ると、王子は疲れたと言わんばかりに髪を掻き上げてわたくしを見た。その怠慢な動作に思わず心臓が跳ねる。


「で?俺はどうだった?」


「……負けましたわね」


「当たり前だ。勝てるわけないだろう」


自信満々に言うことではないのに、満足気にそうのたまう男に息を吐いた。そうではなく感想だ、と男が言ったのでわたくしは渋々ながらも口を開いた。

「……でも怪我がなくて何よりですわ。それにわたくし、初めて剣を振るう試合を見ましたがあんなに迫力がありますのね」


わたくしの言葉に、男は少し面を食らったような顔をする。


「……俺に惚れた?」

「サボリ続けた結果を見せられてどこに惚れろと言うのです」

「やはり君は手厳しいなぁ」


意地悪く笑う男にもう少しだけ真面目になったら良いのに…と思わずにはいられない。やけに輝いて見える蒼い瞳に男の能力が見た目に追いつくことを祈った。


「何度も言いますがきちんと訓練やレッスンは受けてください。ボンクラ王子など税の無駄遣いです!時代が時代でしたら、当の昔に愚かな貴族に利用されてポイされてますわ」


「……君に捨てられないかだけ心配する時代でよかった」


何と情けない…っ!

自分を省みるどころか飄々としている男にがっくりと肩を落とし、まぁ今日は鬱になっていないだけマシだと気を取り直した。


「……わたくし無能な婚約者はいりませんわ。さっさと…いえ一刻も早く有能な中身になって下さいませ」

「あぁ分かっているさ」


そのセリフを一体何度聞いて何度期待したことか。口先だけは立派な男なんて一度痛い目を見るべきよ。


「……殿下のお誕生日まであと三週間程です。その間どうぞ真面目に過ごして…」

「そうだ、君のドレスは俺が贈ろう」

「……え?」


念には念をと男に小言を畳み掛けようとした時、男の突拍子もない言葉にわたくしは目を見開いた。今なんておっしゃいました?


「君は何でも似合うからなぁ」


面を食らっているわたくしをクスクスと笑う王子はその視線でわたくしをじっくりと見て、一人頷いた。


いやお待ちください。切実に待って欲しい。


「宝石も靴も全て俺が取り揃えよう」


無能な人間は女にドレスを贈る前にやるべきことが沢山あるのではなくて!?


「……アンリ様、それは」

「あぁ任せておけ。全て王室直属の者に作らせる」

「……あのそうではなくて」

「異論は認めんぞ、シェリー」


ぐっ、とわたくしは王子の言葉に押し黙った。無駄にキラキラと笑顔を輝かせて美貌で押し通そうとするのはやめて頂きたい。



「……わたくしには身に余りますわ」


「何を言う。君は綺麗だ。俺に飾られた華はさぞや美しく咲くだろう」


足を組み換え、そう艷やかに言った王子にわたくしの頬は赤く染まった。思わず片手を頬に添え王子から視線を逸らしてしまう。



「決定だな」



笑みを含んだその声にわたくしは反論をすることが出来ず、まんまと王子の思い付きに乗せられる羽目になってしまった。



……あぁもう、心臓に悪いわ。



暫くわたくしは王子の視線を感じながらも、火照る頬を冷やすことが出来ずにこう押しにあまりにも弱い自分を反省していた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

処理中です...