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一章 夢の中での出会い

01 吉見蒼正1

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 俺は勇者蒼正そうせい。ある日、家でラノベを読んでいたら異世界にある聖王国のお城に召喚された。そこでとても美しい王女様から、魔王の脅威から世界を救ってくれと頼まれて旅に出た。
 そのお供に、背の高くて屈強な女騎士と、巨乳の回復術士。途中で猫耳の女武道家やロリ魔法使いが仲間になり、魔族との戦いに明け暮れる。

 ハーレムパーティ? 見た目はそうだが、俺には使命があるから色恋沙汰に構っている場合では無い。
 まぁ旅の宿や野営では、予期せぬ混浴や着替えを見てしまう。または朝起きたら皆が俺の隣に寝ているハプニングはあったけどね。

 こう言ってはなんだけど、こちらの世界の女性からしたら俺の顔は超イケメンらしく、皆は俺に好意を持っているからその程度はすぐに許してくれる。
 ぶっちゃけ、旅の後半はR指定展開が毎日あって大変だったけど、それも異世界転移の醍醐味だ。

 その後は皆の愛の言葉を受け取り魔王の城に乗り込んで破竹の勢いで進み、四天王も俺の活躍で撃破。魔王も必殺技「アトミックブレイド」で切り裂いてやった。

 そして大団円。凱旋した俺は救世主と民から称えられ、王女様のキスで出迎えられてからの結婚式。ハーレムメンバーとも一緒に過ごしてウハウハな毎日を過ごすのであった……


 ピ……

 ピピ……

 ピピピっとスマホのアラーム音とバイブの振動。蒼正はバタバタと右手を動かし、スマホのアラームをスヌーズにして目を閉じた。
 先程の異世界転移の夢を咀嚼そしゃくしていたら、再びアラーム音が鳴り響き、ゆっくりと体を起こす。

「ふあ~あ……ちょっと欲張り過ぎた夢だったな……」

 あくびと共に背伸びした蒼正はベッドから出ると、ドアを開けて外に。そのままリビングに向かうと、キッチンではいそいそと動いている母親の吉見有紀の姿が目に入った。

「おはよう」
「あ、おはよう。もう出来るからね」
「手伝うよ」
「ありがと~う」

 蒼正は配膳を手伝い、朝食がテーブルに並ぶと有紀は「いただきます」と手を合わせ、蒼正は無言で食べ始める。

「ところでなんだけど……」

 食事を始め、しばらく経った頃に有紀の質問が来たので蒼正は少し顔が強張った。

「アブラカタブラフィニッシュってなに?」
「……はい?」
「部屋で叫んでたでしょ? もしかして……寝言??」
「う、うん。たぶん……まったく記憶にないけど……」
「フフフ。おっきな寝言ね~」

 まさか夢の中で魔王を倒した必殺技が有紀に聞かれていたとは、蒼正は顔が真っ赤。ただ、有紀はそれ以上踏み込んで来なかったので、蒼正は目を伏せて食事を続ける。そんな技名じゃないと思いつつ……

 食事を終えると蒼正は食器を流しに運び、顔を洗ってから目が隠れるほど長い前髪を整える。部屋に戻ると制服に袖を通し、学生鞄には今日の授業で使う物だけを入れて、勉強机にはスマホとサイフを置いて部屋を出た。

「はい。お弁当」
「うん」
「お母さん、今日、遅くなるかも知れ無いから、もしもの時は何か買ってね。連絡するからね」
「うん」

 有紀の言葉にぶっきら棒に返した蒼正は、ゴソゴソとお弁当を鞄に入れて玄関に向かう。

「あ……」
「なに?」
「高校生になってから一ヶ月だけど……友達出来た?」
「うん……いってきます」
「いってらっしゃい……」

 申し訳無さそうに質問する有紀の目から逃れるように、蒼正は早足で家から出て行くのであった……


 マンションから外に出た蒼正は、バスに乗り込むと珍しく座れた事に喜ぶよりも余計な事を考えていた。

 それは過去の出来事……

 蒼正の家は母子家庭。昔は明るく人気のある少年であったが、小五になる前に両親が離婚してから少し内向的になった。しかし、誰にもそんな顔を見せずに学校に通っていたが、中学生になってからは様変わりする。

 イジメだ。始まりは蒼正がイジメられていた訳では無く、イジメられていた男子をかばってから蒼正に飛び火したのだ。

 蒼正も最初は戦っていたのだが、庇った男子に裏切られ、教師からも「片親だから教育がなって無い」と嘘吐き扱いされてからは、戦う気力も無くなった。
 元々両親の離婚から内向的になっていたのだから日に日に暗くなり、イジメもより陰湿になって行く事に。

 ただ、家では強がって明るく振る舞っていたから、有紀が気付いたのは三年生になってから。ズタボロの教科書を見られてしまったのだ。
 その時、蒼正は有紀を心配させまいとイジメられていないと嘘を吐いたが、証拠は目の前にある。有紀に涙ながらに「気付いてあげられなくてゴメンなさい」と言われたからには、蒼正もせきを切ったように涙を流した。

 その後は何度も学校と話し合いをしたが、担任はイジメは無かったの一点張り。騒ぎが大きくなると校長も出て来て穏便に済ませてくれと示談金まで手渡された。
 勿論、有紀は受け取らずに、教育委員会に訴えた。こちらもこちらで何も動いてくれず、業を煮やした有紀は蒼正を学校に預ける事を諦める。

 これが一学期の出来事。残りは全てオンライン塾で高校受験の学力をたくわえ、無事、少し遠くにある公立高校に合格する。
 バス通学になったから移動時間は長くなったが、自分を知る人が居ない高校ならば蒼正も心が軽い。

 しかしバスから降りた蒼正は、足取り重く校門を通り抜けるのであった。


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