84 / 142
四章 引きこもり皇子、暗躍する
084 麦の行方
しおりを挟む「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
「オ~ッホッホッホッホッホッホ~」
「わははははは」
ところ変わって、ダンマーク辺境伯領。辺境伯邸では、フィリップの下品な笑い声や、エステルの上品な笑い声、ホーコンの大きな笑い声が聞こえている。
「ね? 言った通りになったでしょ??」
「はい! 過去最高の利益どころではありませんわ!!」
「こんな大金、私も扱ったことありません!!」
この笑いは、全て麦を売って稼いだ利益のせい。正確に言うと、まだ麦も収穫していないし現金も一部しか受け取っていないから数字の羅列だけだが、そのゼロの数が多すぎるから3人の笑いが止まらないのだ。
「しかし、面白い売買方法ですわね。先物取引と約束手形でしたか……まだ収穫も終わっていない物を売買したり、紙一枚で信用するなんて、どちらも怖くないのですの?」
「それを目利きするのが商人と領主でしょ。ま、この領地を見て、麦がないなんて思う人なんていないよ。それに、食糧難が起こると目に見えてるんだよ? 飛び付くって~」
これが、フレドリク皇帝が麦の購入予約をしようとして失敗した真相。ホーコンがフィリップに言われた通り、帝都周辺以外の信用度が高い全ての商人に麦を買わないかと打診したら、競い合うように押し寄せたのだ。
商人としては、食糧危機はチャンス。高く売れるのが目に見えているので、多少のリスクと割高価格は想定内。
第二皇子派閥の領地から約束手形で買い漁り、その中心にある辺境伯領の麦を買う時には自然とオークション形式になったので、例年の3倍の値で売れたのだ。
「これで使った分は、余裕で取り返したでしょ?」
「はっ! 倍は堅いですな。殿下を信じてついて来てよかったです」
「お金儲けのためにやってるんじゃないんだよ? 勝負はここからだ。派閥の者にも、気を引き締めるように言っておいて」
「はっ! 殿下の仰せのままに!!」
ここまでの作戦は、フィリップと初めて会った時に聞かされていた話。しかし現実になってしまっては、ホーコンですら目が金貨になっていたのでフィリップも心配だ。
このこともあって、ホーコンに任せっ放しは怖いと感じたフィリップも筆を取り、手紙を派閥の者に送りつけたのであった。
それからしばらくすると、辺境伯邸には手紙が山のように届いたので、ホーコンとエステルだけでなく辺境伯夫人にも手伝ってもらって精査したら、フィリップを執務室に呼び出した。
「ふぁ~……なんかあった??」
眠そうなフィリップが定位置のソファーに飛び込もうとしたら辺境伯夫人がいたので、隣に腰を下ろして膝枕してもらう。
「何かあったじゃないですわよ。あと、2人とも自然すぎません? どうして膝枕を普通に受け入れているのですの!?」
「いや、僕のお義母さんになる人だし……」
込み入った話の前に、エステルのツッコミ。ホーコンも睨んでいたから、フィリップも辺境伯夫人とはそんな関係にはなっていないと誠心誠意説明していた。辺境伯夫人は、ノリで子供の頭を撫でていたらしい。
でも、その役目は婚約者のエステルにチェンジ。フィリップはエステルに膝枕されたふざけた体勢で報告を聞く。
「まず最初に……派閥の者が怯えているのですが、何をしたのですの?」
「無駄遣いしないように手を打っただけだよ。手紙書いてたでしょ?」
「アレですか……ちなみに内容はなんて書きましたの?」
「たいしたことじゃないよ~」
フィリップはたいしたことじゃないとか言っていたけど、エステルたちからしたら半端ない。
無駄遣いしたら褒美を無くすとかではなく、フィリップ直々に一家全員皆殺しにするとか殴り書きしていたのでは、派閥の者も「ちょっと使いました~!」と、必死の謝罪をしていたのだ。
「そこまでしなくてもよろしいのではなくて?」
「うん。ちょっと言いすぎたね。あとでまた手紙を書くよ」
「……出す前にわたくしに見せるのですわよ?」
「信用ないな~」
派閥の者への謝罪はエステルが添削することで落ち着いたら、次の話はホーコンが変わる。
「皇帝陛下から、派閥の領地に麦を買いたいと書状が届いたそうで、急ぎで指示を仰ぎたいみたいです」
「あ~……って、みんなもうないでしょ?」
「はあ……領地で消費する分と、もしもの時の備蓄しか残っていませんね」
「じゃあ、その通り伝えたらいいんだよ。てか、行動が遅すぎ。アハハハ」
フィリップだけが馬鹿笑いしているので、エステルは不思議に思う。
「ひょっとして、これも筋書き通りですの?」
「まぁね~。いまの帝都は食糧難に陥っているだろうから、早めに確保するのは目に見えていたからね。ちょっと遅かったね~。アハハハ」
「殿下のその先を見通す目、本当に笑えませんわ」
1年前からここまでの計画をしていたのだから、エステルたちはフィリップのことがちょっと怖くなるのであった。
1週間後……
エステルは一通の手紙を持ってフィリップの部屋に入って来た。
「陛下から麦を寄越せと書状が届いているのですけど……」
「おっそ……」
「珍しく予想が外れていますのね」
「これ、えっちゃんが兄貴たちにめちゃくちゃ嫌われているから、悩んだ期間なんじゃない?」
「そ、そんなわけありませんことよ!」
エステルが嫌味を言いながらニヤリと笑うので、フィリップの反撃が炸裂。しかしエステルは認められないと逆ギレするので、フィリップが折れるのであった。
その夜、エステルがけっこうへんこんでいたところを見るに、フレドリク皇帝の手紙が遅れたのは自分のせいだとは薄々気付いていたらしい……
1
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる