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一章 夢の中での出会い

02 吉見蒼正2

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 高校の校門を通った蒼正そうせいは、キョロキョロとはしないが辺りを警戒して歩く。生徒達は眠そうな者も居るが、友達やクラスメイトと合流した者は楽しそうに入り口に向かっている。
 蒼正は下駄箱まで来ると周りをチラチラと見てから、鞄に入れていた上履きに履き替え、外靴はビニール袋に入れてから鞄の中に。

 それから二階に上り、自分のクラスへ。ここは目立た無いように入ると、席の確認。机や椅子を確認して、後ろに誰も居ない事も素早く確認してから席に着いた。

(大した事が起き無いといいな……)

 蒼正は、高校でもイジメられている。残念な事に同じ中学の生徒が一人ここに通っており、イジメられていたと言いふらしてから恰好の的になってしまったのだ。
 だからこそ、校門では足が重くなり、下駄箱や席に着く前には悪戯されていないか慎重な行動になるのだ。

 この事を母親に言うことは、蒼正も悩んでいる。母親は仕事と家事で疲れているはずなのに、学校の揉め事にまで介入したから、過労で倒れたからだ。
 それにそもそも、またイジメられているなんて言い出し難い。高校が始まってからまだ一ヶ月だから、その内飽きるか他のターゲットに移るかも知れ無い。
 担任なんて、信じられ無い。一度羽交い締めにされて殴られてる所を担任は見たのにも関わらず、「遊んでるのか~」とか暢気のんきな事を言いながら逃げて行ったからだ。

 この事もあって、蒼正は我慢する選択をしてしまった。


 一時間目の授業が終わると、うつむく蒼正。二時間目が始まるとホッとする。次の休み時間も少し緊張しながら聞き耳を立てる。

「昨日出た新刊買った?」
「あの俳優カッコイイよね~」
「GPSがズレてるんだって」
「二組の清水君、別れたらしいよ」
「そんな事より、この子、凄くない?」
「帰り、ドーナツ食べに行こっか」

 男子のどうでもいい会話。女子の色恋沙汰がメインの会話。自分の悪口が言われていたら危険信号だったがそれも無くホッとする。
 昼食の時間になると蒼正は気配を消し、鞄を抱えて教室を抜け出した。向かった先は、職員室から丸見えのベンチ。ここが一番、お弁当を食べるには安全地帯なのだ。

 一人メシに慣れている蒼正であったが、誰かに見付かるとお弁当を引っくり返される可能性もあるので急いで食べ、残りの時間は教科書を読みふける。
 そろそろ予鈴が鳴る頃に重たい腰を上げた蒼正は、職員用のトイレで用を済ませる。トイレは密室だから何をされるか分から無いから、クラスメイトが来るような場所は使えないのだ。

 教師にも見られずホッとした蒼正は階段を上り、廊下の端を歩いていると背中に衝撃が走って前のめりに倒れた。

「邪魔。もっと端を歩けよ」

 イジメっ子グループだ。クラスでヒエラルキーのトップに居るグループのやんちゃ担当が、蒼正の背中に体当たりしたのだ。

「ゴ、ゴメンなさい……」

 ここでひとつでも反論すると暴力は増えるのだから、蒼正も謝るしか無い。

「ゴ、ゴメンなちゃい……だってよ」
「似てねぇ~」
「「「「「アハハハハ」」」」」

 それをネタに、笑い合う一同。蒼正は早く教師が来ないかとこけた体勢のままで待ち続ける。その為に時間を調整して戻って来たのだから、思った通りすぐに教師が現れた。

「もう予鈴なってるぞ~。早く教室に入れ~……ん? 倒れている子がいるけど、何かあったのか?」
「何もありませ~ん」
「こけていたから、立たせてあげようとしただけで~す。プププ」

 イジメっ子グループは、蒼正に手を貸す事も無く半笑いで教室に向かう。

「ほら、こけただけなら大丈夫だろ。お前も早く教室に入れ」
「……」

 教師も何かあったとは気付いている癖に気遣う素振りも無いので、蒼正は暗い目で睨んでから無言で立ち上がる。
 まだイジメっ子グループは教室に入らずニヤニヤとこちらを見ているから何も言え無いし、そもそもこの教師は信用に値しないから蒼正は喋りたくも無いのだ。


 今日の所は大した事はされ無かったと胸を撫で下ろす蒼正は、ホームルームが終わると鞄を抱えて足早に教室を出る。そのまま急ぎ足でたった今到着したバスに乗り込んだら、大きな溜め息が出てしまった。
 これは放課後も危険だから。一度バス停で待っている時に、イジメっ子グループに連行されてカツアゲされた事もある。だから貴重品は学校には持って来れ無いし、定期なんかは靴下に入れて手放せ無い。

 家に帰った蒼正はラノベを読んで好きな世界にどっぷりと浸かる。そんな事をしていると母親の有紀から遅くなると連絡があり、もうこんな時間かと近所のスーパーに向かった。
 ここでは中学の元クラスメイトに見付からないように帽子を深く被って、割引シールの貼られたお弁当を買うとすぐに帰宅。

 夕食を済ませて昼に使ったお弁当箱等を洗い、お風呂掃除をして一息吐いていたら母親の有紀が帰宅。有紀は「そんなこといいのに。ありがとう」と声を掛けていたが、蒼正はぶっきら棒に返しただけで自室に戻った。

 お風呂から上がるとまたラノベを読んで時間を潰していた蒼正は、そろそろ寝ようと電気を消してベッドに入った。
 そして今日あった嫌な事を思い出しつつ、今宵の夢にいざなわれるのであった……
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