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03 スカウト

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 勇者と魔王がぺちゃくちゃと喋っていたら、ヨハンネスに怒鳴られ、クリスティアーネの連れの女性にも、どうして知らないかと詰め寄られ、教え込まされた。
 金髪美女の名はクリスティアーネ。帝国の皇女様で、民に優しく人気があり、騎士としても有名で、知らない人はいないらしい。
 ちなみに二人の女性は、クリスティアーネの部下の女騎士だとのこと。

「ふ~ん……」

 説明を受けた勇者はこんなもん。妹以外、興味が無いようだ。しかし、魔王は立場を聞いて何かを思いつき、勇者に耳打ちする。

「偉い人なのは確実ですので、助けたら、兵を引いてくれるかもしれませんよ?」
「あ、そっか。じゃあ、最悪、さらって連れ帰ればいいか」
「いえ。いい人みたいですし、話をしたら聞いてくれますよ」
「どうだろな~?」

 そうして二人がコソコソと話していると、クリスティアーネとヨハンネスの話し合いが決裂したのか、剣を向け合う。

「ヨハンネス程度の腕で、私に勝てると思っているのか?」
「一対一では、まず勝てないでしょう」
「ならば、怪我をしないうちに帰るのだな」
「一対一はですよ。三人がかりなら、時間ぐらいは稼げますよ」

 ヨハンネスが二人の騎士に目配せすると、馬から降りて剣を構える。それに続き、ヨハンネスはニヤリと笑い、馬から降りて叫ぶ。

「お前達! クリスティアーネ殿下は私達が押さえる。その間に人質をとるのだ。それで殿下は身動きがとれなくなる!!」
「「「「「はっ!」」」」」

 ヨハンネスの命令を聞いた騎兵は返事をすると、クリスティアーネを無視して二人の女性と魔王達の元へと馬を向かわせる。

「ヨハンネス、貴様~!!」

 クリスティアーネは怒りをあらわにするが、三人が一斉に斬り掛かり、それどころでは無くなる。
 怒りのせいで剣が鈍ったクリスティアーネは、防戦一方となってしまった。



 クリスティアーネが防戦を繰り広げ、魔王達に騎兵が近付く中、勇者は魔王に指示を出す。

「サシャって生活魔法が使えると言っていたけど、火は出せるのか?」
「出せますけど……いまはそれどころではないですよ!」
「まあまあ。それさえあればなんとかなるから、これに火をつけてくれ」
「はあ……」

 勇者がアイテムボックスから松明を取り出すと、魔王は意味がわからないからか、渋々、呪文を唱えて人指し指大の火を作り出す。
 その火は油の染み込んだ松明を、あっと言う間に炎とする。

「ありがとう。それじゃあ行って来る」
「え……お兄ちゃん?」

 勇者は感謝の言葉を述べると、魔王の前から消え去った。すると、そこかしこから馬の悲鳴があがる。

「「「「「ヒヒーン!」」」」」
「うわ!」
「なんだ!?」
「馬が~~~!!」

 突如、馬が暴れだし、馬から落ちる者、操縦不能となった馬にしがみついて明後日の方向に消えて行く者と分かれる。
 このような事態となった理由は勇者だ。目にもとまらぬ速度で移動した勇者は、馬の尻尾に松明の炎を当てて燃やしたからには、馬はたまったものじゃない。驚いて暴れ馬となってしまった。

 しかし、馬から落ちた騎士は立ち上がり、魔王達の元へ歩み寄る。

「ただいま~」
「きゃっ」

 またしても、目にもとまらぬ速度で魔王の前に現れる勇者。急に現れたから、魔王も驚いてしまった。

「残りは四人か……」
「敵が減ったのはいいのですが、お馬さんにあんな事をするなんて、かわいそうです!」
「いや……これしか方法が思い付かなくて……あとで謝るよ」
「そうしてください!」
「怒るサシャもかわいいな~」

 勇者が魔王に怒られている間も、四人の騎士は魔王達の元へ迫るので、勇者は一瞬で騎士の前に移動する。

「よっ! さっきは痛かっただろ? もう引いてくれないか?」
「あれしきで、誰が引くか! 人数もいるし、お前は殺しても問題ないだろう。死ね~!!」

 勇者のお願いに、一人の騎士は返答してから剣を振り下ろす。その剣は勇者の肩口に当たり、あっけなく斬られてしまった。

「きゃ~! お兄ちゃ~~~ん!!」

 その姿に、魔王は叫び声をあげる。

「ん? 呼んだ?」

 その魔王の声に、勇者は振り替えって惚けた声を出す。

「へ……? お兄ちゃん、後ろ後ろ!」

 勇者は魔王の方向に振り向いているものだから、さっきとは違う騎士が勇者の背中を斬りつけてしまった。
 だが、頑丈な勇者の所以ゆえんは伊達じゃない。異世界の魔王の強大な攻撃を喰らっても、怒り狂う妹の攻撃を喰らっても、生き残った勇者に、高々一兵の攻撃なんて傷すら付けられない。剣が折れるだけだ。

「一対一なら勝てそうか?」

 勇者のべらぼうな硬さを見た二人の女騎士に質問すると、コクコクと頷くので、勇者は剣の折れていない騎士二人を捕まえて、あとは任せる。
 当然、武器の無い騎士では、武器を持つ女騎士に敵わず、剣の腹で殴られて気絶となった。

「いらぬ心配だったか。ついでにこいつらも気絶させてくれるか?」

 女騎士達は、勇者が攻撃しない事に疑問に思いながらも指示に従い、残りの二人の騎士も気絶させる。
 騎士が気絶すると、勇者は縄を取り出して縛るように指示を出し、自分はクリスティアーネの援護に走る。


 クリスティアーネは三人相手に防戦だったが、なんとか剣を受けきっている最中。そこに、勇者が割り込んで、三人の騎士の剣を体で受けてしまった。

「なっ……身をていして、私を守ってくれたのか……」

 勇者の硬さを見ていなかったクリスティアーネは、そう思ったらしい。

「別に……。痛くないから止めに入っただけだ」
「はい?」
「とりあえず、あいつらの剣は折れたみたいだし、トドメを頼む」
「あ、ああ……」

 クリスティアーネも呆けている場合では無いので、剣を受けても傷もない勇者を見て固まっている三人を、あっと言う間に気絶させる。
 こうして、ここに残る騎士は全て気絶させられ、危険は去ったのであった。


 敵が全て縄で縛られている間に、勇者は魔王に声を掛ける。

「終わったみたいだ」
「お兄ちゃん……剣で斬られていましたけど、怪我は無いのですか?」
「ああ。なんてったって頑丈な勇者と呼ばれていたからな。よっぽど強い攻撃じゃないと攻撃は効かない。いま俺を傷付けられる者は、妹ぐらいだと思う」
「えっと……どうしてそこで妹さんが出て来るのですか!」

 魔王のツッコミは至極まっとうだが、勇者はぷりぷりする魔王にご執心で、質問に答えないのであった。



 それから勇者達は、クリスティアーネに質問をしようとしたが、追い払った敵が戻って来ては面倒だからと湖に移動する事となった。

 例の如く魔王は勇者に担がれて相談しながら進み、湖に着くと、ようやく緊張の解けたクリスティアーネが話を聞いてくれる事となった。

「まずは助太刀に感謝させてくれ。助かった」
「そんなのいいよ。それより皇女さんなのに、なんで仲間の騎士に追われていたんだ?」
「……まぁ巻き込んでしまったからには、少しぐらい事情を話してもいいか……」

 クリスティアーネの話は、人族の町が突如魔族に滅ぼされた事から始まる。
 遠い昔に結ばれた不可侵条約を破った魔族に対して人族は怒り、帝国主導の聖戦だと進軍を支持する。
 先鋒を任されたのは、クリスティアーネ率いる千人の騎士。たったこれだけかと、クリスティアーネは父である皇帝に直訴したのだが、すぐに大軍を送る手筈となっていると説得され、納得は出来なかったが従う事しか出来なかった。

 それから数週間かけて森を抜け、発見した第一の町を取り囲んだクリスティアーネ軍は、ダメ元で町を明け渡せば命は助けると降伏勧告をする。すると魔族は戦う事もせずに素直に従い、家財道具を持って逃げ出した。
 クリスティアーネ軍は、皇女であるクリスティアーネに恐れをなして逃げ出したと沸き上がるが、クリスティアーネはこうもあっさり逃げる魔族に疑問を持つ。
 その次の町も、その次の町も、魔族は戦う事もせずに町を捨てて逃げ出すものだから、疑問は膨らむばかり。さらに、魔界に着いて一ヶ月以上も経つのに、一向に援軍の来る気配もなく、疑問が爆発したクリスティアーネは帝国に戻った。

 帝国に戻ったクリスティアーネは、魔界での成果を話すと国民が沸き上がり、英雄と持てはやされる。しかし、皇帝と対面すると事態は一転。捕らえられて、地下牢に一時幽閉される。
 そこで一人の男と出会い、真実を知る事となった。

 町を襲ったのは帝国軍。魔族が襲ったと言う嘘で国民の怒りを魔族に向けさせ、聖戦を自作自演したのだと……

 それからクリスティアーネは聖戦の御輿みこしとして担がれ、魔界へと移送される。そこで、クリスティアーネの部下が、何かがおかしいと救出作戦に乗り出して、現在に至る。


 クリスティアーネの話を黙って聞いていた魔王は質問する。

「それでは、これからどちらに向かうのですか?」
「それは……」

 さすがに行き先は言えないからか、クリスティアーネは口ごもる。だが、魔王も馬鹿ではない。これだけの話を聞けば、ひとつしか答えは無い。

「魔王に会いに行くのですね」

 魔王の真剣な目に、観念したクリスティアーネは口を開く。

「……そうだ。つぐないになるかどうかわからないが、私は魔族側につこうとしている。だが、まずは小舟で湖を越えられるかどうかだな」

 当然クリスティアーネも、船は波に押し返されると報告を聞いていたので、一種のギャンブルに出ようとしていたようだ。

「本当に魔族に協力したいのですか?」
「ああ!」

 再度、質問する魔王に、クリスティアーネは決意のこもった目で力強く返す。

「わかりました。湖は私がなんとかします」
「え……どういう意味だ?」


 クリスティアーネの質問に、魔王はニッコリと笑い、水竜の笛を高々と吹き鳴らした。
 皆が魔王の行動を不思議に思っていると、湖に波が起こり、そのすぐあとに、巨大な水竜が顔を出した。もちろんクリスティアーネ達は、驚いて固まっている。

「ヤッホー! 魔王ちゃん、もう帰るの~?」

 相変わらず軽い……だが、驚いていたクリスティアーネが、水竜の言葉に反応して我に返った。

「ま、魔王……この化け物は、あなたの事を魔王と呼んでいるのだが……」
「あ、自己紹介がまだでしたね」

 ギギギギと首を回して話し掛けて来たクリスティアーネに、魔王は微笑みながら自己紹介を始める。

「私は第三十三代魔王、ステファニエと申します。これからよろしくお願いしますね」
「「「え~~~!」」」

 こうして皆の叫び声を聞いた魔王は、クリスティアーネという軍に精通した人物のスカウトに成功して、魔界へと帰るのであった。





 その帰り道……

 水竜に恐る恐る乗ったクリスティアーネが、魔王に質問する姿があった。

「ちなみに剣の効かないその男は?」
「私どもが召喚した勇者様です」
「「「ええぇぇ~~~!」」」

 魔王が勇者を召喚したと聞いて、もっと驚くクリスティアーネ達であったとさ。
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