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四章 引きこもり皇子、暗躍する
073 笑顔の違い
しおりを挟むハルム王国の侵攻の知らせは帝都にも届いていたのだが、準備をしている内に終わったとの知らせも届いたので、フレドリク皇帝はいつものメンバーを集めて喋っていた。
「またあいつだ。フィリップが話し合いで解決したんだと」
フレドリクは複雑な顔で報告書をテーブルに軽く投げた。無事でいてくれるのは嬉しいのだが、危険なことをしてほしくないとか、準備が無駄になっているとか、少しは出番を取られている嫉妬もあるらしい。
その報告書を回し読みをしたイケメン4は、様々な顔。カイ・リンドホルム近衛騎士長は完全に出番を取られたという顔。ヨーセフ・リンデグレーン宰相は信じられないといった顔。
モンス・サンドバリ神殿長も信じられない顔をしているが、引っ掛かることもある。
「またダンマーク辺境伯領……まさかとは思いますが、フィリップ君は辺境伯領にいるのでは?」
「いや、辺境伯は、今度は南に逃げられたと謝っていた。逃がさないように屋敷を兵で囲んでいたらしいけど、翌日には置き手紙を置いて姿を消したみたいだ」
「確かに逃げ足は早かったですけど、あの辺境伯がみすみす逃がすとは思えない……匿っていると考えるほうが自然では??」
「フィリップをか? なんのために??」
フレドリクたちは「まさか~」と言いながら目配せするが、モンスは爆弾発言する。
「辺境伯と共に、陛下の椅子を狙っているとか……」
「「「……」」」
その発言に、一同緊張が走……
「「「「ないないないない」」」」
「「「「わはははは」」」」
らない。モンスまで自分で言って否定して笑っている。これまでのフィリップの行動がそうさせているみたいだ。
「ははは。皇帝の椅子なんて、あいつは興味ないよ。自分の派閥を作ろうとしていた者は全員、私や父上に報告していたんだからな」
「そうそう。裏から操ろうとしていた侯爵なんて、賄賂もプレゼントも奪われただけだったと怒っていたし」
「女好きを突いても、娘は傷物にして送り返すなんて非道、俺にはとうていできないぞ」
「前神殿長も女を使って取り込もうとしたらしいですけど、逆に全員にセクハラを受けていたと告発されていましたもんね」
それも、思ったより笑える武勇伝があるから、フレドリク、ヨーセフ、カイ、モンスのフィリップ談が止まらない。しかし、誰かがエステルの名前を出したら、ピタリと止まった。
「エステルが口説き落とした可能性か……」
エステルを毛嫌いしているからだろうが……
「「「「ないないないない」」」」
「「「「あんな性悪女、誰が娶るか」」」」
「「「「わはははは」」」」
すぐに否定。女好きのフィリップでも、エステルと喋っている姿も見たことがないし、自分たちが大っ嫌いな女はみんな嫌いだと思って笑いが再燃している。
「はぁ~……フィリップのことは心配だけど、いいかげん馬鹿話はやめようか」
フィリップとエステルをネタに散々笑っていた一同であったが、フレドリクが話を変えると真面目な顔に変わる。どうやら今日呼び出したのは、他にも何かあるらしい。
「どうも、新しく開拓した農地では作物の育ちが悪いらしいのだ。辺境伯領とここでは、何が違うのだろう?」
この発言から皆はいろいろな案を出したが、農業をしたことのないメンバーしかいないので決定打に欠ける。
そこでモンスが少し強引な手を提示する。
「全ての農家の者からノウハウを提出させて、一番いいモノを普及させてはどうでしょうか?」
「ふむ……しかし、それは農家の今までの研鑽あってのモノではないのか? 奪われたと反発されないだろうか??」
「帝国の危機を乗り越えるためです。納得してもらえるように説得しましょう」
「それしかないか……」
フレドリクもここは涙を飲んでもらうしかないかと考えたその時、ヨーセフからも手が上がる。
「辺境伯から聞いてみてはどうです? 周辺の領土には教えているのですから、陛下が言ったらすぐに教えてくれますよ」
「それもアリだが、エステルに教えを乞うているようなものだしな~……」
「私もそれは引っ掛かりますが、背に腹は代えられないですよ」
何があっても、フレドリクたちにはエステルがネック。
「まぁ遠い土地だし、ノウハウが届く頃には他の農家のノウハウを採用しているだろう。それでも上手くいっていなかったら採用することにしよう」
なので、最終手段として用いることで落ち着くのであった。
「みんな~。クッキー焼いて来たよ~」
その話し合いがちょうど終わった頃にノックの音が響き、ルイーゼ皇后がワゴンを押して執務室に入って来た。
「「「「いただくぞ!」」」」
「た~んと召し上がれ~」
エステルの顔を思い出していたフレドリクたちは、ルイーゼの顔を見て癒やされるのであった……
その会議からしばらく経った頃、ダンマーク辺境伯領でも会議をするとのことでフィリップも嫌々同席させられていた。
「皇帝陛下から、農業のノウハウを寄越せとの勅令が来ていますのよ」
「ふ~ん……それは、そんな高圧的な態度で来てるの?」
「ええ。わたくしの読み方ではそうですわね」
「ちょっと貸して」
エステルやホーコンでは恨みが勝っていると感じたフィリップは勅令書を読んでみたら、お願い半分、圧力半分ぐらいの文章であった。
「ま、向こうでもやっと農業に力を入れたけど、上手くいかないから助けてほしいってことね」
「優しく言い替えればそういうことですわね。それで……助けますの?」
「いや。気になることがあるから、農家を説得中と手紙を送っておいてよ。それと、各地に同じ勅令が来てないか探っておいて」
「「はあ……」」
エステルとホーコンは意図が読み取れなかったが、フィリップの言う通りにして1週間ほど経つと、再び会議を開く。
「農業に力を入れている領地には、同じ勅令書が届いていたみたいですわ」
「やっぱりね~」
「殿下がおっしゃりたいことは、うちがナメられているということでしょうか?」
「うん。そう。他にいいのがあったらそっちを広めようとしてるんだよ。言うなれば、盗品で品評会を勝手にやって国中にバラまくみたいな?」
「腹立たしいことこの上ないですわね……」
エステルの怒りの表情が怖すぎて、同じく怒っているホーコンに宥められていた。
「どうします? 無視し続けますか??」
「いや、嫌味付きで教えてあげて」
「嫌味付き?」
「教えるのですの?」
「ほら? うちって、農業技術は使用料を辺境伯が集めて、それを開発者に払うことにしてるでしょ? 勅令だから渡すけど、使用料はできれば払ってほしいと言っておくんだ。たぶん払えないから、この事実は面白いことになるかもね~」
「あの無意味な空振り込みは、このためでしたの? でも、それがどう面白くなるかは想像もつきませんわ」
「よく考えてみなよ」
フィリップはニヤリと笑う。
「農家って、これから一番儲かる職業でしょ? 僕たちが行動を起こす頃には、皇帝派になびいているはずだ。そこに、技術使用料を一切払ってもらえないと言ったらどうなるかな~? みんな不安になると思わな~い??」
「プッ……自分で自分の首を絞めていますわね。オ~ッホッホッホッホッ」
「本当に……クックックック」
フィリップの悪巧みを聞いたエステルとホーコンは、悪い顔で笑うのであった……
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