258 / 522
十一章 昼が忙しくても夜遊び
258 二度目の式典
しおりを挟む近衛騎士のスカウトはまだ時間があるので一旦保留。寮に帰った翌日、フィリップの命令でボエルは新しいメイド服に身を包み、校舎へ向かう。
「その服……お城でも見ましたけど、下はスカートだったような……」
一緒に登校しているリネーアは、ボエルの服が気になるようだ。
「城のメイド服は新しくなったんだ。スカートとズボンが支給されて、自由に選べるようになってるんだよ」
「そういうことだったのですね。素敵なデザインだと思っていたのです」
「だろ? これ、殿下が作ったんだぞ」
「殿下がこれを??」
2人の話を眠気眼で聞いていたフィリップは不機嫌そうにボエルを見た。
「ボエル……父上が作ったの。もう二度と、そんなこと言うな」
「あ……申し訳ありません。失言でした」
ボエルがしゅんとして謝罪すると、リネーアは空気を読む。
「なるほどです。皇帝陛下が、ボエルさんのような人でも着たいと思えるような服を作ってくださったのですね。さすがは皇帝陛下ですね」
「まぁ……父上が苦労して作ったんだから、貴族もマネしてくれるといいかな? あ、別にズボンは必ずってワケじゃないけどね。冬はあったほうがいいとも思うけど」
「うちはマネしたいと思います。マーヤは皇帝陛下の作った服、どう思いますか?」
「冬にズボンがあると助かります。それにポケットも多いのですね。メイドとして働く者にも配慮してくれるなんて、さすがは皇帝陛下です」
「ですよね? きっと流行りますよ!」
リネーアが皇帝陛下と強調して言ったので、マーヤもそれに乗っかる。ただ、2人の尊敬の目はフィリップに向けられてだ。
「だよね~? ボエルはやっぱり騎士になったほうがいいんじゃない??」
「謝ってるだろ~。嬉しかったからちょっと口が滑ったんだよ~」
「そんなに気に入ってたんだ。明日はスカート穿いてね~。アハハハハ」
フィリップが笑えば、失言の話は終了。リネーアたちも釣られて笑い、笑顔で校舎に入って行く一同であった。
それから1週間、ボエルには新しいメイド服のズボンとスカートを交互に穿かせて登校。いちおう生徒やメイドの反応を見るためって建て前だったので、ボエルも渋々従っている。
「概ね好評ってところかな?」
「ああ。特にメイドからの問い合わせが多い。やっぱり冬場はズボンを穿きたいみたいだな」
「てことは、またモテモテ??」
「はい……彼女に嫉妬されました……」
「浮気? 浮気しちゃう? 浮気相手なら、僕も参加させてよ~」
「するか! 真面目な話してたんじゃねぇのかよ!?」
「真面目に浮気相手とのこと聞いてるんだけど?」
「そういうヤツだったな!?」
この会話は最初から言ってるように建て前。ボエルがニヤニヤしていたから、浮気していたほうが面白いとフィリップは思っていたのだ。
残念ながらボエルはいまのところ彼女一筋だったので、フィリップは「バレないって~」っと悪の道に引きずり込もうとするのであった。
ちなみに新メイド服の感想は、まとめた物を皇帝宛に送っていたよ。フィリップもたまには点数稼ぎしておいたほうがいいと思ったみたいだ……
そこからは面白い授業がなかったので、フィリップは夜遊びするために仮病。テスト期間とボエルたちとマッサージする時、街に遊びに行く時ぐらいしか体調はよろしくない。
フィリップが寝ているのだから、ボエルも暇なのか剣の訓練。将来どうなるかまだ決め兼ねているから訓練しているのだろうけど、たまに彼女のカロラにその姿を見せてデレデレしてる。
「ボエルかっこいいでしょ~?」
「はあ……」
「なんでいるんだよ!?」
フィリップも今日はカロラと一緒に見てる。ボエルがニヤニヤして出て行くのが気になって、隠れてついて行ったみたいだ。
そんなことをしていたら、あっという間に冬休みに突入。年末年始の皇族のお仕事はどうした物かとフィリップは悩み、やはりフレドリクたちが気になるので出席することにした。
「兄貴もデレデレだな……聖女ちゃんがここにいるの、嫌な予感しかしないよ~」
今回はフレドリクがルイーゼとしか喋っていないので、フィリップは超ヒマ。それに皇族席にルイーゼが何故かいるから、やっぱり来るんじゃなかったと後悔している。
それでも出席してしまったのだから、フィリップはボーッと貴族の長い長い行進を上から見ていると、全員揃って皇帝たちからの有り難いお言葉や「たるんどる!」的な長い長い長いお話。
なんとか睡魔に負けずその話を聞き終えたら、フレドリクがルイーゼと腕を組んで下から見やすい位置にまで移動したので、フィリップは「やめてくれ~!」と心の中で悲鳴をあげた。
「皆も知っての通り、こちらの女性は聖女ルイーゼだ! この度、私とルイーゼは婚約した! 祝福してくれると幸いだ!!」
フレドリクの自分よがりな言葉に、貴族たちは驚き過ぎて時が止まる。しかしながら、次期皇帝が「祝福しろ」と言っているのだから呆けている場合ではない。
2秒の沈黙の後、力強いが乱れた拍手と祝福の声で応えた。
「皆の祝福、しかと受け取った。次回の式典の後、盛大な結婚式を執り行う! これで帝国の未来は安泰だ!!」
「皇太子殿下のご結婚と帝国の益々の発展にぃ~! バンザ~イ! バンザ~イ!!」
「「「「「バンザ~イ! バンザ~イ!」」」」」
こうしてフレドリクを祝福したかどうかわからない貴族たちの万歳が、いつまでも続くのであった……
「全然めでたくないし……こんなこと言ったらまた城の中が荒れるって~~~」
せっかくメイドたちが仲良くしているのにフレドリクたちのせいで壊されるのだから、フィリップの嘆きは止まらない。だが、その声は貴族たちの大声に掻き消されたのであった……
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる