悪役令嬢扱いされて婚約破棄&国外追放された私ですが、最強種に見初められたので世界を統べる覇王を目指します

倉橋 玲

文字の大きさ
2 / 59

プロローグ 2

しおりを挟む
 考えるだけ無駄だと切り捨てたアルマニアが、小夜を無視して皇太子に向かって口を開いた。
「殿下、サヨがやってきて以降、殿下が私を疎ましく思っていらっしゃるのは存じております。ですが、それだけで私を罰するのでしょうか」
「何を言っているんだお前は。まさかお前、自分がしでかした罪すら理解できていないのか?」
「罪、ですか?」
 金糸のような髪をさらりと流しながら首を傾げたアルマニアに、皇太子が蔑みの表情を浮かべた。
「ひと月前、我が国を狙ったザクスハウル国の襲撃があっただろう。そのときにお前が何と言ったか、忘れたとは言わせないぞ」
 言われ、アルマニアはひとつ瞬きをした。そして、臥せっている皇帝の代わりに指揮を取る皇太子へと進言した言葉を思い返す。
「ええ、覚えております。ザクスハウル国の秘術により、郊外の街ひとつが丸々呪われ、そこに住む人々が残らず人を襲う魔物へと変じてしまった件ですね。殿下はあのとき、魔物になっても変わらず我が国の民だと仰い、彼らをなんとか元に戻す方法を探るべきだと主張されました。私はそれに対し、彼らを殺さずにその場に留め続けることは軍の力を以てしても不可能であり、包囲網が崩れれば被害は他の街にも及ぶ、故に魔物となった人々ごと街を焼き払うべきだと進言しました」
 淡々と述べるアルマニアに、皇太子が心底から湧き上がった憎悪を瞳に湛えて彼女を睨みつけた。
「そうだ。冷徹で人の心を持たぬお前は、民を殺せと言った。この国を導く皇族として、到底受け入れられる意見ではない」
「いいえ。国を導く者だからこそ、人々を含む街をひとつ捨てるべきだったのです」
「多くを守るために一部を殺せというのかお前は!」
 激昂した皇太子に、小夜が怯えたような顔をして彼の服を握った。そんな二人を冷めた目で見ながら、アルマニアは静かに言葉を落とす。
「殿下は当時もそう仰いましたね。そして私は、その問いに肯定を返したはずです」
「…………血も涙もない女め。やはりお前は、皇后の器ではない」
「私には私がその器でないかどうかは判断できませんが、私が器でないのであれば、サヨはもっとふさわしくありませんわ」
 何処までも感情を見せない声で放たれたその言葉に、皇太子が目を見開いてアルマニアの方へと歩み寄る。そして彼は、振り上げた右手で彼女の頬を張り飛ばした。
「っ、」
 多少の手加減はあったのだろうが、武人でもある皇太子の力で殴られたアルマニアは大きくよろけた。しかし、ここで倒れるような無様は見せまいと、地面を踏みしめてなんとか堪える。そして彼女は、赤くなった頬をそのままに姿勢を正し、再び皇太子を真っ直ぐに見返した。
 そんなアルマニアに向かって皇太子が何事かを言おうと口を開きかけたが、それよりも早く小夜が悲鳴のような声を上げる。
「ベルナンド! アリィは女の子だよ!? ぶつなんて酷い!」
 皇太子を責めるようなそれに、アルマニアは頭の片隅で、皇族にあんな口を利くとは相変わらず無礼な少女だ、と思った。
 本来であれば礼を失したと責められるべき小夜の言葉に、しかし皇太子は殊更優しい顔をして彼女を振り返った。
「サヨ、君が心優しい女性なのは知っているが、その優しさを向ける価値すらない者にまで気を配る必要はないのだよ」
 小夜に向かって柔らかく諭すように言ってから、皇太子がアルマニアへと向き直る。そして先程とは打って変わって冷たい目をした彼は、吐き捨てるように言葉を出した。
「あの一件を見事に解決したのは誰だと思っている。サヨだぞ」
 皇太子の言葉に、アルマニアはひとつ瞬きをしてから頷いた。
「ええ、存じております。誰も死なせるべきではない、国のために誰かを犠牲にするなどおかしい、と、そう主張したサヨの意見を全面的に取り入れ、魔物を駆除するのではなく可能な限り傷つけぬようにして包囲するに留め、その間になんとしてでも魔物化を解除する術を探し出す、などという愚かな選択をした殿下を救ってくれたのは、確かにサヨです」
「貴様、」
「アリィ! ベルナンドは愚かな選択なんてしてない! アリィは間違ってるよ!」
 皇太子の言葉を遮って叫んだ小夜が、椅子から立ち上がってアルマニアを見た。珍しく怒っているのか、頬を紅潮させている彼女を見て、アルマニアはあまりの滑稽さに笑いを通り越して腹の腑が煮えくり返りそうな心地になった。
(怒りたいのはこっちの方だわ)
 内心でそう吐き捨てたアルマニアに向かい、小夜が曇りのない瞳で言葉を続ける。
「国のトップが弱者を見捨てるなんて、あってはならないことだよ。救える可能性があるのに、それを諦めて簡単な方へ逃げては駄目。絶対に諦めないで、全員を救う方法を考えるべきなの。それが国を統治する人のすべきことなんだよ」
 諭すような声を受け、アルマニアがぱちぱちと瞬きをする。正気かこの女、と思うも、目の前の少女の顔は真剣そのものだ。
「サヨの言う通りだ。僕たちは決して民を捨てるべきではない。それこそが正しくあるべき王家の姿なのだ。それを証拠に、全てを救いたいという僕の思いを後押ししてくれたサヨは、その清く聖なる心で奇跡を呼び起こしてくれたではないか!」
「ちょ、ちょっとベルナンド、清いとか聖なるとか、大袈裟で恥ずかしいよ……」
「何を恥じることがあるだろうか。君のその高潔な心が、古より謳われる伝承の通りに聖獣を目覚めさせ、人々の魔物化を解いてくれたのではないか」
 まさに大袈裟も大袈裟な声で言われた言葉に、アルマニアがほんの僅かだけ拳を握る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令嬢を断罪したくせに、今さら溺愛とか都合が良すぎますわ!

nacat
恋愛
侯爵令嬢リディアは、無実の罪で婚約者の王太子に断罪された。 冷笑を浮かべ、すべてを捨てて国外へ去った彼女が、数年後、驚くべき姿で帰ってくる。 誰もが羨む天才魔導師として──。 今さら後悔する王太子、ざまぁを噛みしめる貴族令嬢たち。 そして、リディアをひそかに守ってきた公爵の青年が、ようやく想いを告げる時が来た。 これは、不当な断罪を受けた少女が、自分の誇りと愛を取り戻す溺愛系ロマンス。 すべての「裏切られた少女」たちに捧ぐ、痛快で甘く切ない逆転劇。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...