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二章 引きこもり皇子、外に出る

037 一騎討ちの申し込み

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 フィリップが敵陣奥深くに飛び込んだからには、城塞都市ルレオではてんやわんや。外壁の上から見ていた者は、死を覚悟していた。
 そんな騒ぎになっているとは知らないけど、だいたいわかっているフィリップは、ボローズ軍の本陣近くに着地した。

「なんだこの子供?」
「どこから降って来たんだ?」
「前列の奴らが何か叫んでるぞ?」

 そんな場所に貴族の子供に見えるフィリップがいきなり登場したからには、ボローズ兵も混乱。前列の兵士は敵が入り込んだと叫んでいるが、まだここまで伝達されていない。
 その状況をフィリップはニヤニヤ見ていたが、レイピアを抜いて本陣に真っ直ぐ向けて怒鳴る。

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 フィリップの怒鳴り声に、一同ポカン。子供が何言ってんだって顔。その後は……

「「「「「ギャハハハハハ」」」」」

 大爆笑。何人かは立ってられずに地面を叩いてる。フィリップも自分がやっていることが面白いのか半笑い。だが、やることはこれしかない。

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「「「「「ギャハハハハハ」」」」」

 フィリップは何度も自己紹介と一騎討ちの申し込みをし、その都度ボローズ兵から笑われるのであった……


 場所は10数メートルずれて、本陣のテントの中。そこでこれからの作戦が話し合われていたのだが、外から大きな笑い声が聞こえて来たので、会議参加者はいきどおっていた。

「なんだこの馬鹿騒ぎは……これから帝国に攻め込むのに、たるんでおるな」

 特に怒りを見せていたのは、体が大きくオールバックの中年男性、イェルド将軍。誰かを叱責させに行かせようとしたら、その時、兵士の1人が報告にやって来た。

「伝令! 自分は帝国第二皇子だと騒いでいる子供がいるのですが、どういたしましょうか?」

 兵士の言葉に、ここでも一同ポカン。言ってる意味がわからない。

「待て待て。この騒ぎは、その子供が第二皇子と言っているから馬鹿笑いしているのか?」
「はっ! 将軍に一騎討ちを申し込んでおります」
「私にか? ブッ! わはははは」
「「「「「わはははは」」」」」

 そして、怒りを忘れて大爆笑。笑いながら容姿を質問していたが、まんま子供だったので、しばらく笑いは止まらない。

「ハァーハァー。本当に第二皇子なら、人質として使えるのにな。こんな敵陣真っ只中に本人が来るわけがあるまい」
「では、どういたしましょう?」
「ま、軍隊を前にして笑いを取るその度胸はなかなかのものだ。顔ぐらい見せてやろう。そうだ。軍曹のところは子供がいなかったよな? 養子にどうだ??」

 フィリップのことはただの子供と決め付けて、イェルドたちは馬鹿話をしながら本陣を出るのであった……


 フィリップが自己紹介と一騎討ちの申し込みをして何度目だろうか……立派な鎧を着込んだオジサンの集団がフィリップの前までやって来た。

「少年が、私に一騎討ちを挑んでいる者か??」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「ブッ! 本当に挑まれたぞ。わはははは」
「「「「「ギャハハハハハ」」」」」

 イェルドが生で聞けたと笑い出したので、なんとか笑いが収まっていた兵士も再び爆笑。

「どこの子供かわからないが、ここは子供の遊び場とは違うのだ。罰は免れないからな」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「聞いておるのか?」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 イェルドが優しく対応しているのにフィリップは同じことしか言わないので、さすがにイェルドも苛立って来た。周りの兵士も、殺されるのではないかと心配している。

「大人を舐め腐ったガキだな……もういい。お前、牢に入れておけ。多少、手荒になってもかまわん」

 子供を殺すのは気が引けたのか、イェルドは中年の兵士にそれだけ言うときびすを返し、会議参加者と共に本陣に戻る。
 その後方からはフィリップの一騎討ち発言がまた聞こえて、次の瞬間にはイェルドの近くを歩いていた軍曹が背中に衝撃を受けて前のめりに倒れた。

「なんだ? なんでお前が軍曹の上に乗ってるんだ……」

 軍曹の上に乗っているのは、先程フィリップを拘束しろと命令した中年兵士。気絶しているのか、イェルドの質問には答えられない。

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 なので振り向いたら、フィリップがレイピアを向けて怒鳴り、周りの兵士は呆気に取られていたのでイェルドの目付きが変わる。

「あいつがやったのか?」
「は、はっ! 掴みかかったら、投げ飛ばされまして……」
「ただの子供ではないということか……死なない程度に痛め付けてやれ。その後、尋問だ」
「はっ!」

 鎧を着込んだ騎士から報告を聞くと、その者をフィリップにけしかける。騎士は剣を抜き、ゆっくりと近付くと攻撃態勢に入った。そこでイェルドも勝負アリだと振り返ろうとしたが、騎士は自分の前まで飛んで来たので固まった。

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 フィリップが騎士を蹴り飛ばしたのだ。

「鎧を着込んだ男を、ここまで飛ばしただと……」

 ここでイェルドも、フィリップを敵だと認識した。

「殺してかまわん! 数人で一気に片を付けろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」

 こうしてフィリップは、一斉に襲い掛かるボローズ兵との大立ち回りを始めるのであった……
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