【読み切り版】攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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04 戦闘開始

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 魔王の自己紹介、水竜の上で勇者の紹介を聞いて驚いていたクリスティアーネと二人の女騎士。目的としていた人物に早くも会えたのだが、微妙な顔をしている。

「魔王が勇者を召喚したなんて……」

 当然、魔王の天敵を、魔王自身が召喚したなど信じられないようだ。それに、不可侵条約を結んだ事は知っているのだが、勇者が魔界に残ったと言う事は、歴史から消されていたので、信じるには時間が掛かる事となった。
 だが、現実に人の力を超越した人物が魔王の顔を見つめて気持ち悪い顔をしているし、その人物を魔王が召喚したと二人から説得されて、なんとか納得をしようと頑張っていた。
 その過程で、魔王達が人族の占拠した町に行こうとしていた理由を聞いたクリスティアーネは困惑する。

「スカウト?? 魔族は戦えないのか? それに勇者殿も攻撃が出来ないって……」

 うん。詰んだ。いくら軍に精通しているクリスティアーネが魔族についたところで、戦士が居ないのでは戦う事も出来ない。

「まぁ作戦でなんとかしてくれ」
「お願いします!」

 勇者は他人事のように言い、魔王は必死に頼む。クリスティアーネは勇者の言葉にはイラッとするが、魔王の懇願には折れるしかなかった。

 こうして魔族の未来はクリスティアーネの双肩にのしかかるのであった。





 水竜に乗った魔王一行は、無事魔族の治める領土に戻り、そこから勇者のアイテムボックスから出した馬車で移動する。

「は、速い~~~!」
「お兄ちゃん、凄いです!!」

 勇者の引く馬車でだ。馬はアイテムボックスに入っていないので致し方ない。だが、勇者の力の一端を見たクリスティアーネは、少しは光明が見えたようだ。


 それから魔都にある魔王城までノンストップで辿り着いたクリスティアーネ達はポカンとする。

「どうしたのですか?」
「ド田舎? このログハウスが魔王城??」
「んなっ……魔都は魔界の者が住みたいナンバーワンの大都会ですぅぅぅ! 魔王城も上質なひのきで建てられているんですぅぅぅ!!」

 突如、クリスティアーネにディスられて、魔王はおかんむり。畑が広がる土地はド田舎と言われても仕方がない。
 ぷりぷりする魔王は勇者にかわいいかわいいと宥められていたが、魔王は納得いってなかった……


 そうして四天王も紹介するが、見た目はいかついおっさんなのに、雰囲気が穏和なので、本当に四天王なのかと言われていた。
 しかし、本物なのは事実なので、そのまま作戦会議を開いて準備に取り掛かる。

 戦うには武器が無くては始まらないので、農具でいいから集めさせ、全て勇者のアイテムボックス行きとなる。それと、魔族が畑に邪魔になる石を固めていたので、それも持って行く事にしたようだ。

 そうして翌日、準備を済ませた魔王一行は、四天王を加えて勇者の引く馬車に揺られて最前線の町へと向かう。

 その車内では……

「これ……もう馬車じゃないですよね?」
「ああ……家だな……」

 魔王とクリスティアーネがポソポソと喋り、皆はコクコクと頷く。
 勇者の取り出した馬車は一軒家ほどの大きさがあったので、クリスティアーネだけでなく、勇者の行動に慣れて来ていた魔王まで驚かせる事となった。
 しかも、走る速度は変わっていない。これでも抑えて走っているんだとか……



 魔都を出て、最前線の町にお昼前に到着した魔王一行は、馬車から降りると見える景色にポカンとしていたが、その町に集まっていた魔族は、もっと呆気にとられていた。
 大きな家が走って来て警戒していたら、引いているモノは勇者だったのだから、そんな姿を見たのならば、誰でもそうなるだろう。

 だが、そんな時間も、もったいない。

 魔王は魔族を集めて演説を行い、勇者とクリスティアーネ達の紹介をする。どちらも人族だが、優しい魔族から快く受け入れられていた。
 紹介が終われば、クリスティアーネの指示で戦闘の準備が行われ、突貫工事で町に巨大な壁が作られて行く。



 そうして一週間が経った頃、東から土煙があがった。

 人族軍だ。

 人族軍の人数は、目測で五千。魔族軍は二万を超えるのだが、如何せん攻撃の出来ない農夫だらけ。訓練を受けた兵士と戦ったならば、易々と敗れるだろう。


 その人族軍を壁の上から確認した魔王は、クリスティアーネを心配そうに見る。

「いっぱい居ます……私達は勝てるのでしょうか……」
「……いいか? 魔王殿は大将だ。そんな顔をしていたら、軍の士気に関わる。怖くても、兵士に弱気な顔を見せるな」
「は、はい!」
「よし!」

 厳しい意見を言ったクリスティアーネは、魔王の引き締まった顔を見て笑顔に変わる。

「まぁ今日までやれる事をやったんだ。勝てると信じよう。いや……勇者殿が居るのだ。必ず勝てるはずだ!」
「そうですね! お兄ちゃん……頼みますね!!」
「おう!」

 皆の励ましを聞いた魔王は壁の内側に向き直り、魔族軍を鼓舞する。そうして魔族軍が盛り上がっていると、人族軍から使者がやって来て降伏勧告をして来た。

 もちろんそんな言葉は跳ね退け、魔族軍対人族軍の戦いが始まった。

「来ましたね……お兄ちゃん、行ってください。でも、命の危険を感じるようなら、逃げてくださいね」
「心配するな。お兄ちゃんは絶対に死なない。任せてくれ!」
「お兄ちゃん……頑張って来てください! ……あれ? お兄ちゃん??」
「あ、ああ。行って来る!」

 魔王の激励が頭の中で何度もこだました勇者は感動して出遅れたが、壁から飛び降り、凄い速度で走り出した。
 勇者を見送った魔王は、再び町の中に向き直り、大声をあげる。

『皆さん、作戦通りお願いします。壁の上の人は石を投げて投げて投げまくってください! 補給する人は大変ですけど、頑張って攻撃が途切れないようにしてくださ~い!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」

 迫り来る人族兵は、魔族から降り注ぐ石礫を喰らって歩調が遅くなる。しかし、盾を頭上に掲げて進む事で、脱落者を減らす事に成功する。

 そうして、人族兵は徐々にだが、確実に壁へと近付くのであった。




 一方その頃、勇者は一人、人族軍に突撃していた。人族兵は武器も持たず一人で突撃して来た勇者を笑って見ていたが、事態は急転する。
 まず最初の被害者は槍を持った人族兵。笑いながら勇者に突き刺したのだが、槍は勇者を貫かず、皮膚で止まり、まったくスピードを落とさない勇者に跳ね飛ばされた。
 そこからは一方的に、勇者に攻撃を加えるが、剣で斬っても壊れるだけ。魔法で燃やされても服が燃えるだけ。
 止まらないどころかまったくスピードも落ちない勇者を見て、小隊長が苦肉の策に出る。

「攻撃は効かない! 掴め! 倒せ! 押し返せ~~~!!」

 人族兵は武器を捨てて勇者にタックル。当然、弾かれる。しがみついても引きずられる。どうしても止まらないので、スクラムを組んで勇者の道を塞ぐが、ボーリングのピンの如く吹き飛ぶ事となった。

 そうして人族兵を引きずって走る勇者は、ついに人族軍本陣に辿り着いた。

「えっと~……ラインハルトってのはどいつだ?」

 勇者が質問すると、周りの騎士から怒号が飛び交い、大騒ぎとなる。しかし、一人の男の登場で、潮が引くかのように静まり返る。

「お前がラインハルトって奴か?」

 金髪の男がほどほどの距離で立ち止まると、勇者は問い掛ける。

「いかにも。私が帝国次期皇帝ラインハルトだ」

 敵が本陣まで辿り着いているにも関わらず、まったくおくする事もなく答えるラインハルト。

「おお~。やっぱり兄妹だな。妹とけっこう似てる」
「妹だと?」
「そうそう。クリスティアーネからお前を捕まえて来てくれと言われているんだ」
「なんだと……妹は魔族側についたのか!?」
「そうだぞ。なんかいろいろやらかしたらしいじゃないか? それで国が嫌になったんだって」

 ラインハルトは勇者の物言いに、最初は驚いていたが、すぐに悪い笑顔に変わった。

「クックックッ……これは好都合だ」
「どういう事だ?」
「我々の計画ではな……」

 ラインハルトの計画とは、父である皇帝と共に考えたものであった。
 魔族に町を滅ぼされただけでは、まだまとまりに欠けると感じた二人は、元々人気の高かったクリスティアーネの死をもって、人族を一丸にまとめる計画を立てた。
 だが、クリスティアーネは躍進。魔族の町をたった千人の人員でみっつも落としたのだから、英雄となってしまった。次の皇帝になってくれと声が高まる始末。
 これでは、常日頃から皇帝の政策に異議を唱えるクリスティアーネを排除するには難しくなるので、もう一度魔界に連れて来て、暗殺する予定だったようだ。

「それで俺達が魔族側に引き込んだから好都合……と?」
「クックックッ。その通り。逃げられた時は困らされたが、感謝すべきであったな」
「どうかしてるぞ……」

 実の妹を殺そうとしているにも関わらず、笑うラインハルトに、勇者は怒りをにじませて叫ぶ。

「妹なんて、かわいいかわいい天使だ! それを殺そうなんて、頭がおかしいんじゃないか!!」

 ん? どっちが? 皆も勇者の気持ち悪い理論に意味不明って顔をしてるぞ?

「そうか……クリスティアーネに惚れているのだな」
「違う違う。俺が惚れてるのは実の妹だけだ」

 なんとか納得しようとしているラインハルトの邪魔しないで!

 と、アホなやりとりを勇者がしていると、魔族の守る町の方向から大きな音がして来た。

「フッ……壁への攻撃が始まったようだな」
「つまり、俺と話していたのは、時間稼ぎをしていたと言う事か」
「いや、ただの暇潰しだ。魔族は戦う事をしないと聞いていたからな。これで兵も満足してくれるだろう……」

 勇者と話していたラインハルトは、腰に差した剣を抜いて掲げる。

「さあ、私も楽しませてくれ」


 こうして魔族軍対人族軍の戦いは、最終局面を迎えるのであった。
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