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五章 引きこもり皇子、進軍する
100 国盗り開始1
しおりを挟む時はフィリップが手紙を出した次の日……
「おお~。えっちゃん、すっごく綺麗だよ~」
辺境伯邸の一室では、黒い軍服を着たフィリップがエステルを褒め称えていた。
「そうですの? 殿下のデザインしてくれたドレスは、露出が多いから下品ではありません??」
そのエステルの服装は、胸元が開いた黒を基調としたノースリーブドレス。スカートには深いスリットも入っており、エステルのナイスバディが強調されている。
ちなみにこのドレスは、フィリップが仕立屋の主人に大雑把な説明だけしてなんとか作らせた逸品。フィリップの絵は下手だったから、かなり苦労したらしい……
「全然そんなことないよ。めちゃくちゃ似合ってる」
「褒めてもらえるのは嬉しいのですが、これで外を歩くには少し肌寒いですわね」
「ああ~……確かにいまの時期では寒いか。そうだ! いいの持ってた」
フィリップはそのへんにあった袋に左手を突っ込んでから、2着の黒い毛皮のコートを取り出した。もちろん、どちらもアイテムボックスから出て来た物だ。
「僕とお揃い~。よくなくな~い?」
「わたくしでも少し大きくないですか? 殿下には大きすぎますわ」
「これ、自動サイズ調整がついてるから大丈夫。肩からかけてるだけでも落ちないよ」
「はあ……またダンジョンの品ですか……」
「そそ。着てみて。僕も着よっと」
エステルはウッラに袖を通してもらい、フィリップは自分でマントのようにバサッと羽織った。
「わっ。軽くて凄く着心地がいいのですわね。それに暑いと思っていましてたけど、適温ですわ」
「あ、自動温度調整もついてたんだった」
「なんて素晴らしい品ですの……それに触り心地も素晴らしいですわ。これって、何の毛皮を使っていますの?」
「ケルベロスだよ」
「「……」」
今まで笑顔だったエステルとウッラは、素材を聞いてピシッと固まった。
「それより僕はどう? かっこよくな~い??」
「え、ええ。いつにも増して、雄々しく見えますわ……」
「やっぱり~? ニヒヒ」
フィリップも黒を基調とした軍服を着てケルベロスコートをマントのようにしているので、エステルも文句なし。ただし、その評価はケルベロスに引っ張られているみたい。
実はケルベロス、この世界では伝説のモンスターなので、エステルもウッラも思考停止に陥っていたのだ。
そんな感じでフィリップは笑顔でエステルたちが苦笑いしていたら、メイドが準備ができたと呼びに来たので、フィリップは黒いカツラを被ってエステルと腕を組んで部屋を出る。
ちなみにエステルのほうが20センチ以上背が高い上にヒールを履いているので、腕を組むとフィリップが女子側をしているように見える。
ダンスホールに移動すると、ホーコンを筆頭に第二皇子派閥の領主や親類の貴族が整列しており、全てフィリップたちのような黒を基調とした軍服やドレスを着ていた。
「フフン♪ 準備万端だね」
「「「「「はっ!」」」」」
「さあ! 国盗りを開始しようじゃないか!!」
「「「「「おおおお!!」」」」」
こうしてコートを翻すフィリップと腕を組むエステルを先頭に、第二皇子派閥は辺境伯邸を出るのであった。
第二皇子派閥が数台の馬車で揺られてやって来た場所は、町の広場。ここには舞台が設置されており、中央には玉座が置かれている。
その舞台を、重大発表があると知らされた民衆が囲み、舞台に上がるホーコンたちを見詰めていた。
第二皇子派閥の立つ場所は、玉座の左隣にホーコン、エステル、フィリップ。やや離れた場所に派閥の5人と親類が左右に分かれて立った。
そして騎士が静かにするようにと声を掛け、舞台に立つ面々の紹介をすると、人々は領主や貴族の多さに緊張が走る。
最後に紹介されたホーコンは、玉座を隠すように前に出た。
「2年前……そう、あれは2年前だ……」
ホーコンが声を出すと、民衆は固唾を飲んで見守る。
「ある御方が、我が家を訪ねて来た……その御方は、帝国に危機が迫っていると私に教えてくれた。その危機とは、奴隷制度廃止だ」
ホーコンの声は静かだが、どこまでも遠くにまで響き渡っている。
「私はその時こう思った。このままでは帝国の歴史が終わってしまう、と……これは、領主全員がそう思ったはずだ」
ホーコンの問いに、派閥の者は大きく頷いた。
「しかしある御方は、これから起こることを正確に予言していた。収穫量の減少、物価の高騰、死者数。その結果、内乱に突入、他国の侵攻、帝国の滅亡……」
恐ろしい未来予測に、ここに集まる民衆も脳裏にその映像が浮かんだ。
「だがしかし、その御方は私に策を与えてくれた。奴隷の平民化、肥料の改良、農地の開拓、新型馬車の製造、物価対策……さらには危険を省みず、自ら皇帝陛下の勅令書を奪い、我々の態勢を整える時間稼ぎまでしてくださった」
ホーコンは軽く咳払いして続ける。
「ここに集まった者は、皆、私に感謝しているが大間違いだ! 私はその御方の指示に従っていただけだ! その御方とは……」
ボルテージの上がって来たホーコンは声を大きくして、隠していた玉座が見えるように右に避けた。
「我が末子、エリク・ダンマーク!」
その玉座には、黒髪の男の子が足を組んで座っていた。民衆は、何故ホーコンが自分の子供相手にこれほど気を遣っているか不思議に思っている。
「いや……こちらに御座す御方は、前皇帝陛下の第二子、フィリップ殿下であらせられる!!」
ホーコンの紹介と共に、フィリップはカツラを高々と投げ捨てた。
「皆の者、頭が高い。僕は皇族だよ~?」
「「「「「は、はは~……」」」」」
こうして驚く皆に、金髪パーマのフィリップが命令すると、領主たちが跪き、遅れて民衆が次々と土下座するのであった……
「ブッ!?」
その言葉は威厳がないのに皆が必死に従っているので、フィリップの口調の秘密を知っているエステルただ1人が、吹き出して横を向くのであったとさ。
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