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四章 引きこもり皇子、暗躍する
077 フィリップの視察4
しおりを挟むエステルがフィリップと結婚すると言ったら、マルタ・バーリマン男爵令嬢は大反対。挙げ句の果てには泣き出してしまった。
「そんな女癖の悪い男、絶対に結婚も嘘に決まってますよ! もう、エステル様の悲しむ顔を見たくないんですよ~。うぅぅ」
その理由は、エステルがフレドリク皇帝にこっぴどくフラれたことがあるから。エステルは強がってはいたがマルタはそのことに気付いていたから、同じ過ちになると思って反対していたらしい。
「確かに殿下は、女癖は最悪ですわね」
「だったら……」
「でも、それを補うぐらい魅力的な方ですわ」
「え……悪い噂しか聞いたことありませんよ?」
「それは殿下が皇帝陛下に気を遣って、自分の能力をひた隠しにしていたからですわ。実は殿下、陛下より頭がいいのですわよ」
「あの初代様の再来と謳われる皇帝陛下よりもですか!?」
「ええ。それに、殿下のいい噂ならふたつほど聞いたことがありますでしょう?」
エステルの問いにマルタは数秒考えて、「ないないない」と右手を横に振る。
「ボローズ王国とハルム王国を話し合いだけで追い返したって話ですよね? そんなの、嘘に決まってるじゃないですか~」
「わたくし、二度とも現場で見てましてよ」
「……へ??」
「まぁアレを話し合いというには、とんでもなく乱暴でしたけどね。ウフフ」
エステルは笑いながらフィリップの武勇伝を語るが、マルタはついていけていない。
「それに殿下……とっても優しいのですわ。陛下に婚約破棄されて男性不信に陥っていたわたくしを、ゆっくりと関係を縮めながら何ヶ月も待ってくれたのですのよ。あの日結ばれた時、わたくしは天にも昇る気分でしたわ」
それなのに、エステルはノロケまくり。けっこうエグイことまで言っているけど、たぶん貴族の女性の間では普通の会話なんじゃないかと思われる。
マルタも先程までのポカンとした顔から、恋愛映画を見ているような顔になっているから確実だろう。
「あら、いやですわ。自分の話ばかりしていましたわね」
わりと根掘り葉掘り言っていたエステルは、頬を赤らめただけで話をやめると、マルタの顔から「ドバッ!」と涙やらなんやらと流れ出た。
「ど、どうしたのですの? 何か悲しいことがありまして??」
「だっで~。エステルざま、ぼんどうにじあわぜぞうながおをじでまずんでずも~ん。うわ~~~ん」
どうやらエステルが幸せに満ち溢れていたから、マルタの顔から汁という汁が溢れて出るのであったとさ。
それからエステルが宥めてなんとかマルタも汁が止まったら、一時ブレイク。お茶を飲んで落ち着く。
「みっともない姿をお見せしました……」
「そこまでわたくしのことを心配していてくれたのですから、感謝していますわ」
「殿下のことも、悪く言って申し訳ありませんでした。今更ですけど、これって不敬罪に当たるのでは……」
「殿下はその程度で怒ったりしないですわよ。わたくしも面と向かって何度も言ってますが、いつもヘラヘラ笑っていますしね」
「殿下は懐が広い……のですか?」
「そこはわたくしも掴みきれていませんわ。つまらないことで怒ったりしますもの」
フィリップの悪口を言ったのだからマルタは怖くなっていたが、ヘラヘラ笑っているほうが変な気もしているし、気になることもある。
「昨日は、お父様は何度も怒られていましたけど、大丈夫でしょうか?」
「それは……マルタにだけ言っておきますけど、殿下はこれからの作戦に支障が出ないように気を引き締めていただけですの。ですから、男爵のお金の使い方に目を光らせてくれていたら助かりますわ」
「確かにお父様は浪費癖がありますね……わかりました! 何かありましたら、逐一報告いたします!!」
「ええ。頼みましたわよ。マルタの子供の成長も書いてくださいね。楽しみにしていますわ」
「はいっ!」
エステルの結婚、国の行く末の話が終われば、あとは思い出話。2人は夜まで話題が尽きないのであった……
その頃フィリップはというと……
「ねえ? なんでついて来るの??」
「お嬢様から見張るように仰せつかっていますので!!」
1人で町の散策に出たら、ウッラに付け回されていた。
「見張りなんて必要ないよ?」
「私がいなかったら、今ごろ娼館に駆け込んでいましたよね?」
「そうだけど……」
「そこはせめて隠しましょうよ~」
婚約者のエステルではないので、フィリップはいくらでもぶっちゃけられるらしいけど、ウッラは愛人みたいなモノなのだから酷い言いようだ。
「冗談だよ。ぶっちゃけ撒こうと思えばいくらでも撒けたんだからね」
「逃げられたら、私がお嬢様に怒られますよ~」
「だからゆっくり歩いてるんでしょ。たまにはウッラと普通のデートしようと思って。ほら? 手を取って」
「それもお嬢様に悪いです~」
「じゃあ、逃げよっかな~?」
「イジワル……」
フィリップの差し出した手を握り、恋人繋ぎに変わると、しかめっ面をしていたウッラも嬉しそうな顔になる。
それから2人は屋台で買い食いしたり遊戯場で遊んだりして、デートを楽しむのであった……
「休憩ってなんですか!?」
「ちょっとだけ。ちょちょちょ、ちょっとだけだから~」
最後は雑に宿屋に連れ込もうとするフィリップと、それを断れないウッラであったとさ。
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