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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する

010 初の夜1

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「はぁ~……食事も終わりましたし、エリクからお風呂にお入りくださいませ」

 フィリップが笑い続けるのでエステルは疲れた顔にはなっているが、皇族への敬意は忘れていないのか先を勧めた。

「いや、お姉ちゃんから入りなよ。準備して来てあげる」
「準備ですの?」
「貴族用じゃないから、お風呂は自分で沸かさないといけないんだ。ちょっと待ってて」

 お風呂場に消えたフィリップは数分後には戻って来て、エステルに使い方を教える。

「シャワーなんてないから、お湯はその桶を使って湯船から汲むんだ。できそう?」
「その程度でしたら……しかし、平民のお風呂は沸くのが早いのですわね」
「まぁね。困ったことがあったら大声で呼んで。それとも一緒に入ってほしい?」
「けっこうですわ!」

 ちょっと頼りになるように見えたフィリップは、最後の言葉で台無し。エステルは顔を赤くして、石鹸と体を洗うタオルをフィリップから奪い取って追い出した。
 それからエステルは服を脱ぎ、慣れないお風呂で四苦八苦しながら頭や体を洗い、湯船に浸かったところであることに気付く。

「あ……いつものように浸かってしまいましたわ。このあとエリクが使うのに、どういたしましょう……あの人なら意外と喜びそうですけど……まさか飲みはしませんわよね??」

 エステルは皇族に対して汚れたお湯では不敬だと思ったらしいが、その独り言のほうが超不敬。だがしかし、悩んでいてもわからないので、フィリップを呼んでドア越しに話す。

「この湯船のお湯はどうしたらいいのですの?」
「そのままでいいけど……あ、残り湯を僕に使われるのが嫌なの? だったら、底に栓があるから出る時に抜いておいて」
「そこまでは思っていませんが……」
「気にしないで。そういう人はけっこういるし。あ、バスローブとタオル、ここに置いておくからね」
「はい……」

 フィリップが脱衣所から退室した音を聞いたエステルは、トプンと顔まで湯船に浸けた。

「なんですの……」

 意外と紳士的なフィリップに対して、何やら思うことがあるエステルであった……


 体が温まったエステルがお風呂から上がると、フィリップはベッドにうつ伏せで寝転んでおり、その隣にはパーテーションが置かれていたので、エステルは小走りにその後ろに移動した。

「このパーテーション、どうされたのですの?」
「借りて来た。寝顔なんて見られたくないでしょ?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ま、着替えなんかもあるし、あって損はないよ。僕もお風呂入って来るね」
「はい……」

 フィリップがお風呂に入って水音が聞こえて来ると、エステルは枕をベッドに投げ付けた。

「もう! 印象がコロコロ変わって気持ち悪いですわ」

 どうやらエステルが知っているフィリップ像から掛け離れたり近付いたりするから、戸惑っている模様。

「たまにかっこよく見えますし……いいえ、気のせいですわ!」

 いや、恋心が生まれたらしく、その気持ちに否定を繰り返すエステルであった……


 フィリップのお風呂の間にエステルはパジャマに着替えてドキドキしていたら、その原因の人物がパーテーション越しのベッドに飛び込んだ。

「そ、その……ありがとうございます」
「ん?」
「今日一日、イロイロ手助けしていただいたので……」
「そんなのいいよ。不慣れなんだからね。従者もなしにお疲れさん」
「はい……」
「あ、そうだ。寝る前にちょっといい? そっち行くよ??」
「え、あ、はい……」

 突然のことだったからエステルは許可してしまったので、体育座りしていたヒザに顔を隠した。その数秒後、フィリップはベッドに登ったものだから、エステルの鼓動が早くなる。

「やっぱり濡れたままだね。乾かしてあげる」
「はいっ!」
「なんか緊張してない?」
「い、いえ、いつも通りですわよ。オホホホ」

 フィリップに髪の毛を触れられて緊張マックスだったエステルは、強がって高笑いでごまかすのであった。

「どうして風魔法なんて使えるのですの!?」
「あ、ヤベ……アハハハハ」

 何故か温かい風が頭に当たっているので、今度はフィリップが笑ってごまかすのであったとさ。
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