ひかり

ながせ るい

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第1章

爽やかな笑顔とケーキ

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ーーー次のニュースです。今日未明、東京都足立区の駐車場で20代の男性が遺体で発見されました。死因はまだ特定されていません。
「…き、…るき、るーき!!」
「ん?なに?」
「話きいてるか?お前さっきからテレビばっかみて」
「あー、ごめん。全然きいてなかった」
「最悪か。きいとけよ。まあ、たいして大事な話でもないけど」
「大事じゃないならちょうどいいな。ちょっとトイレいってくるね」
席を立ちトイレへむかう。店の奥にあるカウンターではマスターが真剣にコーヒーを淹れている。ここのトイレは意外にも綺麗だ。“意外にも”というのも、創業40年も経つというこの店は良くいえばレトロだが、なかなか年季が入っているのだ。だが、トイレだけは一昨年便器が割れたとかで全部最新のものに替えたらしい。僕はどうにも店とあっていないように感じるのであまり気に入ってはいないのだけど。
トイレを終えて、もとの席へ目をやると親友である蓮が、爽やかな笑顔で座っている。普段、蓮が僕の前でこんな爽やかな笑顔をすることなんてない。そう、“僕の前”では。蓮がこの顔をしているということはおそらくあの子が来たのだろう。
「黒瀬くん。こんにちはー」
「あ、西村さん。こんにちは、来てたんだ」
「うん。丁度さっき来て、蓮くんみつけたからお邪魔しちゃった」
美味しそうにケーキを頬張りながらそう言う彼女は少し天然なところがある同じクラスの女の子だ。少し小柄な彼女はとても明るい雰囲気をまとっていて好感が持てる。鎖骨のあたりで切り揃えられた茶色の髪は艶がある。彼女もここの常連客らしく、最近はよく同じ席で話をする。
「大丈夫だよ。って、西村さんそれ僕のケーキ」
「そうなの!?またやっちゃった、美味しそうでつい…。ごめんなさい!!」
このくだり3回目な気がする…。別に気にしてはいないのだけど。西村さん、流石に学習してくれ。
「いいよ。それあげる」
「…いいの?ごめんね!これいくらだった?」
「え!!そんなお金とかいいよ。それくらいおごる」
「えー!そんなの悪いよ!勝手に食べちゃったわけだし、自分で払う!!」
「そうだ、西村さん明日誕生日でしょ?誕生日ケーキにしよう」
「なんで知ってるの!?すごい!嬉しい!!!」
「なんか今日クラスの子が言ってたから。ってことでお金はいりません」
「う、うー。申し訳ないけど、そう言ってもらえるならお願いします」
「うん、よろしい」
「黒瀬くん、ありがとう」
そう。でも、彼女は天然と同じくらい礼儀正しい。人のケーキを勝手に食べるのが礼儀正しいかと訊かれるとまたそれは難しいのだけど…。ただ、伝わるだろうか彼女は悪い人ではないのだ。伝わってくれ。
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