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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
024 勅令書の到着
しおりを挟む領主会談が終わって数日、ホーコン・ダンマーク辺境伯の元へ各地の情報が届けられていた。
「大混乱だな……」
ホーコンの呟きに、同じく手紙を精査していたエステルも頷く。
「せめて1年の猶予があれば、ここまでの混乱は起きませんのに……」
「まったくだ。いまのところ処罰を受けた領地はないようだが、これからだろうな」
「うちのように準備ができていないのでは、間に合わないだけで処罰されてしまいそうですわね」
2人が暗い顔で話をしていると、たまたま同席していたフィリップが口を開く。
「問題は、奴隷がどんな待遇で再雇用されるかどうかだよね~……元の給料だと上から圧力が掛かるかもしれない。それを避けるために、自由にすると言ってクビにするとか多々あるかもしれないね。2人ならどうしてた?」
フィリップの問いに、まずはエステルが答える。
「わたくしなら面倒事を避けるために、最低限を残してクビにしたでしょうね。給料を倍にすると言えばそれなりに頑張りますでしょうし、体裁は守られますわ」
エステルの答えを考えながら聞いていたはホーコン違う意見を言う。
「それでは麦の収穫量が減るだろう。最悪、半分に……帝国が餓死者だらけになってしまう。ここはバレないように細心の注意を払って、今までの給料で農奴を囲うしかないだろうな」
2人の答えが出揃うと、フィリップがまとめる。
「お姉ちゃんのは、餓死者が出てアウト。辺境伯のは、バレた時点でアウト。その後、どっちみち収穫量が減るから帝国の終わりだね~。アハハハ」
危機的状況にフィリップが笑うので、2人とも呆れている。
「自分の国が滅ぶ瀬戸際ですのに何がおかしいのですのよ」
「いや、悪い。もう笑うしかなくって……まぁもうじき収穫時期だから、そこまでは大丈夫だろう。でも、冬がね~……」
フィリップは困ったようにホーコンを見る。
「わかってます。受け入れ準備もしていますし、派閥の者とも連絡を密にしております」
「さすがお義父さん! 頼りになるな~」
「はぁ~……そこまで多いと無理ですよ?」
「なんとかなるって。アハハハ」
「「はぁ~~~」」
自分の領地でもないのにフィリップは楽観的すぎるので、ホーコンとエステルの長いため息はシンクロしていた。
「そういえば、エリクが行方不明との知らせが届いていましたけど、こちらはどうしますの?」
「知らないって返事出して捨てといて」
「わかりました……でも、この日付は……」
「んじゃ、僕はお昼寝しに行くね~」
「暇なら仕事をしてはどうですの?」
こうしてフィリップは堂々とサボると告げて、部屋から出て行くのであった。
それからもホーコンたちが忙しく動き回り、フィリップは鍛冶屋でサボっていたら、エステルが現れた。
「またサボっていますのね……」
「ん? お姉ちゃん……なんかあった??」
「ついに来ましたわよ」
「おお~。けっこう遅れたね~」
エステルの雰囲気からすぐに察したフィリップ。勅令書が届けられたと……
「あ、そうだ。馬車も完成したよ」
「はぁ~~~」
それなのにまったく違う話をするので、エステルはまた長いため息。クセになりつつあるようだ。
「そんな顔しないでよ。馬車で来たんだよね? さっそく使って帰ろうよ」
緊張感のないフィリップは職人を集めて、エステルの乗って来た馬車の馬を新型馬車に交換して出発する。
「これが馬車の乗り心地ですの!?」
「アハハ。気に入ってくれたみたいだね」
「ええ。揺れはほとんどないですし、見た目もよかったですから、すぐにでも使えましてよ」
「ま、これで奴隷の仕事も増えたね」
「え? どういうことですの??」
エステルが首を傾げるので、詳しく説明する。
「こいつを大量生産して、他領や他国に売るんだよ。そのためには、人が必要でしょ?」
「そこまで考えていたのですの!?」
「なんのためにやってたと思ってたんだよ~」
「暇潰しって自分で言ってましたわ」
「領地の収入になるとも言ったでしょ~~~」
新型馬車製作は領地のためにやっていたとは信じられないエステルと、暇潰ししか記憶に残っていなかったと知ったフィリップは、お互い納得がいかないのであったとさ。
辺境伯邸に2人が戻ると、さっそく作戦会議。ホーコンがいる執務室でフィリップは勅令書に目を通す。
「内容は……変わってないね。手筈通りいきそう?」
「一部、奴隷の再雇用や手放すことに難色を示している者はいますが、概ね……」
「おっ! ちょうどよかった。人手がほしかったところなんだ」
「はい??」
「エリクは馬車を……」
ホーコンは作戦を完璧にこなせていなかったので何か言われるものだと思っていたのだが、フィリップから思ってもいない答えが返って来たので、エステルからの説明を聞く。
その結果、娘の太鼓判が押された馬車ならばと、当面の資金は出してくれるようになった。自分専用の馬車も欲しいそうだ。
「あとは~……辺境伯のお願いに従わなかったヤツの処置だね~。資産や農地を取り上げるってのはどうだろう?」
「見せしめにするということですか……」
「勅令書に背いたんだよ~? 皇帝陛下が許すわけないじゃ~ん。アハハハ」
「クックックッ……殿下も人が悪い。わははは」
「ホント、悪知恵が働きますわ。オホホホ~」
フレドリク皇帝に罪を擦り付ける作戦はすぐ決定。珍しく心をひとつにして笑う3人であったけど、その笑い顔はけっこう怖かったらしく、お茶を変えに来たウッラが逃げ出すほどであった……
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