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七章 珍しく昼遊び
158 ボエルのデビュー戦
しおりを挟む貴族街でデート擬きをしたあと、フィリップはブーブー言いまくって平民街への外出許可証を手に入れてからはワクワクしていた。
町に出るためには昼型を維持しなくてはいけないので、夜遊びは短時間だけにして、暇な日中はボエルと勉強したりボエルとマッサージの勉強したり、たまにフレドリクの部屋を訪ねてダンジョン攻略の進捗状況を聞いていた。
勉強は簡単すぎて飽きて来たので今日は何しようかとフィリップは考えていたら、ノックの音が鳴ったのでボエルが対応しに出て行ったけど、首を傾げながら戻って来た。
「なんかデパートから殿下宛てに、めっちゃ高い着払いの荷物が届いてるんだけど、これ、殿下が買ったのか?」
「やった! ついにできたんだ!!」
「できた??」
「まぁまぁ。早く受け取って来て~」
「はあ……」
フィリップに言われるままボエルはお金を持って部屋から出る。そして大荷物を抱えて戻って来たら、フィリップに開けるように催促されたので箱の中を確認すると、黒色のスーツや清潔なシャツ等が複数入っていた。
「これって……執事用の服か? なんで殿下がそんなの着るんだ??」
「僕じゃないよ。ボエルにプレゼント~。ニヒヒ」
「オレが執事~~~??」
ボエルが驚いてくれたので、フィリップはニヤニヤしながら説明する。
「ほら? メイド服は苦手とか言ってたじゃん? だからボエルが遊んでいる間に発注しておいたの」
「あの時か……でも、こんなの着て仕事していいのか? メイド長だけじゃなく陛下にも怒られそう」
「そんなの、馬鹿な第二皇子のせいにしときなよ。変な趣味でムリヤリ着せられたとかね」
「殿下……」
「ささ。着てみて。脱がすの手伝おっか?」
「そのエロイ顔で、感動半減だよ」
残念なフィリップ。せめて「着替えを手伝う」だったらボエルもウルッとぐらいしただろうが、その顔がエロすぎたので台無しになるのであった。
「おお~。カッチョイイ~」
ボエルがメイドから執事にクラスチェンジすると、フィリップはベタ褒め。ボエルも姿鏡の前で何度も確認している。
「ピッタリだ……胸もそんなに目立たないな。あっ、あの時、全身測っていたのはこのためだったんだ」
「そそ。本当は胸元開いたのにしようと思ったけど、エロイと着てくれないと思ったから自重したの~」
「殿下がオレをどうしたいかわかんねぇけど……ありがとうございます」
「いいっていいって。外行こうよ!」
確かにフィリップはボエルのことをオモチャにして遊んでいるけど、それでもここまで自分のためにしてくれるのだから、ボエルも素直に礼を言って綺麗に頭を下げるのであった。
部屋から出るとボエルはしばらく恥ずかしそうにしていたが、元より男装を好むのですぐに慣れていた。
廊下を歩いていたらたまに生徒と出会すが、男子と女子では反応が違う。男子の場合はフィリップだけ見て挨拶し、女子の場合はフィリップに挨拶したあとはボエルに視線を置いて、通り過ぎてから何か声が聞こえていた。
「女子になんか言われてる気がするんだけど……」
「カッコイイとかじゃない? いまは美男子って感じだもん」
「マジか……モテ期が来た……」
「アハハ。そうがっつかないの。まずは女性が執事の服を着ていると浸透させないとね。勝負はそのあと。それなら、寄って来る女性は女好きの可能性が高まるからね」
「はぁ~……なんて悪知恵が働くんだ」
「策士と言ってくれたまえ」
感心してため息が出てしまったボエルだが、フィリップの言った「策士」には引っ掛かる模様。なので「詐欺師」に脳内変換したらしっくり来たみたいだ。
「そういえば、ボエルはここに通ってたんだよね? その時はモテなかったの??」
「みんな位の高い男狙いだったからな~……あの時も男装してたら、ちょっとぐらいはチャンスはあったかも? ……ダメだ。家族がそんなの許してくれないな」
「そっか~……ボエルの制服姿、見たいな~」
「『見たかった』じゃないのか?」
「いまでもいけるって~。どこで売ってるんだろ?」
「買ってまで着せようとするな!」
ボエルをからかって歩いていたら、庭園に到着。こないだのデート擬きを復習しながら2人で進んでいたら、3人組の女子と鉢合わせした。
「あ……いたんだ……」
フィリップがそんなことを呟くと、ムッとした顔の女子生徒が前に出た。
「いたんだとは失礼ではなくて?」
「あ、ゴメンゴメン。てっきり帰ったと思ってたの。エステル嬢、久し振り~」
「こちらこそフィリップ殿下に嫌味を言って申し訳ありませんでしたわ」
この女子生徒はエステル・ダンマーク辺境伯令嬢。フィリップの大好きな悪役令嬢だ。ただし、先程の発言はエステルに向けた発言ではなく、取り巻きのイーダ。
夏休みには帰っていると思っていたから一度も会いに行ってなかったので、悪いことをしたと声が出ちゃったのだ。
「みんな帰ってなかったんだね~」
「ええ。わたくしたちの領地はここから10日は掛かりますので、易々と帰れないのですわ」
「そっか~。辺境伯領ってめっちゃ遠かったもんね。あ、お父さんに護衛してもらったよ?」
「そういえばカールスタード学院への送迎を担当していましたわね」
ちょっと話が弾みそうな雰囲気なので、ボエルが肩をつついて「テーブル席に移動したら」と提案したからそれに乗っかるフィリップ。
そこでボエルは一度席を外して、飲み物を持って戻って来た。
「気の利く執事ですわね」
「執事?? あぁ~……でしょ? 綺麗な女性の前だから張り切ってるだけとも言うけどね~。アハハハハ」
フィリップが大笑いするので、エステルたちは首を傾げ、ボエルはフィリップの背中をつねってた。
「そんなに笑ってどうしたのですの?」
「だって、誰も気付かないんだも~ん。って、ちゃんと会ったことがあるのはエステル嬢だけか」
「わたくしが会ったことがある……あっ! あの時の侍女ですわ!!」
「アハハハ。せいか~い。どうどう? かっこよくな~い??」
エステルが驚いているところに質問したが、みんなどう言っていいか迷っている。
「ど、どうしてそんな格好をさせていますの?」
「僕の趣味~。似合いそうだから買ってあげたの」
「そうですか……確かにメイド服よりしっくり来ますわね。あ、これは褒め言葉ですので、お気を悪くしないでくださいませ」
「だって? よかったね~。アハハハハ」
フィリップが大笑いするので、エステルのフォローは微妙な感じに。ただし、ボエルは褒められて照れていたから、フィリップの笑いに助けられたのだ。
こうしてボエルの執事デビューは、エステルの手によっていい感じに広められるのであった。
第二皇子にイジメられているからそっとしておいてあげましょう、と……
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