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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~
200 猫の休日にゃ~
しおりを挟むカミラの探索を開始したわし達は、週三日の仕事の時間をあてて、街や村で聞き込みをして南東の森に入った。だが、探索範囲が広く、なかなか見付からない。
そんな日々を過ごしていたが、今日はお休み。縁側に腰掛け、わしは悩んでいる。
う~ん……働く日にちを増やすか? リータ達も探索の休みの日は、狩りに出ておるし、誘ったらついて来てくれるかな?
いや。わしが言ったら必ずついて来てくれるな。そうなれば、二人が狩りをする理由の邪魔になってしまう。
となると、一人で仕事を増やすか……。これもバレたら、あとから来たかったと言われそうじゃな。
ならば、もうひとつの懸案事項を先にするか。なかなか好転の兆しが見えなかったが、先日手に入った物で解決できるはずじゃ。
そうと決まれば実行じゃ!
まずは土魔法で鉢を作って、土も魔法で入れてしまう。次に買っておいたジャガイモを切り分けて、種芋にする。
実験じゃし、今日は種芋一個を鉢に入れて、残りは次元倉庫に入れておこう。
あとは先日手に入れた物をドボドボ~……こんなもんかな? さて、果報は寝て待てじゃ。やる事も無いし、たまには商業ギルドに顔を出そうかのう。
わしは種芋の入った鉢を縁側の近くに放置すると、家を出て街を歩く。商業ギルドに入ると大勢の商人が居たので、込み合うギルド内を人を掻き分けて移動し、番号札を手に取る。
呼ばれるのはまだ時間が掛かりそうだったので、後ろの椅子に座って受付の順番待ちをしていると、他所の街から来た商人が騒ぎ出し、エンマに首根っこを掴まれ、別室に連れ込まれた。
「にゃ、にゃんですか? 別に向こうでもよかったにゃ~」
「いえ。シラタマさん程のお得意様を、カウンターで取引するわけにはいきません。それにうるさいですし……」
「あの~。最後の言葉は、傷付くから言わにゃいでくれにゃ~」
「あ……声に出てましたか。申し訳ありません」
心の声のつもりじゃったの? 謝っても、もう遅い。ハッキリ聞こえたぞ! うぅ。エンマはそんな風に思っておったのか……いや。初めて会った時も、うるさいと言われていたか……
「それで今日は、どういったご用件なのでしょうか?」
「あ、ああ。口座確認と、宝石がどうにゃったか聞きに来たにゃ」
「わかりました。すぐに資料をご用意しますので、少々お待ちください」
エンマはそう言うと部屋を出る。そのすぐあとに、お茶を持った女性職員が入って来て、テーブルに置いて、わしを撫でてから出て行った。
うん。今日も別の人じゃったな。毎回、違う女性がわしを撫でて行くけど、エンマに独占されていて言い出しづらいのか?
昔はデビルアイなんて呼ばれておったもんな。きっと怖いんじゃろう。
わしが出されたお茶をすすっているとエンマが戻り、テーブルに資料を置くと、わしを抱きかかえて席に着く。
これもいつもの光景じゃけど、流れ作業のようにわしを膝に乗せて、撫で回すな。文句を言ってもやめてくれないんじゃけど、礼儀程度に拒否しておくか。けっして、美人秘書のセクハラが嬉しいわけではない。ホンマホンマ。
「あの~? 降ろして欲しいにゃ~?」
「いえ。先ほど失礼な事を言ってしまったお詫びです」
うん。いつも通りの返しじゃな。これで、断った体を作ったから、リータ達への言い訳になるじゃろう。
まぁ言い訳したところで、怒られるがな。はぁ……
それよりこの分厚い資料を……おおう。また貯金が増えたな。ハンター口座もエライ事になっていたが、商業口座もドンドン増えていく。
項目も増えて、わし一人で管理するのが面倒じゃ。会計士に任せられたら楽なんじゃが、そんな者はこの国には居ないし、ギルドを信用するしかないか。
ひとまず、質問したい事だけしておこう。
「あれから、スプリングの武器の転用は無いかにゃ?」
「ありません。と、言いたいところですが、用途不明で作られる場合もあるので、正確には把握できていませんね」
「まぁ大量生産されて、にゃにかに組み込まれたらわからないからにゃ~」
「ですね。鍛冶職人には、シラタマさんが平和利用して欲しい旨は伝えているので、裏切らないと信じましょう」
「そうだにゃ。それで、宝石はどうなったにゃ?」
「オークションで売れましたので、価格は資料通りとなっています。7ページ目に書いていますよ」
さすが出来る秘書は違うな。こんなに分厚い資料のページまで把握しておるとは。どれどれ……予想はしておったが、高いな。街で見た、一番高い魔道具の三倍はある。まだ加工前でこれだと、ハンターでも手が出せないんじゃないか?
「これって高過ぎにゃい?」
「オークションですからね。初物でもあり、盛り上がってしまいました。それに、このカット。芸術品としても素晴らしいですからね」
「それでも、高過ぎるにゃ~」
「そのうち落ち着きますよ。研究者がどうやら、見分ける術を見付けたみたいですので、数が増えれば、しだいに値が下がると思います」
「そうにゃの? それって、どうやるにゃ?」
「シラタマさんが発見者なのでお教えしますが、他言無用でお願いしますね?」
「わかったにゃ」
「魔道具の中には、魔力を見る事が出来る物があるのです。このメガネのレンズみたいな形です。それで宝石を見ると、僅ながらですが、魔力が見て取れたのです」
「にゃるほど」
僅かに見えるか……わしがうっすら気付いたって事は、わしの目が魔力に敏感なのかな? リータとは違う方法で気付いたって事じゃな。
「カット技術はどうなったにゃ?」
「それもシラタマさんのおかげで、順調に進んでいるみたいです。これからの宝石のカットは、ラウンドブリリアントカットが流行りそうですから、皆、身に付けようと必死になっていますよ」
「ふ~ん」
「こちらも技術使用料が発生しますので、シラタマさんの口座に振り込んでおります。23ページです」
「にゃ? そんにゃ手続きしていないにゃ~。さすがに、こんにゃ事でお金にゃんて受け取れないにゃ~」
「シラタマさんはそう言うと思って、勝手に手続きをさせていただきました」
「にゃんでそんにゃ事を……」
「我々商業ギルド一同は、シラタマさんに感謝しているからですよ。シラタマさんのおかげで、新しい収入源が増え、他国からも多くの発注を受ける事が出来ましたからね」
ああ。馬車も飛ぶように売れて、製造が追い付かないと聞いていたな。ほとんど元の世界の知識で気が引けるんじゃが……
「それに白い巨象の皮も、買い付けが多くて助かっています。今日も多くの商人が買いに来ていますからね」
「にゃ? それって城に卸したから、城で使ってるんじゃにゃいの?」
「かなりの量がありましたので、城では加工が追い付かないらしく、こちらに回って来ました。加工した物の半数を、代金として城に納める手筈となっております」
ふ~ん。官民一体って感じじゃな。ちょっとした公共事業になっておる。
「それって、わしも買えるにゃ?」
「シラタマさんが防具なんて珍しいですね」
「リータとメイバイに買ってあげたいにゃ」
「なるほど……でしたら、フレヤさんのお店に素材を持ち込んでみてはどうでしょうか?」
「フレヤでも出来るにゃ?」
「昔は防具を販売していたお店で修行していましたからね。多少は出来るはずです。巨象の皮は加工が難しいですが、シラタマさんと協力すれば、なんとかなると思いますよ。それに今はどこも手一杯なので、手に入れるには時間が掛かりますしね」
フレヤには、そんな過去があったのか。そう言えば、リータに丈夫な服を選んでくれと頼んだ時の服は、所々硬い素材を使っていたな。防具としての機能が付いていたのかもしれんな。
「わかったにゃ。これから相談してみるにゃ……そろそろ降ろしてくれにゃいかにゃ?」
「え? あ……まだお茶が残っていますよ?」
「もう十分撫でたにゃ~~~」
こうしてわしは、撫で続けるエンマから逃げ出し、商業ギルドをあとにして、次の目的地、フレヤの仕立て屋にお邪魔する。
「邪魔するにゃ~」
「あれ? 猫君は、今日、来る日だったっけ?」
「いや。今日は別件にゃ」
「そうなんだ。でも、いまから出るところだったのよね~。急ぎの用事?」
「急ぎではないにゃ。フレヤが忙しいみたいにゃら、また今度にするにゃ」
「ああ。忙しいってわけじゃないよ。休憩がてら、ガウリカの店に行こうと思っていたの」
「あ、もうお昼にゃ。それにゃらわしも付き合うにゃ~」
「じゃあ、一緒に行こっか」
フレヤは戸締まりをすると、わしを抱きかかえて歩き出す。
「にゃあにゃあ?」
「どうしたの?」
「歩きたいんにゃけど……」
「え~! この季節は寒いから堪えるのよ。だから抱かせてよ~」
「それにゃら服をいっぱい着ればいいにゃ~。お店にもいっぱいあったにゃ~」
「お洒落は我慢よ!」
「我慢できてないにゃ~!」
こうしてわしは、フレヤのホッカイロとして活躍し、ガウリカの店にそのまま連れ込まれた。
「来たよ~」
「いらっしゃい。そろそろ来る頃かと思っていたよ。いつものでいいか?」
「ええ。すぐに食べられるから助かるわ~」
いつものやつか……フレヤは常連さんなんじゃな。何が出て来るかわからんが、時間が掛からないのなら、わしもそれにしよっと。
「じゃあ、わしもそれでいいにゃ」
「わ! 猫だったのか!!」
「にゃんで驚くにゃ~!」
「すまない。たまにぬいぐるみを抱いて来るから、てっきりぬいぐるみだと思っていたよ」
まったく失礼な奴じゃ。わしのどこがぬいぐるみなんじゃ? 見た目か? いや、フレヤが普及させたせいじゃ! けっしてわしの見た目のせいじゃないはずじゃ!
わしはフレヤに抱っこされたまま、ガウリカの案内で店の奥に行き、食事が運ばれるのを待つ。
う~ん……久し振りに店に来たけど、なんでわしのぬいぐるみが棚に置いてあったんじゃ? しかも、猫型のぬいぐるみまであった。いつの間に作ったんじゃろ?
元の姿は測られた事は無かったはずなんじゃが、大きさが一緒じゃ……あ! そう言えば、猫型で寝ている時に目覚めたら、メジャーを持ったフレヤとリータ達の姿があった時があった。
何してたか聞いても教えてくれなかったのは、ぬいぐるみの為じゃったのか? 帰ったら、家の中を探してみよう。必ずぬいぐるみが出てくるはずじゃ!
わしはフレヤの膝に乗せられてゴロゴロ言っていると、ガウリカが料理を運んで来た。
「お待たせ」
「「いただきにゃす」」
「……食べられないにゃ~」
「あ……あははは」
フレヤはわしの言葉に、ようやく抱きかかえるのをやめ、隣の席に座らせてくれた。そこでカレーを食べ始める。
「いつものやつって、クスクスなんだにゃ。やっぱり美味しいにゃ~」
わしが感想を言いながら食べていると、ガウリカがテーブルにコップを置きながら会話に入る。
「ああ。前に食べたいって言ってただろ? 手間が掛かるから数量限定で出しているんだ」
「また手広くやってるんだにゃ」
「探り探りだからな」
「ぬいぐるみも売る気にゃの?」
「アレは売り物じゃない。ビーダールから送ってもらった物が、思ったより早く無くなってしまってな。フレヤに頼んで、棚がスカスカになったのを埋めているだけだ」
ホッ。ただの穴埋めか。これなら、猫型ぬいぐるみも出回る事もないか。
「買いたいって人がいるけど、売り物にすると孤児院の邪魔になるからな。売るわけにもいかないよ」
「にゃんですと?」
「孤児院で売ってるのは知ってるだろ?」
「人型のほうは知ってるにゃ……」
わしは信じられない物を見る目で、フレヤを見る。
「猫型も大人気だよ~」
「にゃ……」
「「にゃ?」」
「にゃんでにゃ~~~!」
猫型ぬいぐるみは、どうやらわしが寝ている間にリータとメイバイが勝手にサインして、特許申請をかけたとのこと。
後日、何か変な物を勝手に作られていないか、分厚い資料と格闘する事になったのは言うまでもない。
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