71 / 522
三章 夏休みは夜遊び
071 カールスタード王と面談
しおりを挟むカールスタード王がアポイントを取って帰ったその日の夜は、フィリップはダグマーにお仕置きされたけど夜の街に繰り出し、クリスティーネを連れてスラム街に向かう。
すでに安全な抜け道は確保済みなので、そこを通って本日の聖女治療。さほど患者もいなかったのですぐにクリスティーネを送り届けて、フィリップは早めに帰って行ったらかなり怪しまれていた。
そして早めの就寝をして、お昼にダグマーに起こしてもらったら、戦支度。腹に食事を詰め、豪華な服に袖を通して、あとはまったりとティータイムだ。
「そういえば、泥棒の新しいネタって入ってない?」
「盗まれた物の中に、先々代の女王の姿絵があったそうです」
「なんでそんな物を??」
「噂の域を出ないのですが、先々代の呪いじゃないかとラーシュ様が震えながらおっしゃっていました」
「プッ……あいつ、お化けとか苦手なんだ」
このネタは、フィリップがオロフに頼んでいたこと。泥棒の件は「先々代の呪い」と噂を流して、クリスティーネ登場時のインパクトを与えようとしているのだ。
この噂がラーシュの元まで届いているということは、町中に広まっているとフィリップは吹き出してしまったが、ラーシュのせいにしてるな。
「てか、ラーシュとはだいぶ会ってない気がするな~」
「だいぶではなく、夏休みに入ってから一度もお会いなられていませんよ」
「そんなに? すっかり忘れてた。あとで会いに行ってやるか~」
同郷で護衛で一緒に勉学に励む者を忘れていただなんて、フィリップはどうかしている。そのことを懇々と説教されながら、カールスタード王の訪問を待つフィリップであった。
「体調不良のところ、本当に申し訳ない」
「ううん。昨日は起きれなくて悪かったね」
寮の1階にある応接室で面会したカールスタード王とフィリップは、自己紹介も終わらせると当たり障りのない会話から始めていた。
「それで、なんか用?」
老人の笑顔にもう飽きたフィリップはほどほどで切り出すと、カールスタード王は笑顔を引き攣らせた。
「少々困っておってな。まずは人払いをしてもらってもよろしいか?」
「僕のメイドが言い振らすとでも??」
「気に障ったら申し訳ない。ただ、いまから話す内容は国に関わることじゃから、漏れた場合に疑いたくないだけじゃ」
「あ、ダグマーのためだったんだ。それならいいよ~」
フィリップがあまりにも馬鹿っぽい返事するのでダグマーは目で訴えまくったけど、追い出されていた。
そのやり取りを見て、カールスタード王も「聞きしに勝る馬鹿皇子」とほくそ笑んでいた。
「これでいい?」
「うむ」
室内に2人だけになると、カールスタード王は頭を下げた。
「申し訳ない」
「はい? なに謝ってるの??」
「殿下の父君から預かっていた生活費を盗まれてしまったのじゃ。これでは生活費が不足して、クオリティの高い料理などの提供ができなくなってしまう。本当に申し訳ない」
「あ、そうなんだ。だったらクオリティ下げてくれたらいいよ。そんなことで謝らなくてもいいのに~」
フィリップが笑顔で返すと、カールスタード王は歯を強く噛み締めた。おそらく、これで帝国からお金を送ってくれる馬鹿だと思っていたのだろう。
「いや、そういうことではなくて……」
「ん~? どういうこと??」
「父君に、融資してもらえるように進言してくれないかと」
「融資? って、なんだっけ??」
「簡単に言うと借金じゃ。こちらが無くしたからには、もう一度いただくわけにはいかない。しかし、先立つ物がないのでは、殿下に不自由させてしまう。だから、そうさせないために金を借りたいのじゃ」
もちろんフィリップは馬鹿を演じているだけなのに、カールスタード王は「言葉もしらんのか」とキチンと説明してくれた。
「なるほどね……いいよ~」
「お、おお! 助かる!!」
「いくら必要なの?」
「これほどなんじゃが……」
「いいよ~」
「感謝する!!」
カールスタード王の提示した金額は、帝国から預かった額の倍。しれっと増やしても気付かないとは、本物の馬鹿だとカールスタード王は喜びまくってる。
「でも、うちの国って遠いんだよね~。それまではどうするの?」
「ツテは他にもあるから、殿下は心配しなくても大丈夫じゃ」
「あ、そうなんだ。面白いお金の稼ぎ方、いま思い付いたんだけどな~……聞きたい? 聞きたいでしょ??」
カールスタード王はこんな馬鹿に教わるようなことはないって顔をしているが、フィリップがグイグイ来るので「頼みます」とお願いしていた。
「国民ってヤツはうじゃうじゃいるじゃない? だったら全員から銅貨1枚を集めたら、大金持ちになれるんだ!」
フィリップの案に「子供の発想」と思ったカールスタード王は笑いながら褒める。
「さすがは帝国の皇子。賢いですな。わはははは……あっ!」
「どうしたの??」
「いや……ちょっと急用を思い出しただけじゃ。そろそろ失礼させてい……」
馬鹿にして笑っていたカールスタード王は急に立ち上がろうとしたが、フィリップは立たせない。
「あ、そうだ。ひとつだけ聞いていい?」
「うむ。ひとつと言わず、なんでも聞いてくれ」
「先々代の女王様から恨まれるようなことしたの?」
その問いに、カールスタード王の顔が一気に曇った。
「な、なんのことじゃ?」
「だって泥棒の正体って死んだ女王様なんでしょ? だったら酷いことしてないと、そんなことしないと思うんだよね~」
「いや、それはただの噂話なだけで、死人が金を盗むわけがない。そもそもどうやって使うのじゃ?」
「本当だ! 王様、かっしこ~い。アハハハ」
「わははは。殿下の柔軟な発想も面白かったぞ。家臣にも見習わせたいぐらいじゃ。わははは」
最後はお互い笑顔で握手。こうしてカールスタード王は急いで立ち去り、フィリップはダグマーに担がれて自室に監禁されるのであった……
「なんか怒ってる??」
自室に戻ったフィリップは、ダグマーに正座させられているのだから、さすがにプレイとは思っていないらしい。
「はい……あれほど安請け合いするなと言ったのを忘れていましたので……」
「あ、やっぱり盗み聞きしてたんだ。アハハハ」
「笑いごとではないのですが……」
「は~い。すいませ~ん」
ダグマーの喋り方はまだ丁寧だけど、顔が怖かったのでフィリップは平謝りして足を崩した。
「別に口約束ぐらい、いくらやってもいいんじゃない?」
「それは、考えがあってあんなことを言ったと?」
「そそ。僕って馬鹿じゃない? だったら父上に手紙書くの忘れても仕方ないよ~。いや、書き忘れておいたほうがいいかな? 王様が怒鳴り込んで来るのが目に見えるね~。アハハハハハハ」
フィリップの言い訳に、ダグマーは複雑な顔だ。
「殿下は馬鹿なのですか?」
そしてド直球。
「それ、どっちの意味? 僕が馬鹿なのかと聞いてるのか、僕が馬鹿だと馬鹿にしているのか」
「想像にお任せします」
「その顔、後者だよね? たまには褒めてくれてもいいじゃな~い」
フィリップは後者と決め付けているが、ダグマーの考えは半々。どうしてもフィリップが馬鹿ではないと決定付ける証拠がないらしい……
22
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる