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五章 引きこもり皇子、進軍する
124 悪役令嬢の微笑み
しおりを挟む帝国第二皇子フィリップのクーデターから2年……
戴冠式も結婚式も国民に祝福されたフィリップは、数々の改革を行った。
第二皇子派閥の者や、少なからず残っていた善良な領主や貴族を議員に選出して議会を作り、ホーコンをトップに据えて様々な政策や条例を話し合わせ、帝国を盛り上げる。
議員に選ばれた貴族たちからは反発の声はあったけど、それは少数派。大多数は自分たちで帝国を良くしていけると喜んで働いている。
中には、自分の都合のいいようにできると賛成に回る者もいたが、いまのところ上手く行っていないらしい。
ちなみにフィリップから侯爵のチケットを貰っていたアルマル男爵は、ギリギリのところで破り捨てたので議員になっている。プラス、イーダとマルタといった教養のある女性も複数人、議員に選ばれていた。
この議会の声を使って、帝国を分割する州制の導入。州知事にはカイ、ヨーセフ、モンス、善良で知恵のある元領主を任命して、数年後は選挙で決める。
犯罪者の3人を登用しているのは、そこそこ頭がいいからの繋ぎ。競わせて、州を盛り上げさせるのも狙いらしい。カイだけは、頭ではなく腕っ節。国境に近い位置に置いて、睨みを利かせている。
フィリップの命令で3人とも妻を迎えたらしいが、あまり仲は良くないとのこと。まだルイーゼに未練があるらしい。でも、フィリップお墨付きのドエロイ女性を送り込んだから、夜だけは気に入っているらしい……
さらには貴族制度の廃止も話し合っているが、これは秘密裏に。まだ奴隷制度廃止の痛手も残っているから、落ち着いてから本格的にやるとのこと。
まぁフィリップが他国から買い込んだ麦と、フレドリクのやった農地改革のおかげで1年目から豊作だったから、食料価格は例年並みになっているので、思ったより早く取り掛かれる予定だ。
ちなみに、全ての手柄はフィリップの物になっているから、支持率爆上がりしたらしい……
議会は順調に機能しているが、裏から操っているのはフィリップ……と、言いたいところだが、フレドリク。フィリップは大まかな道筋だけ描いて、あとは天才フレドリクに任せているらしい……
そのフレドリクはというと、その頭脳で誰にもそうとは思わせないように議会を操ってくれている。ただし、フィリップは報告だけは必ず受けているので、フレドリクの意志は反映されていない。
これだけ従順に従っている理由は、ルイーゼをフレドリクが独占していることが大きい。この生活になってから一緒にいる時間が増えたから、けっこうフィリップに感謝しているらしい。
ルイーゼは、聖女から失職。表向きは子供が病気で亡くなったから心を病んだとなっているが、本当は神殿の力をフィリップが削いだだけ。
チートすぎるルイーゼがいると、神殿が力を持ちすぎて反乱の可能性があるし、医療の発展を妨げるとフィリップは考えたそうだ。しかし、皇家直属の医療部隊には入っているので、神殿がサジを投げた患者には顔を隠して対応している。
これもフレドリクが担当しているが、フィリップの基準で困窮者の若い親子、子供にしか許していないから出番は少ない。なんなら最近ルイーゼは身籠もったから、もっと少なくなるだろう。子供に会えない寂しさも、改善されたそうだ。
ルイーゼの第一子は、フィリップが信頼している元メイドの元で暮らしている。この女性は後妻で伯爵家に入っており、子供は全員家を離れていたので事情を説明したら二つ返事で了承してくれた。
最初は母親がいないことに泣いていたそうだが、元メイドは子供を産めない体だったからか第一子に愛情を注ぎ込んだので、優しい夫と共に本当の親子のような関係にまでなった。
成人した頃にはフィリップの思った通り、カイに似た青年になったので、その時、事実を伝えたそうだ……
フレドリクや議会に仕事を丸投げしたフィリップはというと……
「おお! 本物のSLだ~~~!!」
皇帝になったのに、蒸気機関車製造に関わっている。1年目は犯罪奴隷に石炭を採掘させながら蒸気機関を鍛冶師に作らせ、2年目についに完成させたのだ。
さらに犯罪奴隷を多く注ぎ込み、線路をダンマーク辺境伯領まで繋げさせ、試乗を兼ねて忙しくしていたホーコンたちの里帰り。この結果には、ほとんど国の仕事をしていなかったフィリップも皆から感謝されていた。
これで物流は活発化。帝国の中央から北と南を繋ぐ線路も急がせるために、一般市民も高い給料で雇ったから、帝国初の好景気にも突入した。
ちなみに、フィリップの女遊びは健在。エステル、カイサ、オーセだけでは足りないのか、時々ホーコンと一緒に娼館に足を運んでいたけど、一般市民に手を出すよりかはマシなので許されている。
たまに変装して1人で夜遊びしてるけど……どうも夜の町には知り合いが多くいるから、様子を見に行ってるだけらしい……本当かどうかはわかりかねる。
あと、辺境伯邸でお世話になっていた時に夜のお世話になっていたウッラは、エステルのメイドとして帝都で暮らして彼氏ができたらしいが、すぐに別れてフィリップの側室になれないかと相談があったらしい。
元よりウッラも側室に入るかどうかの話はあって保留にしていたから、フィリップは快く受け入れていた。どうもウッラは、他の男では満足しない体になっていたんだとか……
早く戦力になれるように、カイサとオーセからテクニックを学んでいるらしい……
最後に、フィリップの妻となったエステルは、フィリップのせいで皇后の仕事もあまりないので、皇帝の名代という権限をもらって議会に顔を出し、話し合いにも参加していたけど、半年後にはお腹が大きくなったので産休。
その4ヶ月後には元気な男の子を出産したので、フィリップも泣くほど喜んだそうだ。前世ではモテない上に仕事漬けで死んだから、自分の子供を残せなかったことは両親に悪いと思っていたらしい。
さらに最近、2人目を身籠もったと聞いたからには、フィリップも何かやましいことを切り上げて寝室に飛び込んだ。
「えっちゃん! おめでたって本当!?」
「ええ。ぜんぜん新婚気分を楽しませてあげられなくて申し訳ありませんわ」
「なに謝ってるんだよ~。僕たちの愛の結晶じゃん」
ベッドで、まだ小さい息子と一緒に寝転んでいるエステルにフィリップは近付き、エステルのお腹に耳を当てる。
「次は女の子がいいな~」
「いえ。もしものために、必ず男の子を産んでみせますわ」
「また~? 女王でもいいって言ってるのに」
「それでもですわ。いくら法律が整っていても、わたくしの代でこの伝統を終わらせたくないのですわ」
「そんなに気張らないで。どんな子供でも絶対かわいいって。2人でいっぱい愛情を注いで育てよう。パパでちゅよ~?」
「そうですわね……でも、まだ聞こえてないと思いますわよ」
子煩悩なフィリップがお腹に向かって声を掛けているので、エステルも少し呆れている。しかし、そんなフィリップがおかしいのか、エステルも柔らかな笑みを浮かべて、のどかな時間が流れるのであった……
「失礼します」
そんなのどかな時間を楽しんでいたら、ホーコンが寝室まで押し掛けて来た。
「あ、お義父さんも来たんだ。2人目だよ~? 絶対かわいいよ~??」
「わはは。それも喜ばしい限りですが、本日は別件で参りました」
「別件? 兄貴から何も聞いてないけど……何かな??」
普段フィリップは、フレドリク以外にはカールスタード学院で一緒に学んだスパイ議員からしか報告を受けていないので、家族の問題か何かと思い浮かべた。
「暗黒騎士団の出発準備が整っております」
「暗黒騎士団? 何その物騒な名前の騎士団……そんなの帝国にいたっけ??」
「陛下肝入りの騎士団ですよ。忠誠心の高い騎士50人をダンジョンに送り込み、60レベルまで上げろと命令しましたよね?」
「僕が?? え……」
ここで嫌な予感がしたフィリップは、ギギギっと首を回してエステルを見たら妖しい笑みを浮かべていた。
「さあ、陛下。大陸制覇の準備が整いましたわ」
「はい? 大陸制覇??」
「初代様の夢を、陛下のその手で叶えるのですわ」
「何その物騒な夢!? 僕、何も知らないよ!?」
「あの日、陛下は言いましたわよね? 平和でのどかな時間を持てるようにすると……そのためには必要なことなのですわ」
急展開について行けないフィリップは、ホーコンに助けを求める目を向けた。
「あの……陛下の命で、他国には宣戦布告をし、帝国全土にも宣伝してしまったので、民もそれはもう盛り上がっておりまして……」
外堀を埋めるなんて、ホーコンが使う手ではない。そしてこの全てを秘密裏にやってのけることができる人物は、名代の権限を与えていた者しかいないと気付いたフィリップは、エステルに向かって怒鳴る。
「はあ!? なにしてくれちゃってんの!?」
「この子たちのためですわ。この子たちの未来のために、蹂躙して来てくださいませ」
「じゅ……蹂躙……」
エステルは子供の頭と自分のお腹を撫でながらなので優しいお母さんのように見えるが、顔は最終兵器フィリップを投入すれば楽勝だと悪い顔で微笑んでいる。
エステルの微笑みを見たフィリップは両膝を突いて叫ぶ。
「やっぱり悪役令嬢なんかと手を組むんじゃなかった~~~~~~……」
おしまい。
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