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十三章 卒業前も後も夜遊び
303 殴り込み
しおりを挟むフィリップは卒業パーティーを面白くしようと一晩考えたら、次の日はダンスの先生に無茶振り。テンポと鼻歌だけで、ダンスを組み立てろと命令する。
ただ、そこまで難しくない注文だったので、ダンスはその日の内に完成。フィリップたち全員もすぐにマスターしていた。時間が掛かったのは、ボエルたちへの説得だけだって。
翌日は、放課後にフィリップのクラスに5人組が集合すると、生徒会室に移動。フィリップの取り巻きが増えているから、羨ましそうにする生徒や、哀れむ生徒が続出。
前者は取り巻きになりたい打算的な者で、後者はフィリップの毒牙に掛かった哀れな子羊に見えるらしい……
そんな目をフィリップは無視してズカズカ前進。そして生徒会室に着くと、みずから扉を勢い良く開けた。
「たのも~~~!!」
「「「「「ギャ~~~!?」」」」」
「「「「「うおっ!?」」」」」
まるで道場破りみたいな入り方をしたせいで、生徒会はビックリして悲鳴を上げる。その後、入口を見てフィリップが立っていたから驚きの声。二度ビックリ。女子も声が野太くなってるよ。
「生徒会長わぁ~、どこのどいつだぁぁ~?」
その反応が面白かったのか、フィリップはノリノリ。おどろおどろしい声で右から左に見得を切った。
すると、1人の男子が逃げようとして、周りの生徒に取り押さえられた。そして、逮捕された犯人のようにフィリップの前に突き出された。
「わ、私が生徒会長をしている、オールステット侯爵家のレオナルドです……私が殿下に何か迷惑を掛けたのでしょうか? でしたら、何卒お許しを~~~!!」
「ううん。僕が迷惑掛けに来たの~」
「「「「「……はい??」」」」」
「ま、座ろっか? お茶、誰か出して~」
レオナルドが必死の形相で謝ったのに、フィリップはニッコリ迷惑掛ける宣言をするので、生徒会のメンバーは全員、目が点になるのであったとさ。
フィリップは目に付いた立派なソファーに飛び込んでふんぞり返ると、リネーアたちが動き回って「クレームじゃなくてお願いがあるだけなんです」と生徒会に教えてあげたら、安堵のため息が部屋中に吹き荒れた。
そんな中、ボエルは給湯室を勝手に使って全員分のお茶の手配。マーヤも手伝って振る舞われる。
フィリップの前にお茶が届けられたと同時ぐらいにレオナルドは対面に座り、副会長をしている女子も座ったので、フィリップは胸を凝視している。
「お、お願いとはなんでしょうか?」
フィリップが副会長の胸のサイズを当てようと頑張っていた……じゃなくて、まだ何も言わないからレオナルドから切り出した。
「ほら? 今年は第二皇子がいるんだから、卒業パーティーが例年通りじゃあ、僕もカッコつかないじゃない? 何か面白いこと考えてるんだろうね??」
「いや、その……」
レオナルドの反応は、例年通りやろうとしている顔。なのでフィリップが険しい顔になったので、汗ダラダラで言い訳する。
「皇帝陛下や皇太子殿下からも何も言われていませんので……予算も例年通りなので……この時期に言われても、もう変更ができないと言うか……」
その歯切れの悪い言い方に、フィリップは怒ったのかテーブルに足を乗せて大きなアクションをして組んだ。
「そっか~……僕の案は別にお金を掛けろなんて言わないし、いまある手札の中で出来ることだからなんとかならない? ちょっと曲順とみんなに協力してもらえば出来ることだから、超簡単だよ~?」
「と言われましても……ちなみに何をしたらいいのでしょうか?」
「見たほうが早いね。ボエル、準備して」
「はっ!」
ボエルや5人組の従者が机や椅子等をどけると、ボエルの音頭でリネーアプラス5人組の見本のダンス。ある程度見せたらフィリップが生徒会も踊れと命令してやらせたけど、笑顔で踊っていたから、感触は良さそうだ。
あとは交渉だけ。もう一度テーブルに着いたら、フィリップはふんぞり返ったまま切り出す。
「見ての通り、たいしたことしてないでしょ?」
「はい。予算内で収まりそうですけど……問題は生徒が踊ってくれるかどうかですね」
「そこは僕を楽しませるためとか適当に言いなよ。非難の声は全て僕が被る。成功したら、生徒会の功績にしてくれていいからね」
「そ、そんな大それたこと言えませんよ」
「どちらかと言うと、僕、目立ちたくないの。お前たちの手柄にしてくれたほうが助かるんだけどな~?」
「うっ……そういうことでしたら……」
さっきまで穏やかな顔をしていたフィリップが睨むだけで、レオナルドは陥落だ。
「あ、作曲とかってお金掛かりそう? もしも予算オーバーしそうになったら、僕に相談して。貴族の当主から詐欺で巻き上げたお金がたんまり残ってるからね」
「はあ……」
「んじゃ、あとは任せるよ。あ、僕、この5人と一緒にダンス踊るから、その時間も確保しておいてね~。卒業パーティー、楽しみだな~」
こうしてフィリップは言うこと言ったら、取り巻きを引き連れてさっさと出て行ってしまうのであった。
「態度はアレでしたけど、いい人でしたね……」
フィリップたちが撤退すると生徒会室に静寂が訪れていたが、副会長がその静寂を破った。
「ああ……詐欺で巻き上げた発言と、5人と踊ると言わなければ……」
副会長はフィリップの評価を変えていたけど、レオナルドが詐欺等を思い出させたので評価は元の位置まで戻ったな。
「で、でも、殿下の仰っていた案、面白そうでしたよね?」
「まぁ……やらないとあとから何を言われるかわからないからやるしかないけど……」
「では、さっそく取り掛かりましょう!」
「ああ! 忙しくなるぞ~~~!!」
こうして生徒会は、フィリップの無茶振りを叶えるために駆けずり回るのであった……
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