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二章 引きこもり皇子、外に出る

032 デート2

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「先に食べない? それから教えてあげるよ」

 フィリップの魔法適正は『氷』なのに、魔法で炭に火をつけたからにはエステルの質問が凄かったので、一度クールダウンさせたい。フィリップの提案はいちおうエステルも受け入れたが、しつこく「絶対ですわよ?」とか言っていた。
 しかし、フィリップが慣れた手付きで料理を始めると、エステルは質問することが増えていた。

「どう考えても、皇族がやることではないのですけど……」

 そう。フィリップは、こう見えて帝国の第二皇子。皇弟だ。

「僕が皇族に見えるんだ~」
「見えなくても、事実ですわよ」
「やっぱり見えてなかったんだ……」

 自分で卑下してエステルが肯定すると、フィリップは肩を落としてる。見えると言ってほしかったっぽい。

「てか、えっちゃんも学院で野外授業受けたよね? だったら、これぐらいできるんじゃないの?」

 野外授業とは、帝都の近くにある森の中で一晩過ごすイベント。これのあとにダンジョンに挑戦するイベントがあるので、その予行練習となっている。

「え? 皆さん従者を連れて来ていましたから、従者が協力して全てやってくれましてよ」
「へ??」
「まさか……皇族なのに、平民みたいに野宿をしてましたの??」
「だから変な目で見られていたのか~~~!!」

 そのまさか。フィリップは教師の話を聞いていないし誰とも組もうとしなかったので、大きなリュックを背負って1人で現れたから、同級生も教師もどう触れていいかわからなくなっていたのだ。
 ちなみにヒロインも似たようなことをしていたので、従者を連れた皇帝たちイケメン4がイロイロしてくれたのだ。だからフィリップは、乙女ゲームでヒロインが背負っていた大荷物が頭に残っていたらしい。

「授業は欠席することが多かったと聞いていましたが、どうして野外授業のような面倒な物に参加しましたの?」
「キャンプって楽しそうだから……」
「授業は病気のようなやむを得ない事情を除いて、全て参加するものですわよ」
「ごもっともで……」

 フィリップは、生前したことのないキャンプがしたかっただけなので、エステルの叱責は心に響くのであったとさ。


 気を取り直したフィリップは楽しそうにバーベキューを焼いて、ある程度溜まったらエステルに振る舞う。

「わっ! 殿下は料理の腕前も素晴らしいのですわね」
「アハハ。見直した?」
「ええ。この腕前なら、料理人として雇ってもよろしくてよ」
「言い過ぎ。お肉の味付けは、屋敷の料理人に頼んだんだよ」
「そうですの? そのわりには食べたことのないような味がしますわよ」
「まぁ、ちょっとは僕の知識と、他国の香辛料が入っているかな? でも、美味しく感じるほとんどは、炭で焼いたのと、このシチュエーションだよ」

 フィリップの話を聞きながらバーベキューを飲み込んだエステルは辺りを見渡す。

「確かに綺麗な景色を見ながら食べると、美味しく感じるかもしれませんわね」
「それと、相手にもよるね。僕の手作りなんだから、マズイわけがないよね~?」
「は、はい……」

 皇族の言葉には否定のできないエステル。と言いたいところだが、顔が赤いところを見るとフィリップに好意があるのだろう。
 フィリップもその反応に気付いていたが、いまは触れずにバーベキューを食べながら、先程の野外授業の話に戻って盛り上げるのであった。


「この飲み物も冷たくて美味しいですわね」

 食後は、アイスカフェオレ。フィリップが前もって用意してアイテムボックスに入れていた帝国ではあまり出回っていない飲み物だが、エステルは気に入ってくれたようだ。

「氷が入っているから冷たいのですわ、ね……」
「ん??」

 エステルが言葉を詰まらせたので、フィリップは首を傾げた。

「そうですわ! 氷魔法!? 先ほど火をつけましたわよね!!」
「あっちゃ~……」

 ここまで上手く忘れさせていたのに、フィリップが氷魔法を使ったせいでエステルも思い出しちゃった。

「わかった。わかったから落ち着いて。これも内緒だよ~?」

 なので、フィリップも諦めて説明する。

「氷魔法って、変じゃない??」
「変と言われましても、どこが変なのかわかりませんわ」
「まず、氷ってのは、水が冷えてできるよね? これは自然現象だ。じゃあ、魔法はどう?って話。いきなり氷ができるのはおかしくな~い??」
「そう言われますと、変に聞こえますわね」
「だから僕は、魔法を分解して考えたんだ」

 フィリップは魔法で水の塊を2個浮かべて続きを喋る。

「これを冷やすと氷になるわけだから、熱を操っているとも言い換えられない?」
「そう……ですわね。つまり氷魔法とは、ふたつの魔法で構成されていると」
「いや、浮かせたり飛ばしたりできるんだから、ふたつじゃ利かない。勢いよく飛ばすこともできるから、風魔法も使っているね」
「なるほどですわ。だから殿下は、複数の魔法を使えますのね。でも、炎を使うというのは相反するものではなくて?」
「炎じゃなくて、熱だよ。熱ってのは、冷たくなったり熱くなったりするの。こんな感じで」

 フィリップが両手をかざすと浮いていた水の塊が、ひとつは凍り付き、もうひとつはブクブクと泡が踊り出した。

「片方は氷になって、もう片方は沸いてますの?」
「そうそう。水の変化だね。水が凍る温度とかってわかる??」
「いえ……寒くなるとしか……」
「零度だよ。いまの気温から、だいたい25度ほど下がった温度。んで、水が蒸発する温度が100度。温度を上げるのは苦手だけど、時間をかけて一点に集約すればその倍以上の温度が出せるから、燃えやすい物なら簡単に火がつくってわけ」
「難しい話ですわね……」
「アハハ。この世界に科学なんて学問ないもんね~。頭を冷やすために、ちょっとだけ僕の魔法を見せてあげるよ」

 エステルが頭を押さえていたので、フィリップは余興で楽しませる。
 まずは地面から成人男性より倍以上も大きな氷柱を数本生やして、次に雪だるま状の氷の塊をぶつけて氷柱を砕く。その風圧で、フィリップのカツラがエステルの元まで飛んでしまった。
 しかしフィリップは気にせず倒木に触れて、一気に凍らせて粉々に。最後は小規模の雪を、自分の頭の上に降らせながら戻って来た。

「ま、だいたいやれることはこんなとこかな? あ、木が砕けたのは、マイナス200度以上で凍らしたから砕けたの。本気を出せば、その湖ぐらい凍らせることもできるけど、お魚さんがかわいそうだからやらないよ~?」

 エステルが口をパクパクしていたからフィリップは解説を付け足したようだけど、なかなかこちらに戻って来ない。エステルはフィリップの魔法に圧倒されているからだ。

「大丈夫??」
「す、凄すぎますわ……こんなに魔法に長けていたなんて……」
「みんなには秘密だよ~? シーっね」

 小雪がチラつくなかのフィリップの仕草と笑顔が、一生忘れられなくなるエステルであった……
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