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四章 引きこもり皇子、暗躍する

096 フィリップ暗躍6

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「どうします? 追いますか??」
「いい。好きにさせておけ」

 フィリップが北の方向にあっという間に消えてしまっては、副近衛騎士長は無理だと思いつつフレドリクに聞いたら却下されたので、少し安心する。

「お前は、さっきのフィリップが言っていたこと、どう思う?」
「私は、その……」
「いや、なんでもない。今日はここで野営にする。皆を埋葬してやってくれ」
「はっ!」

 フレドリクはフィリップの言葉を思い出し、皇帝就任以来、初めて自信のない顔をしたが、すぐに引き締めて埋葬の指示。副近衛騎士長も皆まで言わず、騎士を使って元奴隷を道の端に運んで土を掘り返す。

「私のせい、か……」

 フレドリクは暗い顔で、ルイーゼの待つ馬車に戻るのであった……


 ところ変わって宿場町。北にダッシュしてフェイントを入れたフィリップは、大回りして太陽が沈んだと同時ぐらいに宿場町に戻って来た。

「あんた!」

 元奴隷のリーダー格の女性ラウラは町の入口にまだ立っていたので、フィリップの影に気付いて小走りで近寄る。

「男たちはどうなったんだい?」
「ダメだった。ゴメンね~」
「そうかい……でも、あんたが謝ることじゃないよ」

 本当はフィリップが本気を出せば3分の1ぐらいは助けられたのだが、元奴隷の鬼気迫る顔を見て出遅れてしまったのだ。
 最後の1人も、仲間が全員死んでしまったのだから本懐を遂げさせてあげようと見殺しにしたので、自然と謝罪の言葉が出たのだろう。

「明日の朝出発すると、たぶん殺した者たちと擦れ違ってしまうんだよね~……」
「あたしたちが仇を取ると思っているのかい?」
「まぁ……人の感情ってのはどう動くかなんかわからないからね。できたら昼に出発してくれない? それだったら、通り過ぎてると思うから」
「あんたがそう言うなら……でも、あたしたちはどこに行けばいいんだい??」
「あ、ボス犬には言ったけど、みんなに言うの忘れてた」

 元奴隷の向かう先は西。しかし、ラウラは帝都に行くものだと思っていたらしい。

「東はめっちゃ治安が悪くなってるから、やめたほうがいいの。いまは西にあるダンマーク辺境伯領が、一番元奴隷に優しい土地だよ」
「そういえば、最初の頃そこに行けと言われて、遠すぎて諦めたんだった」
「いまなら行けるでしょ? たぶん辺境伯領は定員オーバーだから周辺の領地に振り分けられると思うけど、そこもよくしてくれるから安心して。とりあえずアルマル領に着いたら、僕の名前を出してくれたらいいようにしてくれるはずだよ」

 フィリップは行き先を告げたけど、そもそもな話がある。

「あんたの名前って……」
「あ、これも忘れてた。アハハ。僕はエリク。ダンマーク辺境伯の末子、エリク・ダンマークだよ!」
「本当にお貴族様だったのかい……」

 フィリップはドヤ顔で決まったとか思っているけど、それは偽名だ。それでもラウラは感動しているので、フィリップは恥ずかしくなってる。

「ま、無事に辿り着くことを祈っているよ。死なないように頑張ってね」
「はい……このご恩、一生忘れません……うぅ……」
「それじゃあ、さよならだ。バイバ~イ!!」
「ありが…と……」

 ラウラが目に浮かんだ涙を拭うために下を向いたところでフィリップは走り出したので、ラウラが顔を上げた頃には誰もいなかったから、感謝の言葉は止まる。
 そのせいでエリク・ダンマークという人物は、夢か幽霊だったのではないかと考えるようになったらしい……


 宿場町を立ったフィリップは、フレドリクたちに会わないように道を変えて爆走。夜通し走り続け、朝早くに辺境伯邸へと帰って来た。

「ただいま~」
「で……エリク様! すぐにお嬢様を起こして来ますね!!」
「まだ寝てるなら、僕から行くよ。その前にシャワー浴びなきゃ」
「すぐ準備します!!」

 出迎えてくれたウッラを落ち着かせて綺麗になったフィリップは、エステルの部屋の鍵を借りて忍び込む。
 そこにはエステルがスースーと寝息を立てて寝ていたので、フィリップは音を立てずにベッドに潜り込んだ。

 それからフィリップは、エステルの顔を見ながら頭を撫でていると、エステルは幸せそうな顔になり、その10分後ぐらいにゆっくりと目を開けた。

「殿、下……」
「えっちゃん。ただいま」
「本当に、殿下ですの?」
「本物だよ~。寂しい思いさせて悪かったね」
「さ、寂しくなんてなかったですわよ!」
「そうなんだ。僕はえっちゃんに会えなくて寂しかったのにな~」

 フィリップが寂しそうな顔をすると、ツンとしていたエステルはデレる。

「本当はすっごく寂しかったですの……」
「うん。ゴメン。今日からまた毎日一緒にいれるからね」
「はい……お帰りなさいませ……ん……」

 こうして1週間ほど離れ離れとなっていた2人は、その時間を埋めるようにいつまでも愛し合うのであった……
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