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十九章 おめでたい話があっても夜遊び
456 ペトロネラの結婚式
しおりを挟むリネーアとコニーの結婚式が終わると、そのふた月半後にはまためでたい話。次はペトロネラの結婚式だ。
こちらもまずは神殿で、身内だけのこじんまりした集まり。ただし、公爵家の親戚が集まっているのだから、リネーアたちの結婚式よりも規模は小さいのにオーラが段違いだ。
フィリップの隣に座るボエルはずっと「こえ~こえ~」と心の中で呟いてる。フィリップは買ってあげた超高級礼服のことか出席者のことか「どっちだろう?」とニヤニヤしてるけど。
ボエルはフレドリクも見慣れているはずなのに、ふたつ隣の席に座っているから「皇帝こえ~」とか思ってたんだとか。
ちなみにカイサとオーセはフィリップの世話をしなくてはいけないので従者席で空気になってる。他の従者もオーラが違うんだって。その人たちは「子供なのに偉いね~」って思ってるだけなのに。
神殿での式が終わると、披露宴はペトロネラ夫婦が住む新居で。貴族街でも1、2を争う大きな屋敷だから、またボエルが怖がってる。
会場となるダンスホールも広くて雅。フィリップと同じ席に座らされたボエルは魂が口から飛び出しそうだ。フレドリク夫婦も一緒に座ってるもん。
ここでの祝辞は、フィリップは断固先行。順番を無視してかなり前の位置を奪い取った。フレドリクの後は嫌なんだもん。
フィリップの祝辞は涙涙ではなく、大笑い。ペトロネラから、メイドの雰囲気が悪いから噂話作りに協力してくれと頼まれた嘘から始まり、酒癖の悪さやお見合いの失敗談とかを披露したから、ペトロネラは顔が真っ赤だ。
いちおう最後は祝福で締めたけど、ペトロネラに睨まれてます。でも、フレドリクの祝辞のおかげで、その目はハートに変わってた。感動したんじゃなくて、カッコイイからかな?
割れんばかりの拍手のあとは、しばしご歓談。ペトロネラは夫と腕を組んで一目散にフレドリク夫婦の下へやって来た。
「殿下~。なんで私の恥を話すんですか~」
でも、目的はフィリップ。そりゃイケメンだけでは怒りは消えないよ。
「旦那さんが知っておいたほうがいいと思って~。隠すの大変でしょ?」
「隠してませんよ。お酒にも付き合ってくれますし。ね?」
「はい。お見合いの失敗談は初めて聞きましたけど……ペトロネラさんらしくて、かわいいと思いました」
「もう! 恥ずかしいこと言わないでよ~」
「はいはい。お熱いお熱い」
新郎新婦がイチャイチャし始めたので、フィリップはからかってから話を戻す。
「ホント、おめでとうね。ところでネラさんって仕事は続けるの?」
「悩みましたが、仕事は好きなので続けることにしました。夫も支えてくれると言ってくれましたので」
「わあ~。理解のある旦那さんでよかったね。お兄様も心強い人が抜けなくてよかったね~?」
「ああ。これまで通り頼りにしています。家庭で何かありましたら、なんでも相談してください」
「はい。こんなワガママ、聞き入れてくれて本当にありがとうございました」
ペトロネラたちがフレドリクに向けて深々と頭を下げたが、フィリップは2人の肩を持って起こした。
「そんなのワガママじゃないよ。普通のこと。ま、この国ではちょっと異端かな?」
「そうだな。女性でも活躍できる制度が必要かもな。私はそんな国を目指したい」
「「陛下……」」
フィリップのアシストからフレドリクの決意表明が決まると、ペトロネラたちはまた感動して、深々と頭を下げてから元の席に戻る。
すると今日もフレドリクのヨシヨシだ。
「本当にフィリップは世話焼きさんだな。きっとペトロネラさんたちは末永く幸せになれるよ」
「う、うん……頭撫でないでくれない?」
怖い父親ではないからいくらでも文句は言えるけど、フレドリクの撫で回しは一向に止まらないのであった……
「「あぁ~……疲れた」」
幸福感で包まれた披露宴も終わり、根城に帰ったフィリップはソファーに飛び込むと、一緒に飛び込んだ人間をジト目で見る。
「なんでボエルはついて来てんの?」
「いいだろ~。こんな幸せな気分で宿舎に帰ったら、寂しくなるじゃないか~」
「彼女いる……てか、侍女辞められるの?」
「ああ。そう言えば報告忘れてた……」
「おお~い。僕の権力使ってやりたい放題したクセに~」
「いや、アレは……殿下が面白がってやってたんじゃないか??」
確かに彼女の両親の時は、フィリップは面白そうだとイロイロやっていたのでボエルの反論は正しい。しかし、フィリップが頬を膨らませているから謝罪と感謝して機嫌を直してもらった。
「じゃあ、次はボエルだな~……どんな結婚式するか決めてるの?」
「まったく……女の件で時間が掛かったから、まだ手を付けてない。てか、何からしたらいいのかもわかんねぇ」
「これ、頼りにならない男の典型だな……」
「え? 結婚式って男が率先してやらないといけないのか??」
「さあ? 僕もしたことないからわかんない」
「おお~い。適当に言うなよ~~~」
ボエルが不安になっているから、フィリップは「モブ君に聞け!」と一喝。ボエルもそっちに聞いたほうが確かだと心に刻んだ。
「そういえば、新居とかは?」
「新居??」
「住む家だよ。え? 彼女が侍女辞めたら、どこに住むの? 家ないんじゃ……」
「ああ~~~!!」
「ダメダメだな……」
ボエルの頼りないところ連発。何もやっていないので、フィリップも頭を抱えたよ。
「確か~……リネーア嬢たちは、城の新婚向けの部屋を借りるとか言ってたっけ。陞爵したら、貴族街の屋敷を小さくてもいいから欲しいとか言ってたはず」
「オ、オレも新婚向けの部屋を借りたい!」
「だからモブ君に聞いて。てか、お父さんとかにも聞いたら? 騎士爵なんでしょ??」
「そうだった! でも、平民街の一戸建てに住んでるんだよな~……参考になるかな?」
「知らないよ~。僕はお金ぐらいしか助けてやれそうにないや」
フィリップのポケットマネーは、全て汚いお金。それを使われると感じたボエルは、必死に情報を集めて結婚準備に取り掛かるのであったとさ。
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